番外編 ママになった日、パパになった日 1
ユウとまなみの結婚後のお話です。
どうぞ(*^_^*)
「マナ。ほら、重いもの持っちゃダメだって言ったでしょ」
本を読んでいたはずなのに何時の間にそばに来たのか、ユウがするりと私の手からバケツを取っていった。
「ユウ、心配しすぎだよ。バケツ一杯くらい」
私がそう言うと、ユウはムッと口を尖らせる。
「マナには心配し過ぎなくらいでちょうどいいんだよ」
ユウはバケツを運ぶと、私のお腹に大きな手を当ててそっと撫でる。
「今は大事な時なんだから」
「うん、それは・・、そうなんだけど」
まだぺったんこのお腹の中には、私とユウとの赤ちゃんが入っているんだという。
先月まではつわりもあったけど、もう普通に動けるようになった。
妊娠四ヶ月の現在、まだ、正直あまり実感がわかない。
信じられない。
私が、・・・母親になるなんて。
「男の子かな、女の子かな。マナ、名前は何にしようか」
ユウは嬉しそう。
毎日、お腹を撫でては話しかけてくれる。
つわりが一番酷かった最初の二週間は、胃腸風邪みたいに吐き続けて寝込んでしまったので、それ以来ユウはものすごく心配性になってしまった。
家事をしている私が気になるみたいで、ちらちらとこっちを見ては、すぐに飛んできて私の持っているものを持ってくれたり、休むように言ってくれる。
安定期に入るまでは流産の恐れもあるから慎重にしないといけないらしい。
おばあちゃんは私の不調が妊娠によるものだとすぐに気づいた。
「亀の甲より年の功じゃ。わしに任しとき」と笑って、あれこれ教えてくれる。
つわりで食欲が落ちた時も酸っぱいものやさっぱりしたものを出してくれた。
本当におばあちゃんの存在は心強い。
診察の時には毎回、私よりも熱心に妊娠中毒症のこととか気をつけることとか、ユウが質問しまくるので山城先生はゲラゲラと笑う。
「どっちが妊婦なんだかわからんな」
「だって、山じい、マナは自分のことにはホント無頓着なんだもん。
僕がストップかけないと普通に畑とか行きそうだよ」
「ははは。まあな、愛美。もうちっとの間は無理せんほうがいいのは確かじゃ。
ユウの言う通りに大人しくしとりゃいい。まあ、ちいと過保護すぎるが、ユウがお前さんに甘いのは今に始まったことじゃないからのう。あまえとけ、あまえとけ」
なんて山城先生が言うもんだから、ますますユウは私に甘くなっていく。
ご飯の支度をしたいのに、座布団に座ってじっとしてるように言われた。
奥の台所ではおばあちゃんとユウが忙しく動き回ってる。
つわりが落ち着いてもう気分が悪いわけでもないのに、ただ座っているのは申し訳なくて居心地が悪いんだけど・・・。
せっかく私のために気を遣ってもらってるのにこんな気分になっちゃうなんて、私って本当にダメだなあ。
遊びに来てくれたユキちゃんに相談すると、ケーキの乗ったお皿を渡しながら呆れ顔をされた。
「なーに言ってんのよ。まなみ。ゆっくりしていいって言ってんだから、ゆーっくりすればいいのよ」
「うん、そうなんだけど、ね」
「まあ、まなみらしいわ。でもね、そんな風に思ってるのもあとちょっとよ。
安定期に入ったら普通に動けるし、こーんなふうにお腹がどんどんでっかくなっても動かなきゃなんないから大変よぉー」
ユキちゃんは自分のお腹をぽんぽん叩いてにかっと笑う。
まあるいスイカのように膨らんだお腹の中には、ユキちゃんと銀太君の二人目の赤ちゃんが入ってる。
こんなに大きくなるなんて、前にも見てるのに不思議でたまらない。
「ね、ユキちゃん。触ってもいい?」
「もっちろんよ。撫でてやって」
そっと触れる。思ったより張りがあって、お腹はしっかりしてる。
この中に、赤ちゃんが。
ぽこん、とお腹が揺れた。
「わ」
「あは。ちびすけ、元気ねえ」
ユキちゃんはくすぐったそうに笑って、私のぺったんこのお腹に同じように手を当てた。
「まなみの中にもいるのよー、赤ちゃんが。
不思議よね。自分の中に、別の命があるなんてさあ。
・・ふふ。女の特権なのよ。男にはどう頑張ったって出来ない芸当なんだから。
動けなくて悪いなんて思うことないの。大事な命のお守りしてんだから。大役よ」
にっと笑うユキちゃんは、誇らしげでカッコ良い。
「ままー」と飛びついて来た一歳の娘のモモちゃんをひょいっと抱きかかえて、すっかりママの顔をしてる。
私もユキちゃんみたいなママに・・なれるんだろうか。
二人で話し合って、そろそろ子どもが欲しいねって決めたのに、私・・ちっとも気持ちが追いついてない。
喜びよりも、不安が大きくて。
私がこんなんじゃ、いけないのに。
「マナ」
お布団で眠る時、前より慎重に抱きしめられる。
そっと壊れものを扱うみたいに優しく包むユウの腕。
「妊娠中は精神的にも不安定になるんだって。仕方ないよ。すごすぎることだもん」
「ユウ・・」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」
抱きしめたまま頭を撫でてくれる。訳もわからず涙が溢れた。
両腕を伸ばしてユウの体に抱きつく。
まだお腹は大きくなってないから、思いっきり体をすり寄せ、ユウの体温を感じた。