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1.入学式

  

  私立足出ヶ原学園高等学校。


 全生徒数一万五千人。国内最大にして最高の私立高校。国立を含む名だたる大学への指定校枠を多数保有し、生徒会執行部、風紀委員会になれば将来が約束される。この学校が人気な三つの理由の内の一つである。

 二つ目は入学制度が他とは一線を画しているということ。入学試験自体の難易度は一般的な進学校レベルであり、それに加え、独自の入学選定を行っている。IQテストや、身体能力テスト、面接試験、学術選定、芸術選定、ゲーム選定等で、受験者の特殊技能などの判断材料とし、大学側の独断と偏見により総合力を判断し、入学選定としている。よって、勉学に励んでいないネットゲーム廃人のような生活を送っていた中学生にもチャンスがあるのだ。

 三つ目、そして、一番の人気の理由は、イベント。文化祭等の学校行事も行われるが、そんなちゃちなものではなく、イベントにおいて好成績を残す事が出来れば、賞金が出る、生徒会執行部への入部資格が得られる、学内での生活のあらゆる場面において優遇される(食堂の料金免除、私服登校の許可、遅刻欠席の容認、授業の免除等)、就職・進学の優遇などの特典がある大々的なイベントである。これらの理由から国内だけでなく、海外からの生徒も多い。校是は「切磋琢磨」。各方面に優秀な人材を輩出しているが、良くも悪くも実力至上主義の学校である。経営は国内外問わず、世界の経済を牛耳る数々の大手企業からの寄付で成り立っている。(高校データベースより、一部抜粋)






「只今より、私立足出ヶ原学園高等学校、入学式を始めます」

 講堂に生徒だけで五千人。あまりに多い為に、保護者の入学式への参加は断られている。これほどの人数が、整然と区画された椅子にお行儀よく座り、ステージ一点を見つめている様は圧巻だ。勿論、俺の他にも何人か辺りを見回している奴も見受けられるが。

「おい、湊、みーなーとー、一之瀬湊くーん」 どこであれ、同じ中学からの進学者は多くはないだろうが、一応出身校毎にまとめられているみたいだ。幼なじみの篤志が隣に座っているのはそういうことなんだろう。

「聞こえてるよ、なんだよ」

「あんまりキョロキョロすんなよ。目立つぞ」

「五千人もいるんだ、顔覚えられやしねーよ」

「そういう問題じゃないだろ。それより、あそこ見ろよ、あそこ」

 どこだよ?ほらあそこあそこ。緞帳のとこの?違う、もっと右。とかそんなやりとりの中、篤志が何を指しているのかが分かった。

 生徒五千人とは少し離れた、来賓等の席の傍に座っている、顔立ちの整った茶髪の少女。校則に髪は黒か茶色のみって書いてあったけど、あんなに色の抜けた茶色でも大丈夫なのか。もう少し色抜けば良かった。

「何であの子あそこにいるの?生徒会長とか?」

「生徒会長はあそこのムサい背の高いあれだよ。あのおっさんぽいの。あっちの可愛い子がこの五千人のトップ。噂によると、この学校の入学成績、歴代でも四位らしいぜ」

 ふーん。あれが噂の駿河姫香って奴か。どいつもこいつも噂してたから流石に名前を覚えてしまった。成績優秀、眉目秀麗。まさに才色兼備ってやつだな。気に食わない。

「いいよなぁ。生徒会選挙前から書記確定だぜ?もう既にある程度人生決まってるじゃん」

「何で立候補もしてないのに書記になんの?」

「お前さぁ、入学する学校の制度くらい頭に入れとけよ。無関心というかなんというか。生徒会選挙は一般役員しか決めないんだよ。入試の成績一位の奴が一年で書記、二年で副会長、三年で会長をするんだ。勿論、入院だとか留学だとか、例外的な時には臨時選挙が行われたりするけど、よっぽどのことがない限りはそのまま成り上がるってわけよ」

 尚の事気に食わないな。

「何でお前が不服そうな顔してんだよ。総合成績十一位だろ?いいよなぁー。俺なんかギリギリ三桁くらいだぜ?面接は歴代ダントツ一位。ゲーム選定も十一位だし、そんなお前に不服そうな顔されたら俺落ち込んじゃうよ?鬱になっちゃうよ?」

 さっきチラッとみせただけで全部覚えやがった。目敏い奴め。

「鬱になって静かになるんなら、鬱になってくれ。お前だって瞬間記憶力八位だろ?すぐ覚えれるんだから勉強すれば成績もいいだろうに」

「無理。活字受け付けない」

 入学試験の成績だって、篤志みたいにまともに勉強してない奴から、入学する為に死ぬ気でやった奴までいるだろうから、そんなに絶対的な評価基準にはならないだろうに。まあ、少なくとも真面目か否かの判断くらいはつくか。

「湊、どうせしてないだろうし言っとくけど、選択授業決めとけよ」

「選択授業か。忘れてたわ」

「合格者説明会で配られたPOTに載ってるから、確認しとけ」

 言われるままに取り出す。POTと呼ばれるこの携帯端末は、授業の情報や各委員会からの連絡、課題等の情報を得るのに使われる。所謂スマートフォンというやつだ。実際、通話やメールのやりとりなども行える。

 基礎授業、必修授業、選択授業、特別授業、補習講座とやらがあるのか。基礎授業はAランク以上は免除。成績百位以内がS、千位までがA、二千位以内がB……でDまであるんだったか。じゃあ免除だな。必修はいいとして、選択は……心理学、薬学、法学、工学、理学、農学、宗教学、建築学、医学、語学……大学みたいだな。定員制で成績順に優遇か。本当に実力至上主義なんだな。特別授業ってのは、芸術系とか特殊技術ってわけね。補習は馬鹿専用っと。うーん、どれにしたものか。





「以上で、入学式を終了します。一同起立」

 おっ、終わった終わった。

「早速ですが、新入生歓迎のオリエンテーションを始めます」

 黒いスーツに赤い眼鏡の女教師が一人、ステージに上がる。

「篤志、オリエンテーションなんかプログラムにあったっけか?」

「いや、載ってなかった」

 オリエンテーションって何をするんだ?

「本学に入学したからには、イベントの存在は知っていますね。入学式も終わったことですし、早速第一回目のイベントを開始します」

 会場がざわめく。まさかこんなすぐにイベントがあるとは…思いも寄らないってやつだな。

「今から配るゴーグルを着用して下さい。カメラが備え付けられています。尚、眼鏡をかけている者は、眼鏡に取り付けるタイプのカメラが支給されます。音声も録音されますので、不正行為を働いた者は、指導を行い、場合によっては処罰を下します」

 徹底してるな。怖い怖い。というか、カメラを着用させて何をさせる気だ?

「不正行為についてですが、基本的には何でもありです。しかし、暴力行為や脅迫などの法を犯すような行為、イベントの進行を妨げる行為、そして今回は相手を買収する行為も不正とみなします」

 今回はってことは、相手を買収する行為が認められるイベントもあるのか。酷い話だ。





「第一回目のイベントは、ウインクキラーです」





 総合成績一位。これが私の入学成績。どの部門のテストでも一位をとれなかったのが癪だ。だけど、生徒会執行部のポジションも手にしたし、余程の事がなければ、この学校で生徒会長を務めることになる。正直優越感はあるけど、まだ物足りない。

 そう、この学校に入学したからにはイベントで好成績を収めなきゃ。それが全て。イベントでは、個々人の能力は勿論、人望が物を言うことが多いらしい。一位ってことで知名度としては既にアドバンテージをもらってるわけだし、後は見込みのある子達に上手く取り入って、姫香軍団を立ち上げなければ。

 ところで、私は自分のことを天才だとは思わない。寧ろ完全に努力型だと思う。才能を持ってなかったかと言われたら、それは人並み以上にはあったかも知れないけれど、それ以上に努力しているから。

 ただ一つ、神様に感謝したいことは、可愛い顔で生まれさせてくれたこと。いくら頑張ったところで、可愛くなければ意味がない。……とまでは言わないけど、可愛いに越したことはない。頭の悪い女子連中の醜い嫉妬がないわけじゃないけれど、それを補って余り有るメリットがある。ある程度頭のいい子なら、嫉妬するより上手く取り入った方が有利って分かっているから、馬鹿な女が寄り付かなくて丁度良いってこともあるし、頭の良い子が取り入って内部から崩そうとしてくることもあるけれど、そんな子は頭数も少ないから、実力で叩き潰すまで。男子に関しては、可愛い顔でにっこりしとけば、大体はどうにかなる。所詮権力なんてのは、数の暴力。取り入ることのできない少数の男子のことは放っておいて、多数を取り入れることができれば何ら問題ない。

 ひとまずは、第一回のイベントに向けて、女子を取り込んでいこう。最初から色目を使って男子を標的にすると、女子からの反感が洒落にならないから。最初の一ヶ月で女子の仲間を増やしていって、ゆっくりと男子へと着手していこう。そうしよう。

「……で挨拶とさせて頂きます」

 長々しい校長先生の挨拶が終わった。新入生挨拶もそつなくこなせたし、入学式はこんなところかしら。「以上で、入学式を終了します。一同起立」

 次は、授業のイントロダクションだったかな。

「早速ですが、新入生歓迎のオリエンテーションを始めます」

 ……?オリエンテーション…なんてあった…?……生徒席が騒ついているし、予告無しでやるみたいね。生徒会執行部からの新入生歓迎のサプライズってやつかしら。

 でもおかしいな、あのステージに上がった女の先生イベント担当ってPOTに載ってた気がするんだけど…。

「本学に入学したからには、イベントの存在は知っていますね。入学式も終わったことですし、早速第一回目のイベントを開始します」

 やられた。完全に肩透かしを食わされた。なるほどね、有力な生徒に基盤を持たせる前にイベントをして、実力で権力構造を作らせようって魂胆ね。その発想はなかったわ。

「今から配るゴーグルを着用して下さい。カメラが備え付けられています。尚、眼鏡をかけている者は、眼鏡に取り付けるタイプのカメラが支給されます。音声も録音されますので、不正行為を働いた者は、指導を行い、場合によっては処罰を下します」

 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。焦っちゃダメ、焦っちゃダメ、焦っちゃダメ。大丈夫、私を誰だと思ってるのよ?駿河姫香よ。不測の事態にも対応が効くはず。このイベントで優秀な成績を収めれば、姫香軍団にも一歩近づくし、一石二鳥よ、一石二鳥。集中、集中。カメラを付けさせて、何をさせるの?……あー、ダメ。落ち着かないと。

「不正行為についてですが、基本的には何でもありです。しかし、暴力行為や脅迫などの法を犯すような行為、イベントの進行を妨げる行為、そして今回は相手を買収する行為も不正とみなします」





「第一回目のイベントは、ウインクキラーです」

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