時が時なら虐殺者 (1)
※最後に残酷描写が入ります
クラスを包んだ驚愕と恐怖の渦。
治まらずに他クラスに影響が出るかと思われたソレは、場違いな程に落ち着いた声によって鎮められた。
「皆さん、落ち着きなさい。暴力団関係者ではないのですから、そんなに怯える必要もありません。」
例によって、クラスの頼れる生徒会長、御前さんだ。彼女の良く通る声で、取りあえず教室は静まった。
「あ~、悪いな嬢ちゃん・・・。」
そう言って頭を掻く雷光。教師というよりは下町のオヤジのような仕草だが、御前は一切気にせずに会話を進める。
「いえ、お気になさらず。それと、私の名前は御前 巴と申します。今後はそうお呼び下さい。」
そう言って頭を下げ、席に戻った。そんな彼女に1人の女子生徒が声をかけた。
「ね、ねぇ・・・。御前さんは怖くないの?」
「何故です?」
その声に、何故か答える別の男子生徒。
「だって、近畿防衛に就いてた源 雷光って言ったら、あの『雷刃夜叉』じゃないか!殺人許可証保持者で、神速の居合いを使って敵部隊を全滅させたって言うあの万人斬りの!」
そう叫んだ男子の顔は怯えていた。無理もないだろう、自分の担任に、平和な世であれば大量虐殺者になる男が来たのだから。
それを分かってるのだろう、少し申し訳なさそうに苦笑する雷光。
と、その時怒声が響いた。
「テメェら!!さっきから黙って聞いてりゃあ色々と勝手言いやがってよぉ!!喧しい!!!!」
そう言って立ち上がったのは残念頭の体育委員、木曽 仲義だ。彼はそのまま、先程の男子生徒を睨みつけた。
「お前、万人斬りだの、夜叉だの言ってるがよぉ。戦争で殺るのは当たり前じゃねぇのか!!?そうしねぇと自分が殺られるんだ!!」
その言葉に俯く男子。そんなのを気にもせずに木曽は続ける。
「それによぉ、近畿防衛つったら12人の一角で、その12人だけで国守った英雄じゃねぇのか!?お前が今、何でここでのうのうと学校来れてると思ってんだ!?この人らのおかげだろうが!!!」
「で、でも・・・・。」
俯いたまま何かを言おうとする男子、だが、木曽の言葉が先だった。
「でもぉ!!?何だってんだよ!じゃあお前、戦争行って人殺せんのか!?自分の体考えずに国の為に戦えんのか!?軍人も、軍隊も、そーゆーこと当たり前にやった英雄だろうが!!!そんなんも出来ねぇお前がとやかく言えるモンじゃねぇんだよ!!!!」
再び黙り込む男子、そこにさらに言おうとする木曽を、肩に置かれた手が止めた。
「もういい、十分だ。スマンな、色々言わせちまってよ。」
木曽の肩に手を置き、そう言って苦笑する雷光。そのまま生徒の方を向き、頭を下げた。
「スマン、身分を隠してたのは悪かった。お前らが嫌だってんなら、担任じゃなくなるように俺が校長に頼もう。」
その姿に、クラスは唖然としていた。
彼らの中では、殺人許可証保持者というのはもっと怖いイメージがあった。
気の向くままに虐殺、とまでは行かなくても、刃向ったら殺されると思っていた。
それが、目の前のこの男は頭を下げて謝罪したのである。別に悪い事はしてないと言うのに。
しばらくして、1人の少女が前に出てきた。先程、御前に「怖くないか?」と訊いた少女だ。
「あの、先生・・・。怖いなんて言ってすみませんでした。」
そう言って頭を下げる少女。
雷光は驚いたような表情をしていたが、直ぐに微笑み。
「お前は悪くないよ。俺なんざ時が時ならただの虐殺者だ。普通なら誰でも怖い。」
「でもっ、先生は何も悪くは・・・・・・。」
そう言って少女が顔を上げたその時、教室のドアが急に開いた。
「雷野先生!!ちょっと来てください!!!!」
講堂の真ん中に座り、酒を飲む男。
その周囲には、無理矢理連れて来られたらしい女子生徒が泣きながら縛られていた。
「・・・・・で、どーしてこーなったんで?」
その様子を見ながら校長に尋ねる雷光。向こうも気付いてるようだが、全く気にしてない。
「それが、あの後急にやって来て、止めようとした体育教師も所持している銃で怪我を負い・・・。」
「成程ね~・・・。」
そんなやり取りをしてると、不意に何かを叩く音と怒声が聞こえた。
「オイ、何睨んでやがんだ!?俺はテメェらを敵国から護ってやった軍人様だぞ!!」
そう叫ぶ男と、頬を押さえて倒れる少女。どうやら、その子が男を睨んでたのに怒った男がビンタしたらしい。
「ふむ・・・・。」
それを見た雷光の目が鋭くなる。
と、横から声がかかってきた。
「行くんでしょう、先生?」
「ん?あぁ、御前か。何で見に来てんだよ。」
その問いに、隣に立つ少女、御前は平然と答える。
「簡単な話です。不審者が校内に入り込み、狼藉を働いてるのならば生徒会長として来ない訳にはいきませんし、先生のことも見ておきたかったですし。」
そう言って微笑み、首をかしげてる雷光に言葉を続ける。
「ここであの男性に対してどんな事をするか、生徒をどのように救出するのか、ですね。教員たるもの、生徒のことを大切にしていただきたいですし。」
そう言う御前の後ろにはいつの間にかかなりの数の生徒がいた。皆が同じ理由なんだろう。
「ほら、皆が見てるんです。ここで許可証保持者でも教師になれるって示してみて下さい?」
「へいへい、まぁどのみち行くけどさ・・・。」
御前の言葉に押されるように男の方へ歩く雷光。刀に手もかけず、闘気も出さず、完全にいつもと同じ姿で、である。それを見た男が激昂した。
「オイ!!テメェ舐めてんのか!!?ンな気抜けした姿で俺に勝てる訳ねぇだろうが!!!!」
唾を撒き散らしながら喚く男。顔に飛ぶ唾を気にもせずに雷光は男の面前まで歩き。
「ほっ!!」
鳩尾に思い切り拳を減り込ませた。
「ッ・・・・・・・!!!!!!!!?」
驚きか、衝撃か、それとも別の何かの理由か、言葉も無く吹き飛ぶ男。周囲も言葉も無く見ていた。
「お前みたいなのに、刀抜く意味もねぇからだよ。何を考えたんか知らんが、生徒解放してさっさと失せろ。」
そう言って男との距離を詰めようとする雷光。その時。
ガァンッ・・・・・・・
銃声が鳴り響き、銃弾が体を貫いた。
縛られた少女の体を・・・。
「舐めるんじゃねぇ!!俺はなぁ!!戦場で人殺して来たんだ!!どこの馬の骨か知らねぇがなぁ!俺に刃向うんじゃねぇ!!!!」
煙の上がる銃口を向け、喚く男。少女の脇腹から血が流れていた。
「俺からの要求を呑め!!そうしたらこのガキも治療させてやるし、命も助けてやるよ!!!!まずは刀をどっかにやりやがれ!!!!」
だが、雷光はそれを無視して少女の方へ歩く。傍まで来るとしゃがみ、傷の様子を調べ始めた。
そして、暫くすると立ち上がり、男の方へ歩きながら腰の刀を鞘ごと抜く。
「そ、そうだ・・・!俺の言う通りにしときゃあ、命の保証はしt・・・・・、ア?」
言葉を切り、後ろを振り向く男。
雷光はいつの間にか、男の後ろに立っていた。
その手に、鞘から抜かれた刀が、鈍い光を放って納まっている。
刹那・・・・・。
鮮血を吹き上げ、男の銃を持つ手が肩から撥ね飛んだ。
長かったので分割。