21 寄り合い
その夜は、寄り合いがあるということで夕食後、
三人で村で一番大きい湯元さんの家に行った。
月に一度大人達が集まって色々話し合う会のことを寄り合い、というんだって。
私達は新しくここに住むことになるので皆に挨拶をするために今日は一緒に行くけど、本当は子どもは参加できないのだそうだ。
家から歩いて十分の湯元さんのお家は、銭湯。
この村の人達は皆自分の家ではお風呂に入らない。
畑から帰って泥を落とすために一応お風呂場はあるんだけど、昔からこの湯元さんの銭湯に入りにくるのが皆の習慣なんだそうだ。
私は傷のこともあって家のシャワーで済ませているから行ったことはないけど、ユウくんは帰ってくると、今日は誰と会ったとか友達の話をしてくれる。
この村には子どもは十人で、私と同い年の女の子もいるんだって。
「ゆっこはイイ奴だけど、ちょーっと元気すぎる性格だからなあ、相手するのは大変かも」
と苦笑いしていた。どんな子だろう。
会ってみたいなと思うけど、私はまだユウくんとおばあちゃん以外の人と上手くしゃべれないし、腕とかの傷を見られるのも怖くて、言い出せずにいる。
寄り合いは大きなお座敷にすごい人数が集まっていた。
村中の大人達が集まっているらしい。
テーブルにはお酒の瓶とコップがずらりと並んでいる。
村長の湯元さんが最初の挨拶をして、その後すぐにおばあちゃんが立ち上がり、私達が紹介された。
毎年来ていたユウくんのことは皆が知っていて、改めてここで暮らすことになったと挨拶すると拍手が起こった。
私のことはおばあちゃんが、ユウくんの友達で親がいなくなったので、引き取ることになったのだと簡単に説明してくれた。
「まなみは、人と話すのが苦手なおとなしい性格だけど 、優しくて真面目で本当にいい子じゃ。どうか皆で温かく迎えてくれ」
おばあちゃんが声を張り上げて言ってくれたので、私は深く深く頭を下げた。
その瞬間、部屋中に再び拍手が巻き起こり、私達は皆にわっと周りを取り囲まれた。
「トヨさんとこやったら安心じゃ」
「あんた親をなくしたんやて? 可哀想にね、もう大丈夫じゃよ」
「ユウがついとるで心配ないわ。将来も安泰じゃて」
「めんこい子じゃ」
「細いのー、ちゃんと食べとるんか」
「ケガしとるんやって? 大丈夫かいな」
「うちの孫にも欲しいのう」
山本のおばさんのようにどんどんどんどん話してくる楽しい人ばかりだ。
ちょっと圧倒されてしまうけど。
「ふん。東京もんが、うちの村でようやってけるんか」
そんな中で、低く、厳しい声が放たれ、一瞬回りがシンと静まり返った。
「大丈夫ですよ、源さん。僕ら、みなさんと仲良くやって行きますから」
穏やかな声でユウくんが返す。
回りのおばさん方もそうよ、そうよと加勢してくれる。
「気にしなくていいのよ。源さんは気難しくて頑固で変わり者なんだから」
「あたしらもまだまだヨソ者扱いなんだもの。
ここにお嫁に来て、もう三十年以上経つのにねえ。まったくもう」
大丈夫よ、大丈夫よと、みんな小声で囁いてポンポン肩を叩いてくれる。
男の人も女の人もお酒が入ってますます陽気になっているみたい。
その後も次から次へと話題が飛んで、わいわいと盛り上がる。
あまり絡まれないうちに私とユウくんは退散することにした。
夜、村を歩くのは初めてで、
真っ暗な中を懐中電灯で照らしながら二人で並んで歩いた。
「すごいのね、寄り合いって」
「要するにみんなで酒を飲みながらおしゃべりしようってことだよな。
寄り合いなんて立派な名前だけど」
「でも、みんなあったかい。さっき、すごく嬉しかったよ」
「ならよかった」
ユウくんはにっこり笑ってくれる。
こんな風に新しい生活を始めることが出きるなんて、信じられない。
・・不安は大きいけど。
でも、こうしてユウくんが隣にいてくれることでどれだけ支えられているか。
いつも、助けられてばかりだ。
私ももっとユウくんやこの村のみんなの役に立てるように、がんばろう。




