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50 東京に行こう!

お互いの空いた時間にゆきちゃんと会って、いろいろおしゃべりをする。

今日もゆきちゃんのおうちに遊びに来た。

ゆきちゃんは買ったばかりだというお洒落な雑誌を読んでいた。

ぺらぺらぺらっとおもむろにページをめくり、大きなため息をついて机に伏せた。


「はあ。・・あたし、これからどうしよう」

「これからって? 週末の予定?」

聞き返すとゆきちゃんはバンっとテーブルを叩いた。


「ちっがーう! もっと大きな人生の悩みよ。

あたし、このまま銀太と付き合ってていいのかなあって」

「な、何を言うの、ゆきちゃん!」

私は思わずガタッと席を立った。


「あー、別に別れたいとか、そういう話じゃなくてね?」

ほっとして腰を下ろす私に、ゆきちゃんは続ける。


「銀太、冬が来たら十八歳になるのよ。で、そしたらあいつ、すぐにでも結婚するぞって言うわ」

「ええ? け、結婚!」


私はまたしても驚いて席を立った。


「うちの村ではみんな二十歳前に結婚するのがほとんどよ。

相手が決まってればもうすぐにでも身を固めろ、みたいな感じ。

早く結婚して、たーくさん子どもを産めってね。

銀太のおじさんもおばさんもあたしとの結婚には昔っから大賛成で、

今日にでも嫁に来いって遊びに行く度に言われるもの。

それはまあいいのよ。銀太と結婚するのにも迷いはないわ」


ゆきちゃんはうんうん頷きながらそうきっぱりと言い切った。

そして視線を下に落とす。


「ただ、このまま果樹園の若奥さんになって、年とって、ただのおばちゃんになっちゃうのかと思うとため息が出るの。

・・あたしね、この雑誌の人達みたいなお洒落でかっこいいモデルになるのが夢だったのよねえ」

ゆきちゃんは雑誌を見ながら、深く長いため息をついた。


私が声を掛けようとした瞬間、ゆきちゃんは勢いよく立ち上がる。

椅子がバタンと倒れてすごく驚いた。

「いいこと思いついたわ!」


さっきの沈んだ表情から一転して、キラキラ目を輝かせている。


「東京に行こう! 今しかないわ。結婚してからじゃ遅いもの。

今の、このあたしがどこまで通用するかをこの目で確認したいの。決めたわ!

さっそく今夜、銀太に言おうっと」


相変わらずゆきちゃんの行動力はすごかった。

その夜のお風呂の時に銀太くんを説得して、なんと来週末の土日に四人で東京に

行くことになった。




「ゆっこには毎回驚かされるけど、今回はまたすごいね。

まあでも、結婚する前に東京に行っておきたいのー、なんて言われたら銀太も駄目とは言えないよな。

渋谷なんて僕も行ったことないんだけど、東京案内してって言ってたね。

どうしようかなあ。東京タワーでも登ればいいかな」


お風呂からの帰り道、ユウは苦笑いしている。


東京。私達が住んでた街。

・・・お母さんがいる街。 もうここに来て、丸三年経つんだ。


「マナ?」

突然引き寄せられてふらついた。

すかさずユウが後ろから抱き締めてくれる。


「僕の話、聞いてなかったでしょ。何考えてたの? 

・・東京行き、怖い?」


ちょっと心配そうなユウの声。こういう優しいところは出会った頃からずっと変わらない。

私はそっと首を横に振った。


「大丈夫よ。ね、ユウは、お父さんに会いに行かないの?」

「会うつもりはないよ。向こうも会いたくないだろうし。

それよりさ、ゆっこは渋谷でスカウトでもされたいのかな。

昔からモデルになりたいとか歌手になりたいとか、あれこれ言ってたから。

もし本当にスカウトされたらどうするのかな」

ユウは楽しそうに笑う。


ユウも三年間ずっとお父さんに会っていない。連絡をとってる様子もないし。

このままでいいのだろうかと思うのだけれど、お父さんのことを話題に出すと今みたいにスッと話題を変えられてしまう。

それ以上追求することもできない。


このままでいいのかな。

このままじゃ、ずっと、心にもやもやを抱えて行くことになるんじゃないのかな。

ユウも、私と同じように、乗り越えなければならない問題があるんだって思う。


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