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26 ジロー救出

「でも、あの・・・、ここの村はすごく素晴らしいところだと思います。

みなさんすごく優しいし、景色もきれいだし」

「ま、この大自然の絶景くらいよ。この村の自慢なんて。

あ、こら、勇次郎! そっちは危ないから行っちゃ駄目でしょ。転がって川に落ちるわよっ!」


さっきまでこっちの花を見ていた勇次郎くんがちょっとの間に、向こうの崖の下を見ている。

雪子さんが大声で叫んで走った。私も慌てて駆け寄る。


「ねえね、たろー、たろー」


勇次郎くんが指さす先を見て、私達は驚いた。

下に降りる急な階段の真ん中に犬がいる。 あれはこの前学校で見たタローだ。

ケガをしているのか、よろよろとしている。


私達はその細い階段をゆっくり降りた。

タローを抱き上げて上に登ろうとすると、タローがいやだと言わんばかりに悲痛な声で鳴く。


「どうしたの? 下は川だから危な・・」


川に目を向けた途端、タローの訴えようとしていることが分かった。


「大変! 子犬が、川に!」

「きゃあ、ジロー! 流されちゃう。誰か、大人を呼んでこなくちゃ・・!」


気づいた雪子さんも真っ青になった。

私達がいるところのちょうど真正面の下。

川の中央に小さな小さな子犬のジローの姿があった。

ここから転がり落ちたのだろうか。

岩にひっかかっている状態なので、このままでは流されて死んでしまう。


助けなくちゃ・・!


大人を呼びに行くって言ってもここは民家からけっこう遠い。

「ダメ。 それじゃ間に合わない・・!」


考えるより先に、体が動いた。

私は階段を駆け降り、川に入った。


後ろで雪子さんが何かを叫んでいるのが聞こえたけど、もう夢中だった。


ざぶざぶと川の水をかけ分けて、ジローのところを目指す。


水の流れが強くて思うように進めない。

岩に足をとられて何度もすべってしまう。


なんとか川の中央にたどり着いた。

ジローは小刻みに震えていたが、呼びかけるとワンと鳴いて縋り付いてきた。

小さなからだをそっと抱き抱えて、こけないように慎重にゆっくり戻る。


階段にたどり着くとジローはタローの元に飛び降りた。


「ちょっと! 大丈夫?」

すぐに雪子さんと勇次郎くんに囲まれる。


「うん、ケガもしてないみたいです。よかった」

タローはジローをペロペロと嘗め、

きゅんきゅんと甘えた声で鳴いている。無事に助けられたことにほっとした。


「そうじゃなくて、あんたは大丈夫なの? びっくりしたんだから。

急に掛け降りたりして!あ、ほら! ケガしてるじゃない。あ、ここも!」


すごい勢いで雪子さんが私の足にできた傷を発見して、がしっと腕をつかまれた。


「もー、こんなびしょびしょになって! 風邪引くじゃない。早く来て。

ほら、勇次郎も行くわよ。ジローはタローがいるから大丈夫。

ケガもしてないみたいだし、すぐ元気になるわ」

「え? あ、あの・・・」

「早く!」


ぐいぐいぐいぐい引っ張られて歩く。

雪子さんは怒っているようでブツブツブツブツ文句を言っていて、なんとも声を掛けづらい。

私・・ダメだったのかな。

いきなり飛び込んで、軽率な行動だったのかもしれない。


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