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52 親と向き合う

ゆきちゃんは旅行に行く週末までめいっぱい張り切っていた。

東京の観光雑誌を片手にあそこも行きたいこっちも行きたい、この服がかわいい、このカバンも欲しい、このランチ美味しそうこのクレープ食べたい、って。

きゃっきゃと楽しそうに計画を練っている。


今日のお風呂上がりにもユウと銀太くんに雑誌を見せて、東京行きの話でずっと盛り上がってた。






「あんなに行きたいところの候補あげられてもどうしようもないよね。

二日で回ろうと思ったら、超ハードスケジュールな観光になっっちゃって楽しむどころじゃないよ」

「あはは。ゆきちゃんはお買い物だけでも一日使っちゃいそう」


旅行はいよいよ明日。

お土産を買うことも考えて、荷物は最小限にしようというゆきちゃんからの提案で、私もショルダーバック一つに収めている。着替えも東京でオシャレな服を買えばいいって。

用意もできたし、後は明日に備えて眠るだけだ。



「マナ。おいで」

呼ばれて顔をあげると、縁側に座ってユウが手招きしている。

「なあに?」


そばに行くと、手をそっと引かれて、隣に座る。


「この前の話の続き。・・僕もあれからずっと考えたんだ。

マナがお母さんと向き合おうとしてるのに、僕は避けることばかり考えていたな

って。

親子はずっと親子だ。それは死ぬまで変わらない。

このままずっと親の問題に捕らわれたまま生きるのはおかしいよね。

ちゃんと解決していかなくちゃね」


ユウは真っすぐ私を見つめ、深く頷く。


「明日、東京に行ったら、夕方、お母さんに会いに行こう。僕も一緒に行く。

田島さんに連絡を取ったら同行してくれるそうだよ」

「・・ほ、ほんと?」


震える私の手を、ユウがぎゅっと握った。

「ああ。ちゃんと話をしよう。その後、僕もお父さんに会いに行ってくるよ。

僕もお父さんとちゃんと向き合ってくるから」

「うん」

私はコクコクと頷いた。胸がいっぱいになる。

やっぱりユウはいっぱい色んなことを考えてくれてる。


「ありがとう、ユウ」

「ありがとう、は僕の方だよ。ありがとう、マナ」

ユウは優しく笑って、ちゅっと私のおでこにキスをした。


「このままでもいいかなあ、なんて、ズルいこと考えてた。

でも、逃げてたって何の解決にもならないもんね。

全部すっきりさせて、ここに戻って来たら・・・、僕らもこれからのこと具体的に

考えようか」

「・・・ユウ」

私は驚いた。だって初めてだったから。

そんな風に言ってくれるのは。

いつも一緒にいる私達だけど、ユウは結婚とか、そういう言葉は口にしなかった。

ゆきちゃんが話題をふっかけて来てもあえて避けてるみたいに見えた。

私が目をパチパチさせていると、ユウはよいしょっと布団に入って私を招く。


「さて寝ようか。明日着る服は決めた? あんまり可愛いカッコされると心配だな。マナがスカウトされちゃったら大変」


さっきまでの真面目な顔から一転して、ちょっとおどけたようにペロリと舌を出して笑うユウ。


「も、もう。ゆきちゃんはあっても、私なんかスカウトされるわけないでしょ」

「いやいや、最近マナもすごく綺麗になったから。・・髪も伸びたよね。

このサラサラ手触り、すごく好き」


ユウの手が私の髪に触る。髪をすくっては指の間からハラハラ落として遊ぶ。

その仕草はちょっと色っぽくて、いつも、ドキドキしてしまう。


「マナ、好きだよ。世界で一番、マナのことが好き」


ユウは耳元で何度も囁いて、抱き締める。

私の緊張や不安を払拭するように、 何度も何度も。

・・優しい人。

私が不安に感じてるようにきっとユウもお父さんに会うことすごく躊躇っている

んだろうって思う。

私も、ちょっとでもユウの不安を消してあげられればいいのに。

私はユウの首に両腕を伸ばし、そうっと絡ませた。


「わ、わたしも、・・ユウが、好き。大好き」


ユウは驚いたように目を大きくして、それからちょっと赤い顔でにっと笑った。


「珍しいね、マナからそんな言葉が聞けるなんて。すっげー嬉しい。ありがとう」


もう一度、おでこにキスが降ってきた。

目が合うと恥ずかしくなってしまって顔を伏せたら笑われた。






行こう。東京へ。

私達の両親と向き合うために。 

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