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番外編 ママになった日、パパになった日 3

そして、その後、私は人生初の出産をした。


あんなにすごいものだとは思わなかった。

継続的に襲ってくる痛みに耐え、出産時にはあり得ないくらいの痛みだった。

ユウはずっと手を握り、背中をさすり声をかけてくれた。

おばあちゃんも、ユキちゃんも。

女は耐えられる。そういう身体の作りになってんだから!ってユキちゃんが言ってた。ユキちゃんはもうとっくに二人目の男の子を産んでる。

その時も辛そうだったけど、それを見せてもらってたから、こういうものなんだって覚悟してきた。

けど、こんなに痛いなんて。



何時間もかけて、ついに、赤ちゃんが産声をあげた。

おばあちゃんも喜びの声を上げる。

「産まれたぞ、まなみ!」

「元気な女の子じゃ!! べっぴんさんじゃぞー」

山城先生が産まれたての赤ちゃんを見えるように掲げてくれる。

しわくちゃの真っ赤な顔。ふぎゃあと泣く声に、私も涙が出た。


おばあちゃんが産湯できれいにしてくれた赤ちゃんを、ユウが大事に抱えて私の枕元に連れてきてくれた。


「ほーら、ママだよ」

「・・・わ、ちぃさい」

手も指も爪も、嘘みたいに小さい。でも、ふえふえと泣いて、一生懸命生きていることを主張している。

ああ、なんて、かわいいんだろう。


「ありがとう、マナ。本当に、ありがとう」

赤ちゃん越しに私の頬を撫でるユウの指。ぐしゃぐしゃになった私の髪を耳に掛けてくれる。


「うん、・・ユウ。パパだよ」

「マナも、ママだよ」

「・・うん」

ママになった。私が、この子のお母さん。

「かわいい・・」

「うん、可愛いね」



「名前は、決めておるんじゃろ? 何じゃ?」

おばあちゃんが聞いたので、ユウは私ににっこり笑いかけ、鞄から紙を取り出し広げた。


「いっぱい、愛してあげたいから。やわらく、平仮名で『あいり』って名前にしようと思うんだ」

「あいりちゃん、ね! いいじゃん!! かっわいいー!」

ユキちゃんが、何時の間にか入って来たモモちゃんを抱っこして、あいりを覗き込む。

モモちゃんは小さい手で恐る恐るちょんと触って「ちいさいねー、かわいいねえー」を連呼してる。

ユキちゃんは私の額をタオルで拭いて、髪を櫛で整えてくれた。


「おつかれ、まなみ。ママになった感想はどお? すごいヤバかったでしょ?」

「・・・うん、すごかった」

「なのに、次の子はいつにしよっかな、なんてことをすぐ考えれちゃうんだから、女って本当に神秘よね!」

「ふふふ。そうかも」

「まあ、とにかく、今は感動に浸ってよ。

モモはお姉さんぶって世話焼きにくるだろうし、うちの哲矢と同い年だから仲良くしてやってよねー、あいり」

ユキちゃんは赤ちゃんのほっぺをつんつんつつきながらウシシと笑う。モモちゃんも真似をするのがおかしくて皆で笑った。


「さて。みんな心配してるし、産まれたぞーって言ってくるわ。きっと押し寄せてくるだろうから、覚悟しときなさいよー」

ユキちゃんとおばあちゃんと山城先生は、バタバタと慌ただしく部屋を出て行った。





いっぱい泣いて疲れたのか赤ちゃんは眠っている。

「・・・かわいい」

「本当にね。マナに似て美人になりそうだなあ。あいりは」

「ふふ。ユウに似てる。鼻とか、目とか」

「えー? 絶対マナだよ。ほら、この睫毛の長い感じ。あ。指は僕かな」


二人で、間に眠るあいりを眺めた。

「父さん、孫の顔見に来るって言ってたから、電話しないとな」

「うん。私も・・いつか、お母さんに見てもらいたいな」

「そうだね」



・・・お母さんは、こんなに大変な思いをして、私を産んでくれたんだ。

そして、『愛美』なんて素敵な名前をくれた。


「ありがとう・・」


お母さんに手紙を書こう。

あいりの写真を撮って、一緒にいれて。

私を産んでくれてありがとうって、そう書こう。


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