47 二人で行く夜道
「大丈夫? まなみちゃん」
お水をゴクッと飲んで深呼吸した。ユウくんが心配そうに覗き込んでいる。
「だ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。ごめんね」
いつもより長湯をしたせいでのぼせてしまった。
なんとかパジャマに着替えて、 待合室のソファまでたどり着いたけど、一度座ったら頭も足元もくらくらして動けなくなってしまった。
「ごめんね、ゆきちゃん。ちょっと休んだら一緒にお掃除するから」
「なに言ってんの。今日は銀太と二人でやるからいいわ。色々話もしたいし。
ユウ兄、まなみおんぶしてやって」
ゆきちゃんはもう私の靴をビニール袋に入れてユウくんに持たせている。
「ちょ、ちょっと待って。私、歩けるから」
勢いよく立ち上がると目の前がぐらりと歪んでよろけたところをユウくんにキャッチされた。
「はい、乗って」
「お、お願いします」
くすくす笑うユウくんにおんぶしてもらって外に出た。
「それじゃ、おやすみ。銀太に頑張れって言っておいて」
「あいつ、あんな大声で告っといて、今更照れてんのよ。
一応言っておくけど、 頑張るのはユウ兄も一緒でしょ」
「はは、まあ、ね」
「まなみ、ユウ兄、・・いろいろありがとね。おやすみ!」
ゆきちゃんは少し頬を赤くして早口に言うと、走って中に戻って行った。
*****
夜の村は静かだ。
朝起きるのが早いから、十時を過ぎたこの時間はもうみんな寝てしまっているのかもしれない。
家の並ぶところもシンと静まり返っている。
畑の横の道はさらに真っ暗で、ぽつりと立っている外灯の薄暗い光がやけに明るく見える。
二人でいるのに、外灯に映し出される影は一つしかない。
体の大きな変な形の影が、てくてくと着いてくる。
「・・・銀太、すごかったね。まさかあそこで告白するとは驚いたよ」
ユウくんのささやくような小さな声がよく聞こえる。
「うん。ゆきちゃん、もう信じられないとか言ってたけど、すごく笑ってて、うれしそうだった」
「僕はずっとあの二人を見て来てるし、銀太の気持ちも知ってるから、ずっと応援してるんだ。
・・ゆっこの気持ちを否定するわけじゃないけど、僕に対するのは憧れみたいな
もんでさ。一番そばにいて、理解し合ってるのはあいつだよ」
ユウくんの背中はとても大きい。初めておんぶしてもらったのはこの村に来た時。
あの時より大きくなったような気がする。
「ユウくん、もう降ろして。歩くから」
「んー、もうちょっと」
よっと態勢を整えて、ユウくんはまた歩きだす。
「・・まなみちゃん、お風呂で泣いてたね。聞こえちゃった」
「うん。あ、でも、嬉しくて、だから。
ゆきちゃんね、私のこと親友だって、そう言ってくれたの。
・・私、最近ずっと、ここに来るべきじゃなかったのかなって思ってたから、嬉しくて・・」
ぴたりとユウくんの足が止まる。
「・・ずっと、そんなこと考えてたんだ」
「え、あ、あの...」
ちょっとムッとしたような声に、私は焦ってしまう。
「まなみちゃんには気をつけないといけないな。
全部自分でしょい込んで、しかも誰にも言わずに一人で悩むタイプだよね。
もっと頼ってって言ってるのに」
「・・ううん。もう十分頼ってるよ、ユウくん。
私、ゆきちゃんがユウくんのこと好きだって聞いて、何度もユウくんの側から離れないとって思ったの。・・けど、 できなかった。怖くて。
ユウくんの優しさに、ずっと甘えてたの」
「そっか。よかったよ、離れて行かないで。
さ、着いたよ。靴を履いて」
「え? ここ・・」
大きな岩の上に降ろしてもらう。
暗いけど、目の前にいるユウくんがにっこり笑ってくれてるのはよく見える。
ここは家の近くの川原だ。
もうちょっと下流に行くといつもユウくん達が釣りをする場所がある。
夜の川は少し怖いくらい真っ暗で、ザーっと水の音だけが絶え間無く聞こえている。