表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/78

44 離れて眠る

夜。いつものようにお布団を二つ並べて寝る準備をしている。

今夜こそ、今夜こそは言わないと思って、もう何日も言えずにいることがある。

よし、今夜こそは言おう。


「あ、あのね、ユウくん!」


勢いよく切り出した。

ユウくんは少し驚いていたけど、持ち上げていたお布団を置いて、私と向かい合って座った。


「あの、その・・・、もう一緒に寝るのやめた方がいいと、お、思うの!」

「どうしたの? 急に」


ユウくんは不思議そうに首を傾ける。


「き、急にじゃないの。ずっと、思ってたんだけど。

だって、一緒に寝てる こと、ゆきちゃんが知ったら悲しむんじゃないかって、思う、し」


ゆきちゃんはあんなにユウくんのことを好きなんだから、

私と一緒の家に暮らしてるのも良く思っている訳はない。口には出さないけど、嫌だろうと思う。


「・・漫画で勉強した成果がそれ?」

「え?」

「ゆっこが僕を好きだって言ってるから、まなみちゃんは身を引こうとしてるってこと?」

「う、うん。だって、私がここにいることで、嫌な思いさせてしまったら、

悪いし・・」


なんだろう。ユウくんの真っすぐな視線が突き刺さるようだ。

怒っているんだろうか。いつものような笑顔ではない。不満そうな表情だ。


「明美から聞いたよ。僕のこと、お日様みたいな偉大な存在だって思ってくれてるんだってね、まなみちゃん」


ハッと顔を上げる。まさか本人の耳に入るなんて思ってもいなかったから、何て答えればいいのか、恥ずかしさで頭がいっぱいになった。


「僕はね、そんな大きな器の人間じゃないよ。

そうだなあ、この部屋の電気とか・・いや、懐中電灯くらいかな。

みんなを平等に照らすなんてできない。明るくできるのは一つの部屋だけ。

・・誰か一人を照らすだけで精一杯だよ」


ユウくんの指が私の髪にそっと触れて、体がビクンと反応する。


「ゆっこの気持ちはもうずっと言われ続けてるから知ってるよ。

あれは恋愛感情じゃない。アコガレだよ。

それに、僕はゆっこには応えられない。応えるつもりもない。

僕が好きなのは・・」

「あ! わ、・・わたし、もう寝るね! ・・お、おやすみなさいっ!」


私はユウくんの言葉を遮って、視線を振り切るように、おもむろにお布団をつかむと、がばっと潜った。

心臓がバクバクバクバク、飛び出してしまうんじゃないかってくらいうるさく鳴っている。



どうしよう、どうしよう、どうしよう!



ユウくんの、私を見つめるあの目が焼き付いて、目を閉じてもすぐそこにあるように思える。

どうしよう、すごく失礼なことをしてしまったよね?

ユウくんは話している 最中だったのに。

遮って、不自然にお布団に潜り込むなんて。

でも、・・聞いちゃいけないって、思う。

だって、ゆきちゃんがユウくんのことを好きなんだから。私は首を突っ込んじゃいけないんだ。ゆきちゃんの邪魔をしちゃいけない。



「・・おやすみ、まなみちゃん。少し離れて寝るから、何かあったら呼んで」

いつもより低い声。

すごくすごく遠くから聞える。私が布団を被ってるからなんだろうけど。


私は、ユウくんに悪いことをしてしまったんだろうか。

でも、でも、このままいつまでもユウくんの優しさに甘えていてはいけない。

頼らなくても一人でいられるようにならなくちゃ。


その夜は結局あれこれ考えていて、なかなか寝付けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ