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初めまして

 人の魂を肉体から切り離し、あの世へ連れていく者を死神と呼ぶ。

 だが、彼らは何も無差別に魂を狩っているわけではない。

 人間には必ず寿命というものがある、それは産まれたときからほぼ決まっていてその頃になると死神はとり憑くのだ。

 しかし、ここに一人死神として生まれ落ちてから一度も魂を狩ったことのない死神がいた。

 漆黒の髪に赤い瞳、その身に纏っているのは黒いローブ。

 彼の名はサン

 魂を狩れない、所謂落ちこぼれであった。



 サンは今非常に崖っぷちであった。

 何故ならお偉いさんから直々に手紙が送られてきたのだ。内容は今度の依頼をこなせなければクビにする、という内容だった。

 それを見た瞬間、サンの体からは血の気がひいた。


 「どうしよう……」

 「何が?」

 「うわ!びっくりした、何だ、ハンナか」

 「何だって何よ!」


 ハンナはサンと同じ死神の女性である。長い金色の髪をサイドテールにして結んでいる同期の死神だった。

 ハンナはサンの持っている紙を見て大きな青い目をさらに大きくさせた。


 「何これ?」

 「……俺、今度の仕事で魂を取れなかったらクビになるんだよね」

 「クビって……ていうか、何であんたそんなに落ち着いてるの」


 クビになってしまうかもしれないというのにサンは不思議と慌てることもなく落ち着いていた。

 そんな様子を見てハンナは眉根を寄せる。


 「もっと深刻に考えなさいよ!」

 「分かってるよ」

 「本当に?」

 「うん、クビにはなりたくないからね。じゃあ、そろそろ行くよ」

 「いってらっしゃい」


 サンは下界へ向かうためにそこに通じる門がある場所へと向かった。


 無骨で大きく古いドアは完全に下界と冥界を隔絶していることを表している。

 門番に仕事に行くことを伝えて門を開けてもらう。

 大きな軋んだ音をたてて扉が開いた。

 そこから下界へとゆっくり降りていく。

 この仕事ができなければサンはクビになる、そう自身に言い聞かせるもあまり緊張感は湧かなかった。


 伝えられた住所まで徒歩で移動する。

 歩いて十分程度である場所についた。

 

 「病院か」


 病院には多くの病気の人間がいる。

 最も死を身近に感じる場所ではないだろうか。

 中には入ると病院独特の薬品の臭いが鼻についた、サンはこの臭いが苦手であった。

 憂鬱な気分で目的の人間の元へと向かう、名前は生田いくたメル、まだ十二才という年若い少女だった。それが今回の憂鬱の最も大きな原因である。

 だって、まだ死ぬには早い年齢だろう。まだ生きたいだろう、やりたいことだってあるだろう。

 幼い人間を狩るとき、大抵の死神は辛いと嘆く。

 もちろん、それはサンも同じである。


 「ここか……」


 小児病棟の一室、名前は生田メルの名前しかない、個室なのだろう。

 少女の余命は後一週間だ。

 意を決してサンは扉を開けた。


 「……誰ですか?」


 寝たきりのまま、生田メルは顔だけをこちらに向けて言った。

 栗毛のふわふわとした髪に二重の大きな目、肌は雪のように白く日の光に当たると溶けてしまいそうである。

 そうだ、今まであまり仕事に行っていなかったので忘れていた。死期の近い人間にははっきりと死神の姿が見えてしまうことを。


 「何でそんな変な格好をしているんですか?」


 小さく笑いながらそう言われてサンは少し恥ずかしくなる。


 「これは俺なりの正装なんだよ」

 「へー、よくわかんないけどまあいいです」


 色素の薄い茶色の瞳が僕を見つめる、興味深げな視線である。


 「な、何?」

 「……もしかして、死神さんですか?」

 「う……な、何でそう思うの?」

 「本で見た格好と同じだもの」


 そう言ってメルは一冊の本を取り出して、挿し絵のページをサンの目の前に突きつけた。

 そのページには真っ黒いローブを着て、大きな鎌を持って立っている確かに死神の格好をしているものだった。


 「ね、似てるでしょ?死神さん」

 「……そうだね、隠しても無駄だと思うからばらすけれど」

 「死神さんが来たということは私はもう長くないのですかね」


 この少女は幼いのに何もかも知っていると言わんばかりで、嘘の苦手なサンは戸惑った。その様子を肯定と受け取ったのかメルは少し表情を陰らせた。


 「そうか、とうとう死んじゃうんですね、私」

 「……一週間あるから、それまでにやりたいことした方がいいよ」

 「お気遣いありがとうございます、では、早速お願いしましょう」

 「は?」


 にっこりと笑ってメルは言う。


 「死神さん、私と友達になってください」

 「え?」

 「私、入院生活ばっかりで友達がまともにできたことがないんです。だから、私の最初で最後の友達になってください」


 そんなことを言われては断れないだろう。


 「いいよ」

 「ふふ、やった。お願いしますね。あ、名前教えてください」

 「サンだ」

 「サンさんですか」

 「言いにくそうだからサンでいいよ?」

 「分かりました、サン」


 こうしてサンはメルの余命一週間という短い時間を友達として過ごすこととなったのだった。









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