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11 背中の傷

私達はまた電車に乗った。

ここはわりと大きな街だからか乗っている人も多い。

席はいっぱいで、出口付近の通路に立って乗った。

車内はしゃべり声でザワついていて、車掌のアナウンスもロクに聞こえない。


「すごい人」

「これが都市の満員電車ってやつだね。今は混むような時間でもないのにね。

この近くで何かイベントでもやってるのかなあ。まなみちゃん、

こっちの窓際においでよ」


ユウくんが私の腕を引いてくれて少し空いた隅に移動しようとした時、一気に人の波が押し寄せて来た。


「・・っつ!」


背中に走る激痛に、一瞬目の前が眩んだ。


「大丈夫? まなみちゃん。今、背中ぶった? ケガしてるんだよね?」

「だ・・」

大丈夫と言おうとしたのに上手く声が出なくて、私は深呼吸した。

目の前のユウくんは私が潰れないよう腕を張ってスペースを確保してくれている。

隣の人が押されて倒れ込んで来てしまったようで、すみませんとお辞儀をされた。

私も頭を下げる。


「だ、だいじょうぶ、だから」

心配そうな顔をしているユウくんに、私は笑って見せた。

ひきつっていたかもしれないけど。


次の駅に止まると、ほとんどの人が降りて、車内はガラガラになった。

私達も空いた座席に座る。

背中が焼けるように熱い。傷が開いたんだろう。

大丈夫、しばらくすればきっと治まる。

ぎゅっと拳を握って、息を吸っては吐いて痛みをやり過ごす。


本当に大丈夫?と何度も心配そうに尋ねてくるユウくんに何度も大丈夫と返した。


ビルがたくさん並んでいた窓の外の景色も、田甫が広がり民家もまばらになった。

田圃の横の細いでこぼこの道を何人もの子どもが歩いている。

大きく見えるランドセルを背負って黄色い帽子を被っている子ども達の集団をぼんやりと眺めた。


「低学年だね、きっと。下校早いなあ」ユウくんも同じように外を見ている。

「あの子、ひとりぼっち・・・」


みんな集まってワイワイ楽しそうにおしゃべりしてるのに、一人だけ二メートルくらい離れてとぼとぼ歩いている子がいる。

顔なんか見えないくらい遠いのに、その子はさみしげに見えた。

その姿が学校で孤立していた自分自身と重なって見える。




「私、学校でも居場所がなかった・・」


窓の外の景色は流れ、さっきの子ども達ももう見えなくなった。

私は軽く目を伏せた。

何か話している方が痛みが紛れるような気がして、

ぽつりぽつりと言葉を吐き出す。


「中学生になって、すぐ・・、誰かが私の体の痣を見て気持ち悪いって言って無視されるようになって。小学校のころ仲良くしてくれてた子達も、目も合わせてくれなくなっちゃった。ショックだった」


目を閉じているとつい昨日のことのように鮮明に思い出されるクラスメイトとのやりとり。


「・・・学校での苛めは最低だよ」


ユウくんの声は低い。怒っているような、そんな声だ。


「集団になると人は強気になるんだ。特に自分より弱い人間の前ではね。

みんなでやってれば自分がやってることも大して悪いことじゃないように思えてしまうし。最悪だよ」



目を閉じると嫌な人達の顔が浮かぶ気がして、私は遠くの景色を見つめた。

山々が連なる、どこまでも続いて行くような緑。とてもきれいだと思う。


「嫌な話、して、ごめんね」

「ううん。嫌なことは吐き出した方がスッキリするよ」

「うん。ありがとう」


目を瞑っていると、ガタンガタンと電車の揺れる音がやたら大きく背中に響く気がした。

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