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番外編 ママになった日、パパになった日 5

ある休日の午後。

あいりが遊び疲れて寝てしまうと、急に静かになる。

やんちゃな時は「早くお昼寝して!」って思うけど、いざ寝てしまうと静かすぎてちょっとさみしく感じたりして。おかしいの。

そおっとほっぺをつつく。柔らかくてぷくぷくで可愛い。

ユウもくすくす笑って反対側のほっぺをつついている。


「ねえ、マナ。僕、自分の子どもがこんなに可愛いものだなんて思わなかったよ。本当に」

「うん。私も」


「あいりは可愛い、僕とマナの宝物だね。

僕はこれから、マナと一緒に、あいりをいっぱいいっぱい愛して、育ててやりたいって思ってる」

「うん」

ユウの手が伸びてきて、私の頬を撫でる。


「でも・・・。やっぱり、一番愛してるのは、マナだから。

それは忘れないで欲しい」

「いちばん・・」

「家族の基本はやっぱり夫婦だと思う。夫婦が仲良くずうっといることで、子どもも安心して育っていけると思うから」


ユウはよっと腰を上げて、あいりのそばから私の横に移動してきた。



「僕は絶対にマナを置いて死なない。死にたくない。マナも絶対に、死なないでね。・・・僕を一人にしないで」

ユウは縋るような目で私を見た。私はユウの手をしっかり握って「うん」と頷く。


私の母は父を亡くしてなかったら私を虐待しなかったかもしれない。

ユウのお父さんも、優香さんを亡くしてなかったら再婚をすることもなかった。ユウがお母さんに憎まれることも。

今更そんなことを言っても仕方ないけど。

伴侶を無くしたショックがどれほど大きかったか、愛しいひとを持った今ならわかる。

私だって、今ユウが死んでしまったらなんて考えただけでも恐ろしい。



「あいりがお腹にいた時、マナはすごく慎重になったよね。危険を避けたり注意したり。

僕はあいりにすごく感謝したんだ。マナの意識を変えてくれてありがとうって。でもあいりが産まれて、またマナが前みたいに無茶するんじゃないかと思うと心配だよ。

・・・そうだなあ。すぐにでも二人目、作っちゃおっか」

「え!? 」

びっくりしてユウを見ると、ユウはぷっと吹き出した。

「ウソウソ。さすがにそれは冗談だけど。でも、本当に・・心配なんだ。マナ。

自分を大事にして。マナはあいりのママで、僕のたったひとりの奥さんなんだからね」


「うん。ユウも。お仕事、危険なこともあるから」

ユウは役場の職員だけど、若いから村中を走り回って仕事してる。橋を直したり看板を立てたり、山の水道管を見たり、屋根に穴が空いたお年寄りの人のお家に行って直したりもする。困った人を助ける何でも屋さんなんだそうだ。


「屋根、登る時、落ちないように気をつけて。夏は熱中症で倒れないようにね。電化製品の修理とか、感電しない? 橋の補修も川に落ちたりしない? 山に入って、熊に会ったらどうやって逃げるの?」


一つ二つ口にしたら、今まで思ってたことがどんどん出てきて止まらなくなった。

ユウは驚いて目を丸くしてる。


「ま、マナ。この辺の山には熊はいないよ。高いところに登る時には、ちゃんと体に命綱をつけてるし。修理も簡単なやつしか僕には任されないよ。

・・・そんなに心配してくれてたんだね」


驚いてる。確かに、今まで思ってても口にしたことなかったから。


なんだか恥ずかしくなって俯いた。

「ユウは何でもできるし器用だから心配いらないって分かってるけど。ごめんね」

「ううん。気にかけてくれて嬉しいよ。ありがとう。でも心配いらないよ。

歳をとると椅子に座っての仕事ばかりになるそうだしね」

ユウは少し照れ臭そうに笑った。





「今夜は月が綺麗だね。ほら、マナ」

手を引いて立たせてもらって、二人で縁側に出る。

星がきれいで、月も眩しいくらいに光っている。



「・・・マナ。子どもが大きくなって手を離れたら、また二人でのんびり過ごそう。

しばらくはバタバタ忙しくて大変な日々が続くけど、十何年もすれば親が手を掛けてやることもなくなるよ。

その時には今の慌ただしかった赤ちゃん時代を懐かしく思うんだろうな」

まるで今がその何十年後みたいに、懐かしそうにユウは言う。

月を眺めながら。


「ユウは昔から、そうね。ずっと未来までちゃんと見てる」

「マナといるからだよ。何十年後の未来も楽しみだって想像できるのは」


「ありがとう。私も・・・、おじいちゃんとおばあちゃんになっても仲良く手を繋いでいたいな」

「いいね。そうしよう」

縁側で並んで座って、手を繋いで月を見た。

目が合うと、キス。そして笑い合う。

こんな穏やかな時間が何十年後か後にも訪れたらいいな。




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