時が時なら虐殺者 (2)
前回のあらすじ。
雷光がキレて、オッサンが切れた。
男は茫然と、腕が無くなり血が噴き出る己の肩を見続けていた。
周囲も言葉を失くし、暫く無音が支配した。
そして。
チンッ
ごとっ・・・・・・
雷光が刀を鞘に納め、腕が床に落ちると共に、音が戻った。
「う、うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」
肩を無事な手で押さえた男が、痛みに喚いて血の海をのたうつ。
そして、生徒や教員も口々に騒ぎ始めた。
「ちょっ、今の何だったんだ!!!?」
「あの先生、何かした・・・・のか?」
そんな声を聞き、振り返った雷光が口を開く。
「五月蠅い。」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~!!!?」」」
驚き、叫ぶ周囲に構う事無く、雷光ゆっくりと男に近づき、股間を蹴り上げた。
「オガァっ!!?」
浮き上がる体、そしてそのまま・・・。
「らっ!!」
「どふっ!!?」
刀の柄で鳩尾を突き、吹っ飛ばした。
「おい、オッサン。俺ぁお前がどこから帰ってきて、誰を何人殺したかなんざ知らねぇよ。」
数メートル飛び、地面にうずくまる男を見ながら言葉を紡ぐ雷光。
その目はどこまでも冷ややかで、声はどこまでも冷たい。
「だが、それで精神病んだり、威張ったりするんだったら詰まらんな。百万歩譲って病むのはしゃーないでいいわ。で、殺したのが偉いのか?脅しになると思ってんのか?」
そう言って近づき、残った方の肩を思い切り踏みつける。
鈍い音と呻き声が上がった。骨が砕けたようだ。
「そんなに殺したのが勲章になるんなら俺も言ってやるよ。俺ぁ源 雷光。」
その瞬間、自クラスの生徒の慌てた声が雷光の耳に届いたが、気にせず続ける。
男は、痛みともう1つ、恐怖で顔を真っ青にしていた。
「知ってるよな?近畿防衛、万人斬りの源 雷光、『雷刃夜叉』の源 雷光だ。」
「あ・・・あ・・・・・・・・・。」
怯え、震え、何とかして立って逃げようとしている男。その目は恐怖に染まり、顔色は蒼を通り越して白だった。
その様子を冷たい目で眺めつつ、刀の柄に手をかけ、もう一方で鍔を押して居合いの構えになる。
「お前の罪状は、3つだ。」
その口から発せられるのは、戦場にも響いた断罪の声。
「1つ、この学校の平和をぶち壊したこと。」
閻魔の如き思い響きは、教室での声とはまるで違う。
「2つ、俺の前で人殺しを自慢したこと。」
全身から靄のように立ち上る闘気、殺気。それらは正に、「夜叉」のように見る者を恐怖させる。
「3つ、この学校の、俺の大事な生徒を傷物にしたことだ!!」
そう言って初めて、怒りを表情に表し睨みつける。
何とか立ち上がれた男は、ふらつきながらも悲鳴を上げて逃げる途中だった。
「故に、夜叉が雷、落として候。」
ソレは、彼の噂を知る者ならば誰もが知っている、殺戮の前の言葉。
男は、ソレを聞くと同時に、焼けるような痛みと共に倒れた。
下半身を立たせたままで。
全ての処理が終わり、教室に戻った雷光と生徒達。
教室内に充満しているのは、沈黙だった。
(まぁ、しょーがねーよな。)
静まり返った教室を見渡し、そう心の奥で呟く雷光。その目には慣れと諦めの色があった。
(今まで、俺の戦闘見た奴は皆ビビって去ってったしな。いつものことだ。)
そう思い、浮かんだ寂しさを己で抑え、皆に別れと謝罪をしようと口を開く。
「あ~・・・、お前r「先生!!!」・・・ハイ?」
だが、途中で誰かの声が割って入った。
その声の先にいたのは、事件の前に雷光を怖いと言った少女だった。
「先生、ありがとうございます!」
そう言って頭を下げる少女。その瞳には感謝や尊敬の念はあれど恐怖はない。
「えっと・・・・、何で、お礼?」
驚愕に固まった体を無理矢理動かしてやっとそれだけを言う。雷光の頭を占めるのは驚愕と疑問だった。
「さっきあの男の人に掴まってた子、私の妹なんです!!助けようとしただけじゃなくて、仇まで討ってくれてっ・・・・!!」
そう言い、瞳に涙を溜める少女。次第に涙が零れ、俯き肩を震わせ泣き始めた。
「・・・大丈夫ですか?でも、こんな時だからこそ貴女がしっかりしないと。」
そう言いながら御前が背中を撫で、慰めている。
「・・・・・・・、何でその子、妹さんが大怪我しただけでそこまで泣いてんの?」
その瞬間を、最近影が薄かった木曽仲義はこう語る。
「あぁ、確かに見たんだ!!1人が泣いて、会長が慰めて、皆が同情してるその場が、先生の一言で完全に、固まったんだ・・・・・!!」
驚きに目を見開く生徒一同。
その様子に戸惑っている雷光。
体育館の時と同じ沈黙が、教室を襲った・・・・・。
やがて、口を開いたのは、やはりと言うか何と言うか、御前だった。
「ど、どういう事ですか先生?彼女の妹さんはお亡くなりになっていない、と・・・?」
それでも尚、戸惑いを隠せない生徒会長。周囲の生徒などまだ喉が固まっていてまともに声も出せない。
そんな空気に1番慌てたのは雷光だ。本人が望んでいないのに生まれたこの空気、何とか打破しようと声を明るくする。
「い、いやだって!!脇腹の当たる当たらないスレスレの所で、しかも貫通して弾が残ってないんだから、死ぬわけないじゃん!!?よ、良かったねお嬢ちゃん、妹さん無事よ!?」
そう言って見た先には、目に涙を一杯溜めた少女がいた、そして・・・・・。
「う、う・・・、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
泣きだしてしまった。
慌てたのは雷光だ。今までの生活で女が目の前で泣くなんて殆ど無かったし、何より彼自身女は少し苦手だ。
「え、お、おい・・・・。」
「どうしたんだよ。」と声をかけようと、その少女に近づいた時・・・。
「ありがとうございます!!!」
そう言って少女が抱きついてきた。咄嗟の事で何の対応も出来ずに押し倒される雷光。
「いや・・・俺は何もしてねぇし、あの子が無事だったのはあのオッサンの腕が下手糞だったからで・・・・。兎に角離れて!!?」
女性が苦手で、その上15歳から10年間戦争に行っていた彼には女性経験なんて勿論ない。このような状況ではアタフタするしかないのだった。
少女はと言えば、雷光の声も聞こえぬように抱きついた(押し倒した?)まま動かない。
そんな状況の中、アワアワしている雷光の傍に御前が寄り、こう言った。
「良かったじゃないですか先生。これで立派な、クラスの一員ですよ?」
その声に周囲を見回す雷光。
その目に映った生徒の瞳は、どれも自分を信頼の色で見つめているのだった。
~後日談~
少女「先生、あの後妹に先生の事を伝えておきました!!」
雷光「いや、そこまでしなくても良かったんだけど・・・・・・。」
少女「で、妹から伝言があります。」
雷光「伝言?」
少女「えぇ、『いつか「大事な生徒」じゃなくて「大事な女」にしてもらいます!』だそうです。」
雷光「いや・・・・・えぇ~・・・・・・・・。」