社会人編3
突然のカミングアウトに七季がきょとんとしていると、蝶子の話が急に飛んだ。
「高校生の頃、要ちゃんってオーラが見えるって言ってたの知ってますか?」
そういえば、そういう噂があった事は知っているが、高校の時から再会した後を含め、要からその話を聞いたことは一度もない。
蝶子が言うには、高校の頃が一番強く見えていた頃で、今はもう薄らボンヤリだが、それでも見えるには見えるらしい。
「要ちゃんの見えるオーラって面白いんです。普通、見えるオーラは何色とかあるじゃないですか? でも要ちゃんが見えるオーラは“硬さ”らしいんです」
「硬さ?」
「カチコチとか、ブヨブヨとか」
そう言いながらクスクス笑う蝶子は、オーラが見えるという親友の発言を馬鹿にしているわけではなく、見える前提で見えるオーラの話で笑みをこぼしていて。
「初めてだったそうです。あんな大きく硬度なオーラを持つ人。絶対的に信念のある人だと」
そう言って蝶子の視線がまっすぐに七季を射抜いた。
「……僕の、オーラ?」
聞き返せば、蝶子は微笑みながらゆっくりと頷いて。
「要ちゃんは元々、あまり明るい性格な子ではなかったんです。表情が変わらないから苦労して言葉を尽くしても、結局周囲が思う“沖田要”という型にはめられて嫌われて」
自分達が傍にいてもこれ見よがしに、目の前で悪口を言われることが多かったのだ、と蝶子は悲しそうに思い返す。
――美人だからってお高くとまってるよね。
――口では何とでも言えるしウザッ。
そのたびに要は傷ついた。
『なにもっ……伝わらないっ! 私の気持ち……っ勝手に、決められてっ……誰にも届かなくてっ……誰にも聞いてもらえなくて……っ!』
表情が乏しいから、傷つかないわけじゃない。
その分、要は努力をしたのだ。
自分の感情が湾曲して伝わらないよう、まっすぐに言葉を紡ぐ練習をした。
それを無にされた時、悲しいや辛いを通り越して、虚しい感情がわいてきても仕方がない。
そうして周囲は要から言葉さえも奪っていくのならば、彼女の想いはどこへ行けばいいのだろう。
「そういう場面で、ある日、光山先輩が通りすがったの覚えてます?」
「……いや」
――自分が正しいこと言ってますって雰囲気出すのがもうウザいよね。
――はいはい、美人は何したって得なんだから、正義感振りかざさなくても
『理解しない相手が悪い』
「そう言うだけ言って、スタスタ去って行って。残った皆唖然としたんですよ」
私達も、相手も。とクスクス笑う蝶子に七季は視線を逸らして「……覚えてない」と呟くのが精いっぱいだ。自分の記憶にない若気の至りを晒されて、気恥ずかしさで顔面が紅潮していくのがわかる。思春期でそれが正義だと思っていた自分を真正面からぶつけられ、ぐぬぬとむずがゆさに苛まれて。
「その時、初めて私達が光山先輩を認識しました」
私達、の中には蝶子意外に要が含まれているのも気づけて。
「だからあの時、声をかけたのは確かに私でしたが、光山先輩に声をかけて欲しいと頼んできたのは要ちゃんだったんです」
「――え?」
『あの先輩、ちょっとオーラが重そうなの。すごく強い意志を持っているのは確かだけれど、たぶん息の抜き方を知らないんだわ。蝶子ちゃん、もしよかったら写真部に誘ってあげてくれない?』
『え? ……要ちゃん、気になるなら自分で行ったらどうかな? 一緒に行くよ?』
『いいえ、駄目よ。私は表情がこれだから誤解を与えかねないし……』
『でも……』
『お願い』
『……わかった』
そうして、蝶子が七季に声をかけたのだという。
七季の想いの前提が根本から覆された瞬間だった。
――ああ、駄目だ。
そんな事を聞いたらもう。
「……悪い」
ポツリと呟いて七季は立ち上がった。
素早く荷物を抱えて、その場の原状回復を慌てる。
「茅たちに詫びといて。今日はちょっと用事出来たから、埋め合わせまた今度するって」
「……はい」
何かを理解したように微笑む蝶子は短くそう答えて、けれど勇み足の七季をもう一度呼び止めて。
「光山先輩」
一呼吸を置いて。
「要ちゃんの事、よろしくね」
そう言って満面の笑みを浮かべる蝶子に、七季は踵を返しながら答えた。
「まかせろ」




