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C

ゴミを求めて右手に傘をさして左手にはトングとゴミが数個しか入っていないゴミ袋を持ってこの

梅雨の蒸し暑い街を歩き回っていた。雨の降り方は猛烈な土砂降り。

いい加減晴れて欲しい気分が脳内を巡るがどこか心の片隅でまだ降っていて欲しい気持ちもある。

中々見当たらないゴミ。強くなる梅雨の重たい雨の降り。晴れそうにないどんよりと分厚い灰色の雲。

「先生、えんしょく~」

どこからか、「遠足」を「えんしょく」と舌足らずな発音をする男の子の声が聞こえてきた。声の方向にあったのは

薄ピンク色に塗られた小さい保育所であった。その保育所の外廊下で背の低い男の子が立っていた。

ちかくには、保育士と思われる若い女の人がその男の子をあやしていた。

「この雨じゃ無理よ。また今度があるから」

「えぇ、しょんなぁ」

「はいはい、教室に入るわよ」




『んっ?』

そこに雨の中、雨に降られてビショビショに濡れた同い年ぐらいの女の子が立ち尽くしていた。

オロオロとしていてどこか挙動不審。

『どうしたの?』

声を掛けてみるが彼女は身振り手振りで答えるだけで口から声は聞こえない。足元に視線を落とすと

靴なんてものは履いてなく裸足だ。しかも泥などで結構汚れているし一部切り傷も確認できる。

『喋れない?』

それを聞くと彼女は首を縦に振って白色に近い水色のセミロングの髪の毛を大きくなびかせる。

声は聞こえているみたいだ。喋れないけど言葉は理解できる。実に不思議な女の子だ。

『お…僕、佃 俊吾って言うんだ』

危うく「俺」と言いかけた。「俺」は中学校に入ってから使おうと考えていた。だが一応まだ「僕」は小学生だ。

名前を聞くとすぐさま目の前に立っている女の子は舌足らずに名前を呼ぼうとする。

『しゅ…ぅぅ』

『はははっ、もういいよ。えっと名前は?』

その女の子は首を横に振る。

『分からないの?』

その女の子は首を縦に振る。

『じゃあ―』



ボーっとその保育所を見つめていると足元からバキッと大きな音がした。何か踏み潰したようだ。

その足元を見ると何かの食べ物のトレイが自分の足の下敷きになっていた。

「おっ、ゴミさん発見っと」

それを好機と感じ、トングでそれを挟んでゴミ袋に突っ込みビニール同士がこすれる音がおのずと耳に入る。

トングと傘を持ち直すと少しばかり上機嫌になり、雨の街を彷徨う。



僕の家族は母親が1人だけ。世間が言う所のシングルマーザーだ。父親は僕が小4の頃に母と離婚して

僕は母に引き取られた。そしてここまでの2年間、女手一つで育ててくれた。

『大丈夫だよ。母さん優しいから』

僕が手を引いている女の子はどこか不安げな表情を浮かべている。相変わらずオロオロしている。


家族が増える。


『ただいま~』

『あっ、おかえりー。…っとその子は?』

『あぁ、この子はね』



「あっ?佃か?」

「えっ?」

交番の目の前を通り過ぎようとすると中から中年の制服警官が声を掛けてきた。どこか見覚えのある顔と

特徴的な甲高い声。

「田中さん?」

「そうだよ、どうした?脱獄でもしたのか?」

冗談交じりで話しかけてくるこの中年の警官の名は田中俊彦。俺が少年院に入るきっかけを作った際、

色々と面倒を見てもらい世話になった人だ。

「社会奉仕ですよ。社・会・奉・仕」

「はははっ、そうか。お前の口からそんな言葉が出るなんてな」

「こんな好青年が脱獄する訳ないじゃないですか~」

「それもそうだな。で、その好青年はトングとゴミ袋を持って何をしている?」

「ゴミ拾いですよ。きれいな街のね」

「ソイツは嬉しいか嬉しくないかよく分からないな。あっちょっと待ってろ」

そう言い残すと彼はコンクリート製の交番の建物の中に入って再び出てくると彼の手には色々とゴミが詰まった

スーパーのビニール袋が握られていた。しっかりと口も閉められている。

「丁度、ゴミ箱がなかったんだよ。助かった」

苦笑いする田中に釣られて自分も苦笑いを浮かべるとビニール袋を受け取りゴミ袋にそっと入れた。

「ありがとうございます」

「…また出てこれたら顔見せろよ?」

「はいっ」

それだけ答えると俺はさっさとその交番を去っていった。




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