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15 おばあちゃんの朝ごはん

良い匂いがして目が覚めた。

こんなことは初めて。

丸い食卓に並べられた温かいごはん。おみそ汁とかぼちゃの煮物、おつけもの。

ユウくんのおばあちゃんは、お茶碗に山盛りに付けられたピカピカ光る白いご飯を私に手渡して、

「さあたーんとお食べ」とにっこり笑う。


その朝ごはんは、 どれも本当に、本当に、美味しくて、ゆっくり味わって食べた。

ユウくんはパクパクもぐもぐとすごい勢いでお茶碗に山盛りのご飯を二杯食べた。


起きてすぐ、私が改めてお世話になりますと挨拶した時、

おばあちゃんは私をそっと抱き締めてくれた。

ユウくんと同じように背中に触れないように頭を撫でてくれる優しい手。


「もう大丈夫。ずっとここにいればいいんじゃ」


少し涙まじりの声で何度もそう言ってくれた。


ユウくんのおばあちゃんはとても働き者だった。

朝ごはんを食べるとすぐに洗濯を干して、畑に行って来ると言って家を出て行く。

昼の少し前になると帰って来てご飯を作ってくれてみんなで食べて、片付けて。

その後は、家の裏の神社に野菜を持って行くと言って大きなザルを背負って出掛けていった。

そしてまた、帰って来た後も、芋を洗いに外の洗い場に出て行ったり、

畑に今夜使うナスを採りに行ったり、とにかくちっとも座って休まない。



私は寝てばかりで申し訳ない気持ちで一杯になる。

朝ご飯の後も、片付けますと申し出たら、ケガ人がなにを言っとる、と笑って済まされた。

ユウくんにも、お手伝いは治ったらでいいから治るまでは休んでなきゃ、とお布団に戻されてしまった。

そうは言っても、 落ち着かない。


夕ごはんの後、思い切って言うことにした。


「あの、お願いですから、私にも何かお手伝いさせてください。

何もかもお世話になって、 こんなにご迷惑掛けているのに・・・。

ケガが治るまで何もせずにじっとしてるなんて無理です。

ケガなんて平気ですから」

「まなみちゃん・・」

何か言いかけたユウくんを止めて、おばあちゃんが私の手を取った。


「そうだね。じゃあやれることだけ、やってもらおうか。

まなみさん、お裁縫はやったことあるかね?」

「穴が空いたのを繕うとかはやっています。下手ですけど」

「かまやしないよ。家で使う物だからね」

おばあちゃんは押し入れから木の箱の裁縫箱と袋にいっぱい入った端切れを持って来て、畳の上に広げる。

「これをつなぎあわせて、ほら、こういうのを作るんよ。なべしきとか、

なべつかみとか」


おばあちゃんは、一緒にやりながら丁寧に一つ一つ教えてくれた。

上手い上手いと褒めてくれるのでうれしく思った。




そこに、かなり大音量の電話がなった。おばあちゃんがよっと立ち上がり、受話器を取る。

「もしもし、トヨさん。お嬢さんは無理して起きてねーだろうな。

後で診察しに行くからなー」

先生の声だ。電話機本体から声がしている。


「おばあちゃん、まだ壊れたまんま使ってるの?」

ユウくんが苦笑いしてる。


「この方が聞き取りやすいんじゃ」

「去年からこの電話スピーカーホンになっちゃって、

会話、まわりのみんなにだだ漏れなんだ。しかも、音も大きいし。

まあ、それ以外は壊れてないから買い替えるってほどじゃないんだよね」

「まだまだ使えるわ。もったいないことしたら駄目じゃ、ユウ」


それから、一時間もしないうちに山城先生は来て、私の背中に薬を塗って、ガーゼを替えてくれた。

傷の痛みもずいぶんなくなったから動いていいですかと先生に聞いたら、そんな簡単に治るか! と怒られてしまった。

おとなしくしてるようにと何度も言われ、座ってやるお裁縫くらいならやっていいと許可をもらえた。


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