33 私の今の日常
「四時間目の体育は辛いよね」
「今日はバレーか。早く終わってお昼ごはん食べたーい」
男子が先に着替えて出て行った教室で、女子は体操服に着替える。
この、短すぎる短パンだけは、一週間経ってもどうしても慣れない。
傷はないけど、脚を出すのが恥ずかしい。前の学校ではもっと丈の長いズボンだったのに。
ユウくんも、まあしかたないよ。ガンバレと苦笑いしてた。
ゆきちゃんは全く気にしてなくて、長い足を堂々と出している。
ボール競技全般が苦手な私は、バレーも下手くそだ。
パスをすれば相手の手前で落ちるし、 アンダーパスを打てば見当違いな方向に飛んで行く。
私はボールを追いかけて走ってばかりだ。
「まなみー、がんばれー!」
「まなみ姉ちゃんファイトー!」
みんな私のことをまなみって呼んですごく仲良くしてくれる。
みんな、すごくいい人達ばっかり。
銀太くん、小太郎くん、栄介くん、大介くん、一平くん、ゆきちゃん、明美ちゃん、加奈子ちゃん。
もっともっとみんなと仲良くなれたらな、と思う。
三時に学校が終わると畑にいるおばあちゃんのお手伝いをする。
五時頃まで畑仕事をしてから、家に戻って晩ごはんの用意に取り掛かる。
私とおばあちゃんが台所にいる間、ユウくんは洗濯物を畳んだり部屋の掃除をしてくれる。
夕ごはんを食べ終わると、私とユウくんとで食器の片付け。
おばあちゃんは銭湯に行って、
私達は片付け終わると、小さなちゃぶ台で並んで勉強。
勉強内容は、宿題とか、学校で先生から借りた本の読書とか。
九時を過ぎると私達もゆきちゃんと銀太くんの待つ銭湯に行く。
ゆっくり入らせてもらって、みんなで掃除もして、帰って来ると十時ごろ。
おばあちゃんはもう寝ている。
私達もお布団をひいて、明日の学校の準備をして、寝る。
そしてまた朝がきて、私はみんなより一足早く五時ちょっと前に起きて、
着替えて、家の前を掃いて、朝ごはんとお昼のお弁当を作る。
みんなでお仏壇におつとめをして、一緒に朝ごはんを食べて、
七時半には学校へ行く。
・・これが私の今の日常。
信じられないくらい穏やかで幸せな毎日。
こんなに幸せな日々を日常と呼べるなんて信じられないんだけど。
毎晩、お布団に入ると、ユウくんは色々な話をしてくれる。
この村に古くからある言い伝えとか、お祭りの話とか、子どもの頃にここに来た時の話とか。
寝る前だけじゃない。
学校や銭湯の行き帰りとか、家でご飯を食べている時とか。
ユウくんはいつも、にこにこ笑って私に話しかけてきてくれる。
私はそれが本当にうれしくて、楽しみなんだけど、 ふと思うこともある。
ユウくんはどうしてこんなに優しいんだろう。
起きてる時も、寝てる時も手を繋いで、ずっと側に居てくれる。
こんなに・・朝から晩まで一緒にいて、私のこと嫌にならないのかな・・。
うっとうしいって思わないかな。・・心配。
・・・私はユウくんに何をしてあげれるんだろう。
ユウくんにも、おばあちゃんにも、村のみんなにも、もっともっと恩返ししなくちゃいけない。
そうじゃないと、私はここにはいられなくなる。
もっと、頑張らなくちゃ。
・・・でもなにを頑張ったらいいんだろう。
*****
七月に入って、授業の一つとしてみんなで川に行って泳ぐことになった。
「わしは今日こそ旗をとるんじゃー!」
「一平ちゃんにはまだ無理よ。あたしらと一緒に浅いとこで潜りっこしよ」
「大介、向こう岸まで競争しよーぜ!」
川泳ぎはみんな物心付いた時からしてるみたい。
川に着くと、上に着ていたTシャツを脱いで、ダーッとみんな一目散に川に駆け込んで行った。
・・・私は、水が苦手だ。
家の小さなお風呂場の水に頭を突っ込まれて死にかけた嫌な記憶もある。
思い出したらぶるっと体が震えた。
最後に泳いだのはもうずっと前だったと思う。
「まなみは、泳げる?」
「うーん、どうかなあ・・・。小学校の時は泳げたけど。もうずっと水に入ってないから、自信ないよ」
「あたしは、釣りは嫌いだけど、泳ぐのは好き」
そう言って、バシャンと勢いよく飛び込むゆきちゃんはすごく格好いい。
私には、こんな深そうなところ場違いなので、ちょっとみんなから離れた、浅くて流れの緩やかなところに移動した。
「まなみちゃん。川では一人になったら駄目だよ」
でこぼこの岩が並ぶ場所をユウくんが軽やかに駆けて来る。
「あ、ごめんね。私、泳げないし、こっちの方で練習してるから。
ユウくんはみんなと泳いでね」
「別にいいよ。最近はいつも銀太たちと釣りの後、泳いでるし」
「みんなすごく上手なのね。一平くんもスイスイ泳ぐからびっくりした」
「まあみんな川と共に育って来たからね。泳げないと生死に関わるから。
まなみちゃんも泳げるようにならないと。まずは、バタ足からやってみようか」
にっこり笑って私の手を取るユウくん。
どうやら特訓してもらえるようです。




