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三島××のはなし

三島××です。どうぞよろしく。

つまらない人間ですけど、なにか。

どうせ俺は負け組だよ。

勉強はいつも平均点すら取れないし、憧れで始めた野球だってセンスなかったみたいで中三になってもレギュラー入りできなくってベンチで応援だったし、友達もいなかったし、容姿だって普通で特に目立つような顔立ちじゃない、俺なんて負け組なんだよ。

わかってるよ、そんなこと。

かあさんだっていつも言ってたじゃないか。

あんたはなんでそんなに何もできないのかねぇって。

しかたねぇじゃねぇか、向かいのひろしじゃあるまいし。

中村ひろし。俺の家の向かいで幼馴染。

あいつは勉強ができる。運動ができる。所属しているサッカーチームで攻撃の要を任されているような奴。性格も明るくて人気者のあいつは常にだれかがそばにいる。勉強、運動ができて性格も明るい、容姿もそこそこのあいつ。ひろしはモテる。

そんなあいつは幼馴染の俺になにかあるごとに突っかかる。

「なぁ、テストどうだった? おれさ、今回は数学やばかったんだよな」

うるさいな、俺はどれも自信がねぇよ。きっとどれも赤点だ。

「なぁ、今日の体育めんどくさいよな。リレーの練習ってなんの役に立つんだか。走るよりも遊びたいよな」

うるさいな、どうせおまえはアンカーを任されてるんだろ。いいじゃないか、期待されて。俺はお前みたく足も速くないから適当なところに入れられてるんだ。

「なぁ、島崎がさ、新しいゲーム買ったから一緒にやろうって言ってだ。お前もこないか」

うるさいな、島崎の顔見ろよ。明らかに嫌がってるじゃないか。俺みたいに暗い奴はいらないんだよ。お前じゃないか、誘われてるのは。

「なぁ、おれ、試合でレギュラーとして使ってもらえるようになったんだ。ちょーうれしい!」

うるさいな、俺なんか万年ベンチで試合にも使ってもらえない。退屈な野球部はもうやめたんだ。

「なぁ、高校、どこに決めたんだ? おれ、S高に行くことにしたんだ。一応A判定だぜ!」

うるさいって言ってるだろう! 俺もそこに行きたかった! 判定はDだ!なんなんだよ、ひろし! おれに恨みでもあんのかよ。俺はお前みたいに賢くも運動ができるわけでも性格が明るいわけでもないんだ! お前なんか、おまえなんか

「だいきらいだ!!!」


「すごいじゃないか、三島。おまえの作品を応募したら入選したぞ! 銀だ、銀。今度の集会で表彰してもらうから楽しみにしておけよ」

は……。

表彰だって?

「あら、すごいじゃないの。あんた、そんなことできたのね。かあさん、うれしいわ」

俺が……?

美術の時間。課題だった水彩画で入選した。銀賞らしい。これは俺が取った初めての賞。初めての高評価。

やった……やった、やった、やった!!

俺が入賞! 俺にも人に勝るものがあった! 俺はこれで、絵であいつに、ひろしに勝てる!!

「あ、ごめんなさい」

「いえ。平気です」

肩がぶつかって倒れた女の子。普段は無視するか舌打ちをするところだけど今の俺は上機嫌だ。倒れた女の子にほほ笑んで立たせてやった。茶色のフレームの眼鏡をかけた女の子。

俺はやれる。いまならなんだって出来そうな気がする! あいつにだって負けない。そんな気さえする。俺はあいつに勝つものが見つかった!!

「えー、今回は集会で○○主催のコンクールで賞を取った生徒を表彰する予定でしたが、三年二組の中村ひろしくんがサッカーの選抜に選ばれたそうなので応援をしようと思います。中村君は……」

……なんだよ。ひろし、けっきょく俺はお前に負けるのか。お前は唯一お前に勝つことができた俺の長所までつぶすつもりなのか。お前は、何がしたいんだ。お前は、ひろし、お前は俺に勝たせてはくれないのか。

「なぁ、三島! 聞いてくれよ! おれさ」

「うるさい!! おれにかまうなよ!!」


俺は負け組なんだ。

あいつには勝てないんだ。

勉強もできない。運動もできない。所属していた野球部でも三年間ベンチだったし、性格も明るいとは言えない。顔だってカッコ良くない。

そんな俺でも絵だけはお前に勝てた。

初めて認められたのは美術で取り組んだ水彩画。

でも、ようやく人より秀でていたものをお前につぶされた。

お前に舞台を取られたときに知った。俺は負け組だ。俺はお前を勝たせるためにある。

何かがつぶれるいやな音を聞いた。

ぐちゃり。

つまらない人間ですけどなにか。

やっと勝てるものをつぶされましたけどなにか。

今から死ぬつもりですけどなにか。

へいきだろ?

俺が死んでもあいつを立たせる奴がいなくなるだけで何も変わりはしないよ。

あ、電車が近づいてくる。

目の前の踏切の安全バーが降りてくる。

耳障りなやかましい音。

向かい側に人はいない。こちら側にも人はいない。

超えちゃいなよ。

飛び込んじゃいな。

近づく轟音。

そうだな、そろそろか。

あ、言っとくけどな、俺、幼いころはあいつより強かったしなんでもできたんだぜ? 今になっちゃ、なんの自慢でもないけどな。

黄と黒のバーをあげて中に入り込む。点滅する赤いランプを通り越した。

線路の上に立つってなかなかこわいもんだな。

電車を正面には見なかった。見つめるのは線路を越えた向こうの方。

あー、俺ってやっぱ負け組か。最後までお前に勝てなかったしな。

ぐちゃっ。

大切なものがつぶれた音がした。

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