トイレの隣に誰か来ると出なくなるアレについて
同時に仕切り一枚隔てた隣に並ぶ、この気まずい瞬間をなんと呼ぶ──
空間が「ピキンッ」と一瞬に凍りつき、お互いの意識が沈黙して交錯する。
私はこれを「過剰意識からの排尿頓挫」と呼ぶ。
相手もそういう仕草であるようだ、同じタイプで安心したら共感が満ちた。
私はベルトの金具を手早く外し戻ってこないように、
ベルトの先端部分をベルトループに折り返すようにして差し込む、
こうすると用を足す(小便)時に便利なのだ、最近の男なら皆そうするものだと思っていたのだが……
隣の共感者は社会の窓から直接タイプのようで動作が少ない(直接タイプは私から見れば上級者)
おもむろになれた手付きで、ガクっと腰を引く……そう男なら一度は経験のある動作"それを"意味するのだ。
互いに用意は済んだはずなのに、無音のまま沈黙だけが乾いたように過ぎていく、相手の眼球だけは忙しくこちらを伺っているだろう、無論、私も伺い構えている。
手に取るように読める感情が言い知れぬ現実受容を突きつける。
さあ、どちらから動くのかは分からぬ状況から、脳の緊張が解けたのか、場の空気に馴染んだのか分からないまま、ほぼ同時に緊張と緩和解かれ"それは"発射される。
この安堵はいつもながら至極の瞬間なのだ、あとは只、満水に満たされた入れ物が空になれば終了である。互いに凝縮された息が鼻口部から押し出された。
脊髄反射が起こり霧散が鼻についた、横目で一瞥を向けながら、仕舞いの反対動作を手早く行う。無論、動作の手数が多い私が遅れを取ってしまう。
私はポケットから綺麗に折りたたんだハンカチを咥え、手を洗う──
「ええ…」
隣の男は手を洗わず出て行った。ハンカチを忘れても、洗うことは出来るはずなのに……
それとも私が几帳面すぎるのか……
私はそのモヤモヤがまだ収まらないなか、喧騒でごった返す席に戻りハンドルを握るり、銀色に輝く玉を打ち込んだ。
おわり




