10 おばあちゃんの住む田舎に
そしてお昼。
二人で駅前のファーストフードでハンバーガーを食べている。
昔・・保育園に行ってた頃に、食べたきりだって言ったら驚かれた。
久しぶりに食べたハンバーガーはあつあつで美味しかった。
でも大きな口で食べないとケチャップが飛び出てきて食べづらい。
新しい服に絶対こぼさないようにと慎重に食べていたら、ユウくんに笑われた。
「女の子って服で変わるね。なんか雰囲気も明るくなったよ」
「ごめんなさい、あの、たくさん・・」
「ごめんはもういいよ。それより、ありがとうがいいな」
ユウくんはポテトをつまんで口にいれてにっこりほほ笑む。
「どうもありがとう。
本当に・・・、全部夢だったとしてもしょうがないって思うくらい、夢みたいで、嬉しい。ほんとに、ほんとに、ありがとう、ユウくん」
ユウくんはちょっと照れ臭そうに頬を赤くして、
自分の髪をわしわしとかきまぜた。
「どういたしまして。そんな風に改めて言われると照れるけど。
うん。夢なんかじゃないからね」
がぶりがぶりと大きな口であっと言う間にユウくんのハンバーガーはなくなり、トレーはゴミだけになっていく。
味わって食べてた私はいつもより遅くてまだ半分くらいある。
「ごちそうさま。ね、この後はどこに行こうか。行きたいところ、ある?
あ、ゆっくり食べていいよ。別に急いでないからね」
「あ、う、うん。ごめんなさい」
もぐもぐ口を動かしながら、考える。
行きたいところ。
・・・行きたいところ、なんて特にない。
どこも思いつかない、というか、わからない。
どうしても現実的なことを考えてしまう。
・・・お母さんは、私がいないことに気づいて、どうしただろうか。
怒っているのはまず間違いないだろう。
探しているだろうか。
あの家に、 連れ戻すために。
見つかったら、私はどうなるんだろう。
ぶるっと体が震えた。背中の傷がいっそうズキリと痛んだ気がした。
「まなみちゃん、だいじょうぶ? 顔色が悪いよ」
ユウくんは立ち上がって私の隣の席に座った。
「・・・行きたいところは、お母さんが絶対に来ないところ。
絶対に気づかれずに済むところ。
お母さんに、見つかるのが怖い。
こんな風にずっと、逃げ回れないし・・、
でも、どうやって生活していけばいいのか、わからないし」
「うん。そうだね。これからの生活を、考えなきゃ、だね」
彼はうーん、と少し考え込んだようで、しばらく沈黙が流れた。
「・・・ね、まなみちゃん、僕のおばあちゃんの住む田舎に一緒に行こう」
「田舎?」
突然の彼の言葉に私は首を傾げて聞き返した。
「僕のおばあちゃん、山奥の小さな村で畑をやりながら一人で暮らしてるんだ。
そこに行こう。
すごく優しくていいおばあちゃんなんだ。絶対、味方になってくれるから」
ユウくんは私の両手をがっちり握って、自信ありげな顔でにっと笑った。




