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53 ショッピングとスカウト

次の日の朝は六時の始発バスに乗るため、五時に起きた。

洗濯物を干しておばあちゃんの朝ごはんとお昼のお弁当、夕飯の肉ジャガを作っておいた。

五時半に起きてきたおばあちゃんは、わしのことは自分でやるのに、と苦笑した。

三人でお仏壇に参って、家を出る。


まだ六時前だというのに畑に向かう人と何人もすれ違う。

村中のみんなが私達が今日東京に行くことを知っているので、行ってらっしゃいと声を掛けてくれる。

まるで修学旅行に行くみたいだとユウは笑いながら手を振った。

ゆきちゃんは朝からすごいご機嫌で、憧れているモデルさんの話とか、好きな

ブランドの服の話とかどんどんしてくれて、バスの中は賑やかだ。

それとは対称的に朝が弱いらしい銀太くんは、バスに乗り込むとすぐにぐーぐー眠ってしまった。


電車に乗る前に朝ごはんのお弁当を買う。

向かい合って座る席でみんなでいっせーのーで、とお弁当を広げた。

私のは甘酢ダレの肉団子が入っていてとても美味しそうだ。

どれから食べようか悩んでいたら横からにゅっと箸が伸びてきて私の肉団子が二つ、 逃げて行った。

はっと顔を上げると、にんまり笑うゆきちゃん。

「いただきー!」

「はは。かえっこかえっこ」

「やだ、まなみ。悲しそうな顔しないの。ほら、エビフライよー」

二人から、鳥の空揚げとエビフライが私のお弁当箱に入れられた。

一気に私のお弁当は豪華になった。こういうのも旅の楽しさなんだ。



東京に着いたのは十時頃。

電車から降りた銀太くんはよく寝たと言わんばかりに大きな伸びをして、ゆきちゃんに小突かれていた。


「さあ、さっそく行くわよ、渋谷に! ユウ兄、よろしくぅ!」

「はいはい、駅で叫ばない。目立つから」


そして渋谷。ルンルンのゆきちゃんが先頭に立って、まずはお買い物することになった。


「ゆっこ、皆にお土産も買うんじゃ。服やら鞄は買い過ぎるなよ」

「わかってるってば。あたし、今日のためにお金貯めてきたんだから。

きゃー! 行くわよ、まなみ! 最高に可愛い服、見つけるんだから!」


銀太くんを撥ね除けて、ゆきちゃんは私の手を取り、すごい勢いで手を引っ張って行く。

後ろを振り返ると、がんばってね、とひらひら手を振りながら苦笑しているユウ。


ゆきちゃんは水を得た魚のように生き生きしてた。

これ可愛い、こっちも素敵と手にとっては鏡の前の自分に当ててまた棚に戻す。

今年はどんなのが流行なのかとか、自分にはどういうタイプが似合うのかとか、お店の人ともたくさんおしゃべりしてた。

私はいいよって言ってるのに、どんどん私にも服を持って来てくれるから、困ってしまった。

いろんなお店で試着も何枚かさせてもらって、見せ合いっこをする。

カーテンを開けたら目の前にユウがいた時はすごく驚いてしまった。

可愛い可愛いと褒めてくれるので恥ずかしかったけど、すごく嬉しかった。

銀太くんは何も言わずにお店の外で仁王立ちして待っていたんだけど、

ゆきちゃんが胸元が大きく開いたセクシーな服を試着した時には、そんなのは許さん! と銀太くんが飛んでやって来ておかしかった。



ゆきちゃんは服を五着、靴を一つ買って大満足な笑顔で、次はスカウトされる

ために大通りを歩くわ!と宣言した。

買ったばかりの服を早速着て、お店で仲良くなった店員のお姉さんにお化粧と髪のセットの仕方を教えてもらって、ゆきちゃんはますます綺麗になった。


大通りに着くと、すごいたくさんの人が歩いている。

女の人にスーツ姿の男の人が声を掛けているのがおそらくスカウトだと、ゆきちゃんが熱心に教えてくれた。

男連れでいても声なんか掛けてもらえないから一人で行くわ、と意気勇んでゆきちゃんはヒールをカツカツ鳴らして歩いて行った。

私達三人は陰から見ていることにした。

すぐにスーツ姿の男の人が近寄って行って、何やら話しかけていた。


「わ。ゆきちゃん、すごい」

「まあ、美人だからな」

「・・・

銀太くんは無言でただ見ている。怒っているのか、静かなのがすごくコワイ。

ゆきちゃんがシッシと追い払うような仕草を見せてその男の人は頭を掻きながら退散して行った。

ほっとしたのも束の間、またすぐに横からカラフルな今時のお洒落なお兄さん三人に囲まれた。


「ナンパだな。これは見てる場合じゃ・・」

ユウが言い終わらないうちに、銀太くんが走っていた。


「ぬしら、わしの女になにしとるんじゃ!」


銀太くんの一喝に、三人はひゃあ、すみませんと叫んで一目散に逃げて行った。


「ゆっこ、スカウトなんかされんでも、お前は世界一いい女じゃ! もう行くぞ!」

「そ、そうね」

ゆきちゃんは頬を真っ赤にして、銀太くんの腕に自分の腕を絡ませた。


「銀太、カッコいいー」

ユウがヒュウヒュウと二人を野次って、珍しくゆきちゃんが真っ赤になって照れていた。


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