24 同い年の女の子
次の日の昼前、お昼ごはんの用意をしているとガラガラっと玄関が開いた。
「おっじゃましまーす! きゃー、ユウにーい! 会いたかったあ!
なんで会いに来てくんないのよっ、もう!」
「ゆっこ」
バタバタバタっとすごい足音がしてショートカットの女の子が現れたかと思うと、
ユウくんに抱きついた。というか、飛びついた。
「こら、離れろって。会いにって、銭湯でいつも顔見てるだろ?」
「なーによー。あんなの会ったうちになんない!
おしゃべりすると怒られるから話せないし。
あたしユウ兄が来たって聞いて、一昨日もその前の前の日も、何度もここに来たのよー。
なのに、いつ来ても畑に行ってたりしてて、いないんだもーん!
ようやく空き時間になったから番台を抜け出して来たの!」
台所にいる私は、二人のやり取りを目の当たりにして、ちょっと思考が止まっってしまった。
というかびっくりして釘付けになってしまった。
私に気づいた彼女が、ユウくんから離れて私の方にまっすぐ歩いてきた。
眼光は鋭く、キッと睨まれる。
「あんたが銀太が言ってた色白の美少女?
ユウ兄、まさか彼女じゃないわよね? あたしがいるのに!」
「こら。何を失礼なこと言ってるんだよ。初めて会ったらまずは挨拶だろ?
まなみちゃん、この子が湯元雪子。この通り、ちょっと口は悪いけど、まあ良い子だから」
ユウくんは彼女の頭をポンポンたたいて、苦笑いする。
「もお、自分で言うわよ。初めまして。ゆっこです。で? あんたは?」
「橋本愛美ちゃん。ゆっこと同じ中一だから、仲良くしてやってよ」
「ええ? 同い年? 二つくらい下かと思った。ちっこいのね、あんた。
まあ、あたしは結構 大きいほうだけどさ。背ぇ、いくつ?
ほんっと銀太が言ってた通り白いわねえ。いいなあ、うらやましいわー。
でもちょっと前髪長過ぎ。目にかかってるじゃないの。前見えてる?
・・・ね、なんでしゃべんないの?」
すっかり口を開くタイミングを逃してしまった。
いつ言葉を挟んで良いのか、まったく分からない。
彼女は怪訝な顔で私を見てる。きっと、 変な子だって思われてる。
緊張で全身が固まってしまったみたいにカチコチだ。
「ゆっこ。まなみちゃんはものすごく恥ずかしがり屋で人見知りで繊細なんだ。
お前とは違うの。そうズカズカ迫っていかないで、ちょっと待っててあげろよ」
ユウくんに言われて、彼女は軽くため息をつきながら仁王立ちになる。
すごいプレッシャーだ。
ほら、早く何か言ってみなさいよ、と言わんばかりの視線が突き刺さる。
足が勝手に震えて、私は持っていたおたまをぎゅっと握った。
どうしよう。
なにか言わなきゃ。話さなきゃ。
次の瞬間、大音量で歌が流れ出した。彼女はポケットから携帯電話を取り出す。
「もしもし。ええ? なんでよ! 今ユウ兄のとこに来たばっか・・・もお!」
「おばさん? 早く帰って来い、だろ?」
ぷりぷり怒っている彼女の頭をぽんと叩くユウくん。
「勇次郎が泣いてるから、早く帰って来いって。もー! 今来たばっかしだって、言ってんのにさ!
あ、ユウ兄、銀太が一緒に釣りをしたいって言ってた。いつものとこにいるから時間空いたら来てくれって。
全く男子は釣りが好きよねえ。どこがいいの? あんな座ってるだけのつまんない時間。うちでお風呂洗ってた方がずっとマシ。
じゃ、またね、ユウ兄。あんたも、またね。バイバーイ!」
来た時と同じようにバタバタバタっと走って出て行った。
嵐のように。
「・・・まなみちゃん。・・えっと、色々と気にすることないよ。
ゆっこはキツい性格だから、誰に対しても、言いたいことも思ったこともズバっと何でもハッキリ言うんだ」
ユウくんは心配そうに私の顔を覗き込む。
「あ、だ、大丈夫。あの、私がいけないの。
何か言わなきゃって思ったのに・・・、頭の中が真っ白になっちゃって。
全然しゃべれなくて。・・・ごめんなさい」
「気にしない、気にしない。
ゆっこは畳み掛けるようにしゃべりまくるから、僕でも口を挟めない時があるくらいだよ」
気にしないで、と言われても、気にしないわけにはいかない。
ここに来て、新しい生活を始めようとしているのに、私は前と同じように下を向いてモジモジしてるばっかりで・・・。
ユウくんが一緒に居てくれないと何もできない。
ユウくんに頼ってばかりの駄目な子だ。こんなんじゃ嫌われてしまう。
来週からは学校にも行かなくちゃいけないのに、このままじゃユウくんに迷惑かけっぱなしだ。な、なんとかしないと。
私は、もっとしっかりしなくちゃいけないんだ。
まずは人と、上手く話せるようにならなくちゃ!
私はひそかに目標を決めてぐっと両手を握った。




