44 離れて眠る
夜。いつものようにお布団を二つ並べて寝る準備をしている。
今夜こそ、今夜こそは言わないと思って、もう何日も言えずにいることがある。
よし、今夜こそは言おう。
「あ、あのね、ユウくん!」
勢いよく切り出した。
ユウくんは少し驚いていたけど、持ち上げていたお布団を置いて、私と向かい合って座った。
「あの、その・・・、もう一緒に寝るのやめた方がいいと、お、思うの!」
「どうしたの? 急に」
ユウくんは不思議そうに首を傾ける。
「き、急にじゃないの。ずっと、思ってたんだけど。
だって、一緒に寝てる こと、ゆきちゃんが知ったら悲しむんじゃないかって、思う、し」
ゆきちゃんはあんなにユウくんのことを好きなんだから、
私と一緒の家に暮らしてるのも良く思っている訳はない。口には出さないけど、嫌だろうと思う。
「・・漫画で勉強した成果がそれ?」
「え?」
「ゆっこが僕を好きだって言ってるから、まなみちゃんは身を引こうとしてるってこと?」
「う、うん。だって、私がここにいることで、嫌な思いさせてしまったら、
悪いし・・」
なんだろう。ユウくんの真っすぐな視線が突き刺さるようだ。
怒っているんだろうか。いつものような笑顔ではない。不満そうな表情だ。
「明美から聞いたよ。僕のこと、お日様みたいな偉大な存在だって思ってくれてるんだってね、まなみちゃん」
ハッと顔を上げる。まさか本人の耳に入るなんて思ってもいなかったから、何て答えればいいのか、恥ずかしさで頭がいっぱいになった。
「僕はね、そんな大きな器の人間じゃないよ。
そうだなあ、この部屋の電気とか・・いや、懐中電灯くらいかな。
みんなを平等に照らすなんてできない。明るくできるのは一つの部屋だけ。
・・誰か一人を照らすだけで精一杯だよ」
ユウくんの指が私の髪にそっと触れて、体がビクンと反応する。
「ゆっこの気持ちはもうずっと言われ続けてるから知ってるよ。
あれは恋愛感情じゃない。アコガレだよ。
それに、僕はゆっこには応えられない。応えるつもりもない。
僕が好きなのは・・」
「あ! わ、・・わたし、もう寝るね! ・・お、おやすみなさいっ!」
私はユウくんの言葉を遮って、視線を振り切るように、おもむろにお布団をつかむと、がばっと潜った。
心臓がバクバクバクバク、飛び出してしまうんじゃないかってくらいうるさく鳴っている。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
ユウくんの、私を見つめるあの目が焼き付いて、目を閉じてもすぐそこにあるように思える。
どうしよう、すごく失礼なことをしてしまったよね?
ユウくんは話している 最中だったのに。
遮って、不自然にお布団に潜り込むなんて。
でも、・・聞いちゃいけないって、思う。
だって、ゆきちゃんがユウくんのことを好きなんだから。私は首を突っ込んじゃいけないんだ。ゆきちゃんの邪魔をしちゃいけない。
「・・おやすみ、まなみちゃん。少し離れて寝るから、何かあったら呼んで」
いつもより低い声。
すごくすごく遠くから聞える。私が布団を被ってるからなんだろうけど。
私は、ユウくんに悪いことをしてしまったんだろうか。
でも、でも、このままいつまでもユウくんの優しさに甘えていてはいけない。
頼らなくても一人でいられるようにならなくちゃ。
その夜は結局あれこれ考えていて、なかなか寝付けなかった。




