表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蟻が如く  作者: 海星
4/8

ナマズ

 恐るべき時が来てしまった。

 「オシッコしたい」

 考えないようにしていた。

 異世界のトイレ事情、考えただけで恐ろしい。

 ガキの頃行ったキャンプ場の汲み取り式の便所。

 『トイレ』じゃなくて『便所』と呼ぶに相応しいあの不潔で、異臭漂うアノ空間だ。

 都会なら、地球でもローマとか紀元前でも下水道が完備されていたという噂もある。

 しかし、こんな村だったら・・・。

 だから、あんまり考えないようにしていた。

 『僕は機械。

 だからトイレには行きたくならない。

 下半身はない。

 排泄器官はない』と自分に言い聞かせていた。

 だがもう自分を騙せない。

 言い替えれば「無茶苦茶オシッコしたい」

 これ以上は我慢出来ない。

 僕は覚悟を決めて冒険者ギルドの受付嬢に言う。

 「トイレ借りたいんだけど」と。

 僕がまるで『魔王を倒しに行く』かのような覚悟を決めた顔で『オシッコしたい』と言った事が受付嬢のツボに入ったようだ。

 受付嬢は爆笑している。

 僕はそれどころじゃない。

 いつもだったら踏ん張りがききそうなのに、今日は謎に我慢出来なそうなのだ。

 (笑ってる場合ちゃうぞ!)

 僕の心の声が聞こえたのか、ギルド職員用のトイレを貸してくれた。

 何でも「冒険者用のトイレは混んでるし汚い」との事だ。

 今回が特別扱い、という訳じゃなく女性冒険者には職員用のトイレを大体貸すらしい。

 冒険者用の男女共用のトイレでは、不届き者の男性冒険者がごく稀にではあるがトラブルを起こす。

 女性冒険者にとってそれは笑って済ませられる問題ではない。


 その話をイライラしながら聞く。

 「あー、コイツも僕を女だと思っている」と。

 だが、そんなん今はどうでも良い。

 とにかく僕の頭の中は『オシッコさせろ!』という言葉が渦巻いていた。

 受付嬢は察して、僕を職員用トイレに連れて行ってくれた。

 トイレの前には興奮気味に女性ギルド職員達が『冒険者ギルドを占拠していた、ならず者集団を追い払ってくれた女の子の話題』を語っていた。

 どいつもコイツも勘違いしてやがるなー。

 女じゃないし、偶然事故っただけだよ。

 何一つ、話してる内容は正解じゃない。

 でも今はそんな話はどうでも良い。

 どうしようもなくオシッコがしたい。

 職員達の勘違いを質すのはその後だ。

 トイレの下には川が流れているみたいだ。

 噴水広場自体が橋の上に建っていて、下は橋、その下は川の水らしい。

 つまり、ギルドのトイレで排泄された糞尿はそのまま川を流れていく、と。

 理屈はわかったが、出来る事なら川魚は食いたくないな。

 まあ、ある意味水洗だ。

 清潔と言えば清潔だ。

 そんな事も言ってられない。

 オシッコがもう漏れそうだ。

 勢い良くズボンを下ろす。

 ズボンはベルトで絞めているから下には落ちない。

 だが、ベルトを緩めてズボンを下ろしたらユルユルのパンツもまとめて脱げた。

 「あ」

 ポチャン

 ストンと脱げたズボンとパンツはトイレの中に落ちた。

 トイレの中=深く急流の川の中

 下半身は靴下と靴だけ履いているマニアックな格好だ。

 ズボンの中に貴重品は一切入れていない。

 あーもう恥ずかしい。

 『ズボン流しちゃいました』って受付嬢に正直に言うしかないよな。

 もう耐えられない。

 取り敢えずオシッコした後に『どうするか』考えよう。

 トイレは和式トイレのような形状だ。

 座りションベンしよう。

 立ちションベンだと飛び散ったり、少し汚れるんだよね。

 良く『男性も座って用を足して下さい』とか『一歩前に出て下さい』て張り紙あるじゃん?

 ズボン借りるだけでも迷惑なのに、飛び散らせて汚すとか有り得ないよな。

 座りションベン一択だ。

 便器を跨いで用を足す。

 ジョボボボボ・・・

 ぎょうさん出るわ。

 思わず関西弁になるぐらい。

 ションベンし終わった後に気付いた。

 ない。

 便器の中に落としたか?

 何を落としたかって?

 ズボンとパンツと・・・チンコを。

 僕の股間にはチンコがついていなかった。

 川に流れていっちゃったなら大事だ。

 ズボンを流した時に思った。

 「こんな急流に流したらもう見つからないぞ」と。

 こんな急流にチンコを流してしまったとしたら?

 流して見つからないどころか魚のエサだ。

 「このナマズ、お腹大きいぞ!

 多分、何か食ってる。

 お腹切って中身を確かめて見よう!

 ・・・オイ、このナマズ、チンコ食ってるぞ!」

 僕は下らない事を考えた。

 現実逃避だ。


 そんな事はともかく僕はこの時、チンコを失った事を自覚した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ