市役所受付担当 風祭魔魅
遅くなって申し訳ありませんでした!!
「時に先生、教員免許の更新はお済ませですか?」
御前がそう雷光に聞いたのは、あの騒動から2日程経ち、学校も元の空気に戻った頃だった。
「更新? 何それ?」
教卓に砥石を置き、刀の手入れをしていた雷光はその手を止めて顔を上げる。
もうすっかり、「雷野 源太」ではなく、「源 雷光」として過ごしているその姿に苦笑しながら、御前は会話を続ける。
「ご存じないのですか? 戦争が起こる少し前から、教員の質の低下を防ぐために2年に1回の割合で試験をして、合格者の免許のみ更新するという方針をこの国では導入しているのですが・・・。」
実際、この制度ができる前は、生徒からの虐めで不登校(?)になる教師や、体罰を過激化させて自殺まで生徒を追いこんでしまう教師、さらには生徒に交って虐めをする教師もいた。
なのでコレは良い方法なのかも知れないが、その分、更新が済んだ教師による体罰はある程度黙認されたりもするので反対意見も多い。
閑話休題
「え、マジで?」
その言葉と共に固まる雷光。
完全に知らなかった、そんな雰囲気が体中から溢れ出ていた。
そんな情けない担任に溜息をもらす御前、しかも、額には何故か青筋が浮かんでいる。
「・・・・・本当に知らなかったとは・・・・。免許を取った時に説明があったでしょうに・・・。で、先生が免許を取ったのはいつですか?」
「2年前の先週。」
その言葉を最後に、雷光の体は宙に舞ったとか・・・・・・・・。
所変わって市役所免許窓口。
もう夕方ということで人も少なくなってきたこの場所にいたのは、御前と、頬に大きな椛を拵えた雷光の2人だった。
「いて~・・・、態々しばくこともねぇだろ~・・・?」
「それは申し訳ありませんでした。ですが、流石に先生の不注意さに憤りを感じたので、つい・・・。」
そう言って頭を下げる御前だが、身に纏う雰囲気は「先生の自業自得」と語っており、どう考えても反省はしていない。
そんな教え子を睨んでいると、受付から声がかかった。
「お待たせいたしました。準備が整いましたので、こちらへどうぞ。」
そう言ってきたのは雷光から見て真正面の窓口に座る女性、やや切れ長の目に黒い長髪をポニーテールにした中々の美人だ、眼鏡が似合うかもしれないが、彼女は眼鏡をしていない。
そんな美人に促されるままに席についた雷光。取りあえず、挨拶をしようと相手の顔を見た瞬間、
「・・・・・・・・・・・・・っ!?」
固まった。
目を見開き、口を開き、顔全体を驚愕の色に染めて固まった。
そして、固まったのは雷光だけではなかった。
「・・・・・・・・・っ!!」
受付の女性も雷光を見るなり、驚愕の色を濃厚に浮かべて凍りついたのである。
ここで堪らないのは御前だ。
用件があって来たのに、用件が始まらないばかりか2人が自分には分からないことで驚いて固まっている。
「・・・・・・お2人とも、旧知の仲なのかどうかは存じませんが、今は別件の方が重要では?」
そう問いかける声にも棘が混ざっている。その声にハッと我に返った2人の内、雷光の顔が引きつっていたのは学校でのビンタのせいだろう。
「あ、あぁ・・・・、そうだったな。さっさと話に戻ろう・・・。」
そんなビビりまくりの雷光を疑問に思いながらも、取りあえず仕事に戻る女性。
「では改めまして・・・・。私は免許発行担当の風祭 魔魅と申します。ご用件は、雷野 源太様の教員免許更新の手続きでよろしいかったでしょうか?」
「はいそうです。」
「いや、何で御前が返答しt「では、こちらの書類に必要事項を記入してください。」・・・・・・お~い・・・。」
何故か完全に雷光を無視して話を進める2人。
何故、御前が雷光の生年月日や年齢、免許取得日などを知っているのか、しかもそれを記入しているのか、気になるところだが、放置といこう・・・。
雷光が親が他の子と仲良くしてて拗ねてる子供のような表情になってるのも、痛々しいのでスルーだ・・・。
そして手続きが(雷光を放置したまま)滞りなく終了し、書類を見た女性が言ったのは。
「申し訳ありませんが、免許期間から2週間遅れてしまっているため、再発行のための教員試験を受けていただきます。」
だった。
予想通りのことではあるが、何とかならないのか尋ねようとした御前を制して声を発したのは雷光だった。
「分かりました。では後日、試験の手続きをしに来ます。」
そう言うと、抗議しようとした御前の腕を掴んで引っ張るように役所を出るのだった。
「以外ですね。先生はそういう規則をしっかり守る性格だったのですか?」
家に送ると言ってきかない雷光を連れて帰る途中、少々棘のある口調でそう言いだした御前。
自分のクラスの、生徒に結構な人気のある担任が暫く教師でなくなるのだから当然のような口調だが、それに雷光が返したのは笑いだった。
「俺からしてみたら、お前がそんな拗ねたみてぇな口調で話す方がビックリだよ。まぁ、言っとくと俺は別に規則を守るような性格じゃないぜ?」
行動と合っていない言葉に、首を傾げながら雷光の顔を見る御前。それに対して言葉を続ける。
「種明かしすると、試験無しでも免許は発行出来るんだ。裏のルートになるから違法なんだけどな。」
「・・・・・・・と、言いますと?」
「考えてもみろよ、何で試験受けるんならあの場で説明を受けない? アレが裏で発行するサインなんだよ。」
そう言われて納得したような表情になる御前。だが、直ぐにハッとしたような表情になり。
「と、言う事はあの場所は違法が黙認されているのですか!?」
もしそうだとしたら大問題だ。街の中心となる役所がそんな状態では、犯罪が横行しても不思議ではない。
そんな考えが頭を過り、必死な表情で問う御前に雷光が返したのは、やはり笑みだった。
「あぁ、違う違う。俺らを担当したあの女の人が裏にも精通してる人なだけだ。お前は知らんのかもしれんけど、アイツは『殺影』の風魔だぜ?」
夕闇に沈む街に、少女の悲鳴が木霊した・・・・・・・・。