42 お祭りの準備
もうすぐお祭りがある今の時期は、村のみんなは昼前は畑仕事をやり、昼からは男女に別れてそれぞれお祭りの準備をする。
私はゆきちゃんと、かなちゃん、 あけみちゃんと一緒に縫い物をしている。
毎年夏に一回行われる伝統行事であるこのお祭りでは、盆踊りのようにみんなで踊ったり歌ったり、男の人達の笛と太鼓の演奏もあって、飲んで食べて騒いで、とても盛り上るんだそうだ。
祭りの最後には一番の見せ場の演舞があるという。
「毎年、年の初めに踊り手が指名されるの。男女一人ずつ。
だいたい夫婦で選ばれるわ。今年は野原さんの新婚夫婦ね。
すっごく素敵よ。この特別な衣装を着て、たくさん綺麗な飾りを付けて。
男の人は三味線みたいな琵琶みたいな特別な楽器を演奏して、それに合わせて女の人が舞を踊るの。楽器はその年で違う時もあるけど。
あたしも早く踊りたいわ。もちろんユウ兄の演奏で」
ゆきちゃんは、きゃっきゃとうれしそうに笑う。
「ゆき姉ちゃん、せっかちね。十八歳くらいの立派な大人の女性にならないと、選ばれないよー。でもわたしも大人になったら踊りたいなあ」
「やっだ、加奈子もせっかちじゃ」
みんな楽しそうだ。そんな素敵なイベントがあるんだ。
お祭りなんて小学校に上がる前に行ったような気もするけどあまり覚えていない。
すごく楽しみだ。
「まなみ姉ちゃんは?」
「え?」
「まなみ姉もユウ兄と踊りたい? ユウ兄もてもてじゃなあ」
「でも銀兄ちゃんもまなみ姉ちゃんのこと好きなんでないの? 目が合うと赤くなってるもん」
「あー、それはあるかも」
「えー、銀兄はゆき姉だよ。絶対」
「明美ってば、どこから来るのその自信は」
どんどん繰り広げられる会話に全くついて行けない。
「で? 本当のところはどうなのよ。まなみは誰が好きなの?ユウ兄? 銀太?」
三人がにんまり笑ってずいっと迫って来る。
「え?ちょ、あ、あの・・・」
「まなみも好きなんでしょ? ここに来たばっかの時はわかんないって言ってたけど、もう自分の気持ち、ハッキリしたんじゃない?
あ、あたしに遠慮なんてやめてよね。
あたしはまなみなら恋のライバルとして大歓迎だから。青春っぽくていいわー」
「ま、待って!」
私は手にしている衣装をきゅっと握って、みんなの顔を見れずに俯いた。
こういう話って、恥ずかしいよう。
「あの・・・、私、ユウくんには、すごくすごく感謝してる。
ここにこうしていられるのも全部ユウくんのおかげだし。
ユウくんのことはもちろん好きだけど、 ゆきちゃんが貸してくれた本みたいな恋愛の好きとは違うと思う。
・・なんて言うか、えっと、その・・」
上手くこの気持ちを表す言葉が見つからない。
視線を上げる。窓からの眩しい日差しに目が細くなった。
「おひさま・・。ユウくんは、私にとって、お日様みたいな存在なの」
にっこり笑うユウくんの顔が頭に浮かんだ。
そう、ぴったりの表現だ。
いつも 優しくあったかく、私を・・私達みんなを照らしてくれる。
「お日様はないと生きていけない。
でも、お日様を自分だけのものにしたいなんて、そんな大それたこと、思えないもの。だから、ユウくんは、私にとってはお日様」
「お日様ねえ。なんか、まなみらしい」
ゆきちゃんは困ったような顔で笑ってる。
「太陽のユウ兄に愛されるオナゴは大変じゃ。焼けて真っ黒コゲになってしまう。
日焼け止め、塗っとかんと」
ポツリと呟いた明美ちゃんの一言で、みんながどっと笑った。




