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25 雪子さんと散歩

おばあちゃんも帰って来て、お昼ごはんを皆で食べる。

お昼はご飯の残りに小麦粉を入れてお焼きを作った。それに、残りの煮物。

お焼きには甘味噌にすりゴマをたっぷり入れたタレを塗った。

先日ご近所から頂いた五平餅を真似してみたんだ。

二人が口に運ぶのをドキドキしながら見つめる。


「お、こりゃうまい」

「ほんと、おいしい」


好評なコメントによかった、とほっとして私も一口。うん、おいしい。


「まなみが料理が上手でありがたいね。ええ嫁っこになるわ」


よめっこ?という言葉が何かわからないけど、褒めてもらえて嬉しい。

おばあちゃんの味にはまだまだ全然及ばないけど、ご飯を炊いたり、おみそ汁を作ったり、基本的なことはできるようになったと思う。

そんなことがちょっとだけ私の自信になっている。

もっともっと頑張ろう。

人と話すのはすぐには上手くできそうにないから、家事だけでもちゃんとこなせるようにならなくちゃ。

掃除も、洗濯もお料理もここでのやり方を早く覚えて、もっと上手になろう。



ご飯を食べ終わって片付けながら、さっき、雪子さんが話していたことを思い出す。


「ユウくん、昼から釣りに行くの?」

「あー、ううん。一緒に畑に行くよ」


ユウくんはちょっと悩んでからそう答えた。

自意識過剰かも知れないけど・・・、きっと私を置いて釣りに行くのは心配だ、と思ってくれたんじゃないだろうか。

私は自分の手をぎゅっと握り締めて、ユウくんの目を見た。


「あの、ユウくん。私はおばあちゃんと畑に行くから、銀太くん達と釣りに行ったら、ど、どうかな?」

「え?」

「みんなユウくんのこと待ってるだろうし、私のことは気にしなくていいから。

あの、私ね、ひ、一人でもちゃんとできるようになりたいから。

いつも一緒に居てもらっちゃって、本当にごめんなさい。

あ、一人って言っても、おばあちゃんがいてくれるから一人じゃないけど・・」


どもって何を言ってるのか自分でも訳が分からなかったけど、ユウくんは私の言いたいことを理解してくれたみたいですごく優しい顔で笑ってくれた。


「・・・そうだね。じゃあそっちはまなみちゃんに任せた。

魚、たくさん釣って来るよ。楽しみにしてて」

「あ、う、うん」




*****


おばあちゃんと畑で草むしりをする。

生命力の強い雑草は除草剤を撒いても生えるみたいで、ほっとくとすぐにわさっと伸びていてびっくりする。

畑が広いから草をとる範囲も広くて、草むしりだけでもすごく大変な重労働だ。

初めは慣れない姿勢なのですぐに腰が痛くなったが、ようやくちょっと慣れてきた。

端からどんどんやってきているので向こう側に近づいて行くと後少しだ、と思えて嬉しくなる。


「おー、ゆっこでねえか。ゆーちゃんも一緒か」


おばあちゃんの声がして顔を上げると、雪子さんが小さな男の子と一緒に歩いてくる。


「ばーちゃん、今日も畑お疲れさま。ユウ兄は釣りに行った?」

「ああ。そうだ、ゆっこ、まなみも一緒にここらぐるっと回ってやってくれや。

来週から学校にも行かせるんじゃ。仲良うしとくれ」


突然のおばあちゃんの申し出に、私は心臓が飛び出るくらいびっくりした。

けど、これは自分を変えるための第一歩だ、と勇気を振り絞った。


「・・あ、あのっ」


振り絞った割には小さい声しか出なかったけど、雪子さんはこっちを向いてくれた。


「あの・・・、さっきは、は、話せなくて、ご、ごめんなさい」

声が。声が震える。

「お、お、お話したいので、・・わ、たしも、一緒 に行ってもいいです、か?」

最後まで言えた。

ちょっとぎこちなかったけど。

雪子さんは大きな目をパチパチさせてから、「いーよ、来なよ」と答えた。




*****


何を話せばいいのか、考えたいのに頭は真っ白で上手く働かない。

私の前では雪子さんがでこぼこの歩きにくい道なのにスタスタ歩いているし、そのさらに前を勇次郎くんが走ったり飛び跳ねたりしながら歩いてる。


「ね、あんた、ユウ兄の彼女じゃなくて、友達なのよね?」

「は、はい」


ずいっと顔を近づけてくる。雪子さんの迫力に押されてしまう。


「東京から来たのよね。いいなあ、都会って。ちょー憧れる。

こんな田舎、おもしろいところも素敵な洋服屋さんも可愛い雑貨屋さんも美味しいスイーツのお店も何にもないもの。なーんにも。

ほんと、つまんなーい。

ね、あんたが住んでたとこにはどんなお店があった? 聞かせてよ!」


確かに、彼女の身なりは他の人達と違ってお洒落だ。

テレビに出ているような流行の可愛い服を着ている。


「わ、私は、あんまりそういう素敵なお店には行ったことがなくて・・。すみません」

「ふうん。なーんだ。ん? なあに、勇次郎」

「ねえね、はっぱー」


雪子さんは口を尖らせて、弟の勇次郎くんが渡した葉っぱを受け取った。

勇次郎くんはまたすぐにタタタっと走り出す。

小さいのに、こんなでこぼこの山道を走り回るんだからすごい。


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