2.第一イベント ウインクキラー
「第一回のイベントは、ウインクキラーです」
ウ…ウインクキラー?
「篤志、ウインクキラーって何だ?」
「合コンとかでやるやつだ。説明あるだろ多分。ほら、聞き逃すと面倒だぜ」
合コンでやるようなゲームをイベントのゲームにするってどういうことだよ。
「ウインクキラーというゲームを御存知でしょうか?知らない人の為に説明します。
通常ウインクキラーは、十人弱で、一人の『主犯者』、一人から数人の『共犯者』、多数の『一般市民』の三つの立場に分かれ、円形になりゲームが始まります。
・『主犯者』となった人は、『共犯者』、『一般市民』をウインクで殺めることができます。
・『共犯者』は『共犯者』及び『一般市民』をウインクで殺めることができます。しかし、『主犯者』を殺めることはできません。
・『一般市民』はそもそもウインクすることができません。
・殺されてしまった人は、ウインクを受けた数秒後に(すぐ宣言すると『主・共犯者』がすぐにバレてしまう為)殺されたことを宣言し、自分の立場を公開します。当然ですが、殺された人はその時点でゲームオーバーです。
『一般市民』及び『共犯者』は、『主犯者』が誰であるのかを、殺されないように目線を反らしながら探り、分かった場合は『告訴』を行います。
・『告訴』の仕方は、『告訴』と宣言し、挙手します。・『告訴』した場合、『同意』してくれる保証人がいないと成り立ちません。
・『同意』された場合、せーので指差し、指された人が『主犯者』であればゲーム終了。『共犯者』もしくは『一般市民』であった場合は、違いますと宣言し、『告訴』した人のみがゲームオーバーです。
・同時に指差した時、違う人を指差した場合も『告訴』した人のみがゲームオーバーとなります。
・この為、同意した保証人と一致しそうにない場合は『告訴』を『却下』することができます。
・『告訴』、『同意』、『却下』は『主犯者』、『共犯者』も行うことができ、ブラフとして使うことも可能です。
以上が、通常のウインクキラーのルールです。POTにもルールが書いていますので、自信のない人は後から確認して下さい」
「しかしながら、今回は五千人が同時にウインクキラーゲームをする為、少々ルールを改変しています。
・円形になるのではなく、範囲は学内を三つの区画に分け、生徒を三等分し、行います。
・『主犯者』は三百人。『共犯者』は七百人。残る四千人は『一般市民』です。
・ゲームオーバーになった人は、不自然な動き、誰かの役割を公表するなどの行為をせずにここに戻ってくること。
・三十分に一度、POTを用いて同時に『告訴』を行います。『告訴』では同時に二人まで名前を挙げることができます。ただし、『告訴』はしなくてもいいです。詳しい『告訴』のやり方はPOTを参照すること。尚、『主犯者』は『告訴』が出来ません。
・『告訴』時に二人以上の票が入った『主犯者』はゲームオーバーとなります。
・『告訴』が当たっていても、一人であれば『告訴』した人がゲームオーバーとなります。一人も当たっていなければ勿論ゲームオーバーです。
・三十分以内に一人も殺さなかった『主犯者』はゲームオーバーとなります。
・誰々が『主犯者』っぽい。等のブラフなり情報交換なりは認めますが、『告訴』時に協力して同じ人にいれる密約を交わすことなどは認めません。
以上が改変したルールです。こちらもPOTに記載されていますので、三十分後、つまり十二時のゲームスタートに備え、よく読んでおいて下さい。
勝ち、負けの基準ですが、各役割毎にポイント方式をとっています。各役割で一番ポイントをとった人が優勝。それに準じる好成績を残した人にも、特典がつきますので、どうぞ頑張って下さい。尚、ゲームの成績も生徒のランク変動に関わってきます。過去の一例を挙げますと、入学時Dランクだった人が第一回のイベント後、Aランクになったこともありました。一発逆転のチャンスでもありますので、必死にやって下さい。ゲームオーバーになった人は、ポイントは0点と換算されます。
・『主犯者』は殺した人の数がそのままポイントです。
・『共犯者』は殺した人の数、『告訴』によってゲームオーバーにした『主犯者』の数がポイントとなります。尚、『主犯者』との差別化を図る為に、後者のポイントの方が前者のポイントよりかなり高くなっています。比率は公開しませんが、このポイントの合計により判断します。
・『一般市民』は『告訴』によりゲームオーバーにした人の数がポイントとなります。しかしながら、『一般市民』の立場上、『告訴』はかなり危険性の高いものとなっているので、『一般市民』においてゲームオーバーになった者は、それまでのポイントマイナス一点ということになります。仮に全『一般市民』のポイントが0であった場合は、『一般市民』からの優勝者はありません。
ゲームに関する説明は以上です。注意点としては、真面目に行動をしていない生徒はランクを容赦なく下げます。ゲームの進行状況なども随時POTで確認ができます。尚、詳細な説明はPOTに記載してますので、絶対に確認しておくこと。十二時十分前に各生徒のPOTに役割を送信します」
盛り上がってきました。これが楽しみだったんだよ、これが。カメラはウインクをされたかどうかの証拠で、不正のないように音声録音ってことか。早くやりたい。
「篤志、でも、五千人のほとんどの奴の名前分かんないのに、どうやって告訴するんだ?」
「POTを参照すること。とか言ってたよな。んーと」
POTのウインクキラーゲームから告訴の仕方へと目を移す篤志。
「あー、なるほどな。よくできてるわ」
「どういうことだよ?」
「自分で読めよ。簡単に言うと、すれ違った人の顔と名前、近くにいる人の顔と名前が表示・記憶される設定になってるみたいだ。名前検索とかもかけれる。告訴の時はこのページを表示するから、これなら、やり方に気付いてない人でも、感覚でやり方が分かるな。すげーわ」
流石に抜かりないな。今のうちに作戦を立てておかないと。
「おい、湊、朗報と凶報が同時に入ってきたぞ」
「なんだよ」
「三つに区分された生徒の一覧が届いた」
どれどれ。……ふーん。
「駿河姫香。同じ区画だな。近くで見れるというのが朗報で、強敵だってのが凶報だ」
「篤志、もう一個凶報があるぞ」
「なんだ?」
「俺達が敵同士ってことだ」
えっ、ちょっ、おまっ。とか言ってる篤志を尻目に作戦を考える。が、とりあえず役割が分からない限りはなんともし難いな。ん?……おっ、届いたっぽいな。よしっ、やるか!!
「……………絶対に確認しておくこと。十二時十分前に各生徒のPOTに役割を送信します」
ウインクキラー。中学の時流行ってた気がする。
「ことりあそびぃ」
「亮介、次その呼び方したら喉笛食い破る」
「ひー、優一くんこーわーいー」「……」
亮介の頭の中はいつでもお正月だ。
「あらら、優くん怒っちゃった?ところで、総合成績五位のお前的にはどうなのよ?」
「六位」
「まあまあ、どっちでもいいじゃんよ。IQテストなんか二位だっけ?」
「信憑性薄いし」
「とれる奴が言うと違うねー。ま、俺の方が身体能力テストとゲーム選定上だったけど」
「脳筋のゲーム馬鹿に負けても仕方ない」
「脳筋とか酷いわー、これでも総合五十位だぜ?」
「まぐれ」
亮介はなんだかんだ頭もいいが、五月蝿い。
「まぐれとか酷いわー。んで、総合六位の小鳥遊優一大先生的にはやっぱりイベントで名を上げようかなって感じかい?」
「どうでもいい」
本当にどうでもいい。ここに入学してきた生徒の中では珍しい部類だとは思うけれど、僕はイベントには大して興味がない。勿論、賞金とかは魅力的だけれども、魅力的でしかない。本気を出して、強引にでもイベントを勝ち進んでいこうなんていう気概は僕にはない。
「そーんなこと言ってー。なんだかんだ、賞金だとか、優遇される環境だとか、欲しいんだろ?」
「亮介が頑張って、僕に貢いでよ」
「俺が貢ぐのは、お前みたいな可愛い男の子じゃなくて、あそこに座ってる姫香ちゃんみたいな可愛い女の子だぜ!」
可愛いって言うな。童顔なのはコンプレックスだっていうのに。
「精々頑張って」
「お前は頑張る気すらないのかよ!」
「普通に参加はする。だけど、ポテンシャル以上に頑張るようなことはしない」
「お前らしいというかなんというか。おっと、そろそろ役割が届く時間だな。俺とは違う区画だけど、頑張れよ優一!」
ん。届いたみたいだ。
「……………絶対に確認しておくこと。十二時十分前に各生徒のPOTに役割を送信します」
ウインクキラー。中学の部活で流行ってしょっちゅうやってたから有利かと思ったのに、これじゃ別のゲームだって考えた方がよさそうね。
知名度的にアドバンテージがあると思ったら、こんな条件じゃデメリットの方が多い…。五千人の中で、名前と顔が綺麗に一致してる対象は、恐らく全生徒中私だけ。楽観視しても、もう二、三人がいいとこ。これは面倒だわ。
区画毎の生徒一覧を見た感じ、四位の岡野康平、六位の小鳥遊優一、十一位の一之瀬湊あたりが危険人物っぽいわね。だけど、今回は入学試験の成績よりも、ゲームの強さとかの方が重要になってくるかしら。うーん、あまりあてにならない。『主犯者』、『共犯』なら闘いようがあるんだけど、『一般市民』になったら本格的にまずいわね。どうしたものかしら…。今後の学校生活を考えても、このイベントは絶対に勝ちにいきたい。役割が決まるまで行動は起こせないけれど、ひとまず『一般市民』にならないように願うしか…。
ん?そろそろ届く頃合いかしら。
…共犯者か、ある意味激戦区だな。おっし、勝ちいくぜ!
…主犯者。一番闘い易い役割がきちゃった…どうしよう。
…一般市民……洒落にならないわね…。
ウインクキラーが始まる。




