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48 告白

「こっちに行くよ。暗いから足元に気をつけてね」

「う、うん」


ユウくんに手を引かれて、岩場をゆっくり、茂みの方に歩く。

不思議だ。

暗いところは苦手なのに、ユウくんと一緒だとちっとも怖いと感じない。


「足音立てちゃ駄目だよ。そっと、そっとね。ほら」

ユウくんの指さす先、ぽうっと光る小さな光が見えた。


「あ・・」

二つ、三つ、点滅してはふわりと浮かんで、光の数は近付くにつれてどんどん増えていく。幻想的な光。


「・・・!」

「蛍だよ。この辺りで見たって銀太に聞いて、まなみちゃんと見に来ようと思ってたんだ。きれいだね」


言葉がでなかった。

初めて見る、蛍の光。

綺麗すぎて、ただじっとその無数に輝く光を見つめていた。


「・・ありがとう、ユウくん。ありがとう」


ユウくんの手を、両手でぎゅっと握った。

ありがとうって何度でも言いたい。

ユウくんへの感謝の気持ちはどれだけありがとうって言っても足りない。


「ユウくんは私に、色んなきれいなものを見せてくれる。

あの日も。・・ユウくんに会ったあの日まで、私、景色がきれいだなんてこと、思ったことなかった。

ここに連れて来てもらって、みんなに支えられて生活して、毎日知らないことばっかりで、本当に感謝してる。

ユウくんに会わなかったら、きっと私、どれも知らずに終わってた」


「それは僕も同じだよ。まなみちゃんに会えたから、こうしてここにいる」


ぐいっと引き寄せられて、ユウくんの腕の中に収まる。

背の高いユウくんはかがんでいるのか、目の前に顔がある。



「好きだよ、まなみちゃん」

「!」

一瞬、息が止まるかと思った。

真っすぐ見つめてくれる目を見られずに、私は視線を逸らした。


「だ、だめ。私なんか、好きになっちゃ・・」

「ダメだよ。私なんかなんて言ったら。まなみちゃんのそばにいたいんだ」


ユウくんの腕がぎゅっと抱き締める。私も広い背中に手を伸ばした。

手が震える。

それ以上に、心が震えた。きゅうっと締め付けられるような感じ。

涙が溢れて視界がぼやける。


「わ、私でいいの?」

「まなみちゃんが、いいんだよ」 即答だった。


ユウくんはにこっといつもより何倍も素敵に笑って、もう一度私をぎゅうっと抱き締めた。

・・・信じられない。

私も、人に愛されていいんだろうか。

こんな私でも、幸せになれるんだろうか。

ユウくんを幸せにしてあげられるんだろうか。


「大丈夫。そんなに難しく考えることないよ。今まで通り、いつも一緒にいよう。

まなみちゃんがいてくれるだけで、僕は嬉しいよ」

まるで心を読んだかのようにそう言って、ポンポンと私の頭を撫でてくれる。


「ありがとう。ユウくんは、私が考えてること、なんでも分かっちゃうのね」

「眉にシワ寄せて難しい顔してるからだよ。普段は、気づけないことの方が多いと思うよ。だから、一人で悩まないで何でも話してね」

「うん」

ユウくんは私の返事に満足そうに頷いた。




家についてお布団に入ったのはもう十一時頃になっていた。

ごろんと横になる。

今日はとても長い一日だったように思う。


「・・そう言えばさ。みんな、まなみって呼んでるよね。

まなみ、とかまなみ姉って。僕がまなみちゃんって呼んでるのに、なんかみんなの方が親しげ」


何を突然言い出すのかと思えば。

そうだろうか。そんな気がしなくもないけど、別にどちらでもいいと思う。

名前を呼んでもらえるのは嬉しいことだから。


「・・僕は、・・マナって呼ぼうかな。マナ。うん、いいね。可愛い」

ユウくんは一人でうんうんと納得して、くるっとこっちに向き直った。


「マナ」


どきんと心臓が大きく鳴った。

そんな優しい声で、ほほ笑んでいきなり呼ぶからだ。


「マナ。マナは僕のこと、ユウって呼んでよ」

「ええっ!」

「嫌?」

びっくりしてつい大きな声が出てしまった。慌てて手を振る。

「う、ううん! イヤとかじゃなくて。そんな、呼び捨てなんて。

どうして、 呼び方を変えるの?」

「えー? それは、まあ。

せっかく思いが通じ合って、恋人同士になったんだからさ」


はははと照れたように笑うユウくん。

恋人同士、という言葉に、私も顔が熱くなるのを感じる。


「その方が嬉しいかな、と思っただけ。名前は特別な言葉なんだって僕は思う。

自分だけを表すものだから。だから僕もユウって親しみを込めて呼んでくれると

嬉しいなって」

「う、うん。わかった」

コクンと頷くと、ユウくんはにっこり笑って私の顔をじっと見てる。


・・これは、 今、呼んでということだろうか。

でも、改めてこんな構えられると呼びずらい。 なんだかとっても恥ずかしい。


「マナ。照れてるの?」

ユウくんがちょっと意地悪な笑みを浮かべて私の顔を覗き込む。

「も、もう!」

顔がさらに熱くなった。きっと真っ赤になってるんだろう。

薄暗いけどこの至近距離では分かってしまうかもしれない。

布団を手繰り寄せて顔まで被った。


「マナ、マナ、顔、見せてよ」

ユウくんが楽しそうに笑う。

余計に恥ずかしくって、私はしばらく顔を出せなかった。

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