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39 とびきりお洒落して

とある金曜日の夜、ゆきちゃんから電話が掛かって来た。

明日は朝九時に家に来て!とだけ言って、すぐに切れた。

すごくウキウキした声だった。

ユウくんは、どうせなんか遊ぶ計画でも企んでるんだろうと思うよって笑ってた 。


土曜日の朝、約束どおりユウくんとゆきちゃんのお家に行くと、待ってましたーと手を引かれてゆきちゃんの部屋に入った。


「さあて、まなみ! 覚悟はいい?」

ふっふっふーと不敵な笑みを浮かべてゆきちゃんがにじり寄って来る。

覚悟って何?


「今日は、とびきりお洒落して、四人でお出掛けよっ!」


ゆきちゃんはいつもに増してすごく楽しそうだ。

もう昨日の夜ずーっとまなみに何を着せようか考えてたんだからね、と言いながら服を渡してくれる。

ジーンズのホットパンツに、真っ白なキャミソールとひらひらとしたレースとリボンのついた淡いピンクの透ける生地の可愛いキャミソール。


「はいっ! ちゃっちゃと着替える!」

「う、うん」

急き立てられて全部脱いで、キャミソールを着る。胸元のレースがとてもきれい。


「まなみはブラまだなのよね。でもそろそろ、パットつきのスポーツブラつけた方がいいわ。シャツじゃ透けちゃうし、嫌でしょ。

それ、パットつきのキャミだから。胸の形も良く見えるし動きやすくていいのよね。おすすめ。あ、ホットパンツは裾の刺繍が可愛いのよ」


ズボンはすごーく短い。体育の短パンと同じくかもしれないけど、私服でこんな短いズボンは履いたことがないから恥ずかしい。


「ゆ、ゆきちゃん。足が出過ぎじゃない?」

「いいのいいの。ほら、これも着て、こっちに座る」


ずぼっとひらひらの服も着せられて、鏡台の前の椅子に腰を下ろした。


「ずーっと思ってたんだけど、前髪、切らない? 絶対切った方がいいよ。絶対! ね、 切ってもいい?」

「う、うん。おまかせします」

「じゃあ、目を閉じてて」


ちょき、ちょき、とハサミの動く音が聞こえる。

ふわふわの何かで顔をパタパタ払われて、またちょき、ちょき。


「はい、いいわ。開けてみて」


そっと目を開けると、前髪は軽い感じになって眉毛の下で揃えられていた。

「ほら、全然違うでしょ? あとは後ろもワックスでー」


ゆきちゃんは手にクリームを取って、慣れた手つきで私の髪を撫でたり梳いたり毛先を整えたり。


「あとは・・」 目の横にゆきちゃんの指が軽く触れると、きらきらと光るものが塗られる。

口にも何か塗って、唇がピカピカになった。


「目元にはシャイニングパウダー、唇にはリップグロス。このくらいのお洒落はしないとねー。ほら、可愛くなったわよー、まなみ」


ゆきちゃんは私の手を引いて、大きな姿見の鏡の前に移動した。

「わ」

誰? が最初の感想。

こんな自分は見たことがなかった。

言葉を失って、横に立つゆきちゃんを見る。


「あは。びっくりした? ユウ兄達はきっともっとチョー驚くわ。

さ、早く行こ行こっ!」

「え? あ、ちょ・・」


手を引っ張られながら、私は逃げ出したいくらい恥ずかしかった。

だって、こんな・・・足も全部出てるし、肩も腕も出てるし、いつもの私じゃない私を見て、ユウくんはどんな顔をするか、考えられない。





「じゃじゃじゃじゃーん!」


勇次郎くんの部屋のドアを、バーンと勢いよく開ける。

私はゆきちゃんの後ろに隠れたけど、ゆきちゃんはひょいっと横に退いた。


「わ、わわ」

「まなみちゃん・・!」

「おおー、まなみ、ますますべっぴんになったのー」


みんなの視線が突き刺さる。私は肩をすくめて俯いた。恥ずかしい。


「まにゃみー、かわいー!」

「いいじゃーん!」

勇次郎とハナちゃんがタタタっと走って来て、足元に引っ付いた。

「ユウ兄、どお? まなみ、可愛くなったでしょー?」

「あ、ああ」


ユウくんは目をパチパチさせてる。じっと見られて恥ずかしい。


「んもー、何とか言いなさいよね。ユウ兄ってば駄目ねえ。

まあいいわ。さ、 出発するわよ。

勇次郎、ハナちゃんと仲良く遊んでるのよ。

もうすぐお母さんがお菓子もって来るわ。姉ちゃん達はお出掛けしてくるから。

銀太、自転 車ステップ付けた?」

「ユウ兄のは二つ付けれたんじゃが、わしのには一つしか付けれんかったわ」

「もー、あたしが銀太だからいっか。まなみはユウ兄の後ろね。

あ、まなみ、靴はこれ履いて。これ、可愛いけどしっかり後ろがあるから安定してるし歩きやすいの」


ゆきちゃんはテキパキと準備している。

私はただ突っ立ってオロオロしている だけだ。

玄関を出ると、自転車が二台並んでいる。

銀太くんの自転車の後ろにゆきちゃんはひょいっと立ち乗りした。

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