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46 雪子と銀太

次の日は朝から祭りの準備に大忙しだった。

昼前は衣装の仕上げ、昼からは会場となる神社の境内の掃除や飾り付けをひたすらやっていた。

みんな忙しいながらもおしゃべりしたり歌ったり、笑いが絶えない。


夕方、祭りの実行委員の人に頼まれて、みんなにジュースを配って境内を歩いた。

手分けして配るのを手伝ってもらってあっと言う間に終わったけど、ゆきちゃんとユウくんの姿が見当たらない。銀太くんに聞いたら、ちょっと話があるとかで抜けたそうだ。

何の話だろう。気になってしょうがない。

でも、どこにいるのか分からないし、 探しに行くのもおかしいだろう。



もやもやしながらも作業していると、ゆきちゃんが戻ってきた。

明美ちゃんや加奈子ちゃんに指示を出して、テキパキと仕 事をこなしている姿は、いつもと全く変わらないゆきちゃんだ。

でも、少し表情が硬い感じがするのは私の思い込みだろうか。


結局、ゆきちゃんに直接、ユウくんと何か話したのかなんて聞けるはずもなくて、五時で作業は終わり、みんな解散となった。




夜の九時半、いつものように大きな大浴場にゆきちゃんと二人で入る。

隣の男湯にはもちろんユウくんと銀太くんがいる。

さっきまで四人で明るくおしゃべりしてたゆきちゃんは、二人になって浴室に入るとますます陽気にしゃべりまくってる。

まるで何かをごまかすみたいに。


「ゆきちゃん、どうかしたの? 」

少し距離を縮めて尋ねると、ゆきちゃんはちゃぷんと顎までお湯につかった。


「・・ユウ兄に、フラれちゃった」

小さな、消えそうな声でゆきちゃんはそう言った。


「何度も告白して来たし、その度に、ハイハイって軽くあしらわれてた。

だから絶対あきらめるつもりなんてなかったし、絶対絶対振り向かせてやるって、そう決めてたのにっ」


声が掠れて、ゆきちゃんの肩が震えた。


「あたしは妹みたいな存在で、それ以上には思えないって。

あたし言ったの。 あたしがユウ兄のこと、一番、一番好きなのにって。

・・でもユウ兄は駄目だって」


私のせいだ。

私が、この村に来なかったら、ゆきちゃんはユウくんと上手く行ったのに。

私がゆきちゃんの幸せの邪魔をしたんだ。


「ごめん・・、ゆきちゃん、ごめんね」

「え? ちょ、ちょっと何? 何であんたが号泣してんの」


ゆきちゃんが驚いている。でも私の涙はどんどん溢れて止まらない。


「わ、わたし、ここに来なければよかったよね。

ごめんね。ごめんなさ・・きゃあ!」

突然頭からお湯がザパーッとかけられて、私は呆然となった。

顔を上げると、 洗面器を持ってボロボロ泣いているゆきちゃんがいた。


「バカなこと言ってんじゃないわよ!」


洗面器をぽいと投げ捨て、ゆきちゃんの両手が私の頬をつまむ。


「あたしは、あんたが来なければなんて、思ったこと、一度だってない!

ユウ兄のこととまなみとのことは関係ない。

そりゃ、関係ないことはないだろうけど、でも、まなみがもしいなくても、

同じ結果だったと思うわ。

ユウ兄にとって、あたしは恋愛対象じゃなかったってことよ。くやしいけど」


ゆきちゃんは私の肩に顔を埋めた。


「けど、本当はもう・・・分かってた。初めてあんたに会った時からね。

ユウ兄、 態度がバレバレなんだもの。視線もメロメロ。認めたくなかったから見ない振りしてたけど、誰が見たって分かるわ」

「そんな、私なんか・・」


ゆきちゃんの手がにゅっと伸びて、また私の頬をむにっとつねった。

「もう! またすぐに私なんかって言う。

それやめなさいっていつも言ってるでしょ」

「ふ、ふぁい」


ゆきちゃんは私の肩に両手を置いて、真っすぐに私を見つめる。


「すぐに自分を責めない。もっと自分に自信を持って。

みんなまなみのこと大好きよ。

田舎の人間は情が厚いから、苦労してる子は守ってあげようと思うし、 仕事を真面目に頑張る子は大事にされる。まなみは両方だから最強よ。

それにあたしはまなみのこと、ホントに大事な親友だと思ってる。

親友って、分かる? 一番大事な友達よ。

・・・あー、もう、また泣くぅ」


呆れたように笑うゆきちゃん。

私はもう涙がどんどん出て来て、ひっくひっく としゃっくりまで出て止まらなくなった。ゆきちゃんが頭をぽんぽんと撫でて笑ってる。


「まなみは泣き虫ね。ありがと。なんかスッキリししたわ」



「ゆっこー!」

隣の男湯から大きな声が響く。銀太くんの声だ。


「ゆっこー!」

「なによー、銀太」

湯船の手摺りに掛けてあるタオルを胸に巻いて、ゆきちゃんは男湯と繋がってるところにザブザブと歩いて行った。


「お前は、わしの嫁になるんじゃ! ユウ兄には負けん。お前にはわしが一番

合っとるんじゃ!」

銀太くんの大声での告白は女風呂中に響き渡っている。

岩に隠れてゆきちゃんの姿は見えないけど、なんだか笑い声が聞こえる。

バシャンバシャンとお湯の跳ねる音も。



あまりにも突然のことで、私は何がなんだか訳が分からなかったけど、しょんぼりしてたゆきちゃんの、あんなに楽しそうな声が聞けて嬉しく思った。

銀太くん、すごい。

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