ステータス割り振り
「タマとったるわー!」
「あ、物件違いです。
貴方がトラックで突っ込むつもりだった暴力団の組事務所はこの裏です」
もうカチ込まれるのも二回目だし慣れたモンだ。
家の裏に武闘派暴力団の組事務所があるとは露知らず、『都内で家賃4000円、風呂、トイレあり』という破格さに僕は転居を決めた。
「事故物件だろうなぁ。
でもそんなん全く気にしないし!」と強がっていた。
ゆゆゆゆゆゆゆ、幽霊なんて怖くねーし!
『矢でも鉄砲でも持ってこい!』と。
でも本当に鉄砲どころじゃなくマシンガンの弾が撃ち込まれるとは。
暴力団の組事務所とウチは見た目が同じだ。
よく知らなきゃ、ウチを暴力団の組事務所と見間違えてもしょうがない。
でも僕の留守中に僕の家がマシンガンで蜂の巣にされてたら帰ってきたら呆然とするよね。弾痕がそこいらじゅうにある風通しの良い物件になったけど家賃が2000円に値下げされたし、引っ越し費用はないし・・・という事で風通しの良い物件に住み続けた。
でも二回目のカチ込みは僕が家にいる時だった。
運良く今回はマシンガンは撃ち込まれていない。
ダンプカーが家に突っ込んで来ただけだった。
安心、安心。
こらこら、うっかりさん。
ウチは武闘派暴力団じゃないよ・・・と思った時、僕は絶命していた。
まあ、ダンプカーが自分目掛けて突っ込んできたら普通死ぬよねー。
しかも「タマとったるわー!死にさらせー!」て殺す気満々だし。
『知ってますか?
トラックにひかれたら異世界転生するんですよ?』
誰だ、テメー。
突然、何を言ってやがるんだ?
つーか、ここはどこだ?
ベルベットルームか?
『そんなペルソナチックな場所じゃありません。
死んだ後、トラックにひかれた人が来る所です』
"トラックにひかれた人が来る所"?
何だそれは?
『良いですか?
トラックにひかれると異世界転生するんです。
それは決まりなんです。
なんで?と思いましたね?
犬が西向きゃ尾は東。
雨の日は天気が悪い。
トラックにひかれれば異世界に転生する。
そういうモノなんです。
善人とか悪人とかは一切関係ありません』
なるほど、勘違いして暴力団の鉄砲玉がダンプカーで突っ込んで来て僕は死んだから、僕は異世界に転生する、と。
確かに、トラックにひかれて異世界転生する話は腐るほどある。
しかしカレー食べてたら何かダンプカーが突っ込んで来た。
それだけで異世界転生する?
カレーを作る時にジャワカレーのルーとゴールデンカレーのルーを半々でミックスしたから?
ぶっちゃけ僕は普通の高校生だぞ?
『そんなのは関係ありません。
貴方はトラックにひかれたから異世界転生します。
それ以上でもそれ以下でもありません。
これは決定事項です』
納得はしてないが、理解はした。
高校生が一人暮しに憧れて、変な物件に住んでたのが悪い、のかもな。
異世界に転生するのはわかった。
でも転生する時に色々あるじゃん。
『チート能力』っていうの?
何も無しじゃイヤだよ。
異世界を生き抜くための"力"っていうの?
『勿論、貴方にはボーナスポイントを差し上げます!』
ボーナスポイント?
『ボーナスポイントは様々な能力と交換できます。
ボーナスポイントはボーナス武器とも交換出来ますが、それはあまりオススメではありません。
最初に手に入るボーナス武器などは少し強くなれば、後から手に入った武器より弱いからです。
ボーナスポイントは身体能力に割り振るのが無難でしょう』
ボーナス武器!?
その中に"斬馬刀"ある!?
『あります。
ありますが斬馬刀はボーナスポイントが足りません』
ボーナスポイントじゃ足りないのに、ボーナス武器として存在してる意味は?
『貴方のボーナスポイントでは足りないでしょう。
でも、他の人のボーナスポイントでは足りる事もあります。
人によって与えられたボーナスポイントは違うのです』
僕に与えられたボーナスポイントってそんなに高くないのか。
そりゃそうだよな。
人助けした結果、トラックにひかれた訳でも何でもないもんな。
カレー食ってただけだし。
カレーのブレンドがジャワカレーじゃなくてバーモンドカレーだったらボーナスポイント増えたかな?
『カレーのブレンドはボーナスポイントに少ししか影響を与えません』
少しは影響すんのかい!
『あと、どうしてもボーナスポイントが足りない時に、身体能力を下げてポイントを手に入れる事が出来ます。
ですがこれはオススメしません。
後になれば、ボーナス武器より優れた武器は必ず手に入ります。
身体能力を削ってボーナス武器を手に入れるのは最低の愚の骨頂です』
それじゃ身体能力を削って斬馬刀をゲット!
『話を聞けーい!』
だって斬馬刀って憧れなんだもん。
"るろろうに剣心"の佐之助みたいでさ。
モンハンだって大剣使いだったし。
『でも身体能力削って、斬馬刀を持てる訳ないでしょう!?』
僕は声を無視して、身体能力を落として斬馬刀を手に入れた。
僕の目の前に斬馬刀が顕現してゴトリと目の前に転がる。
コレコレ!
憧れだったんだよなー!
僕は斬馬刀を持とうとする。
持ち上げられない。
重すぎる。
『そりゃそうですよ。
元から斬馬刀は重いんです。
身体能力を落とした貴方が持てる訳がない!』
そうかい、そうかい。
だったら僕が斬馬刀を持てるようにボーナスポイントを身体能力に割り振って、と。
『無理ですよ、ボーナスポイント全部を斬馬刀に使っちゃったでしょ?』
じゃあなにかい?
僕はこの重くて持てない斬馬刀と一緒に異世界に飛ばされるの!?
『だから言ったでしょう?
ボーナス武器はオススメしないって。
貴方が異世界の森の中で5分生き抜ける可能性は0.3%です』
ど、ど、ど、どうしよう!?
『異世界で飛ばされる所で決まっているのは"陸地で生存可能な所"という事実だけです。
わずかな確率ですが、街中に飛ばされる可能性もあります。
モンスターがいないセーフティエリアに飛ばされる可能性もないわけじゃありません』
でもでも!高確率でモンスターがいる所に飛ばされるんでしょ?
どうにかしてよ!
死にたくないよ!
『自業自得ですが、私も転生者に死んで欲しい訳じゃありません。
・・・わかりました。
本当は転生者に入れ込む事は禁じられているのですが。
でも、やれることは多くありません。
限られています。
最初に言っておきます。
条件があります。
私に従って下さい。
私に任せてもらえるならば、貴方が生き残る可能性を上げるお手伝いをしましょう!』
わかった。
よろしくたのむ!
―――□□□□▷←斬馬刀
↓
↓横から見ると
↓
―――━━━━━
↓
↓ここをこう!
↓持つ所を折り曲げる!
│
│
│━━━━
↓
↓斬馬刀の持ち手の先にハンドルを
↓こうつける!
┬
│
│━━━━
↓
↓斬馬刀の刃の下に
↓四つタイヤを付けたら
┬
│
│━━━━
○ ○
おい、こら。
『私に任せろ、と言ったはずですよ?』
斬馬刀を乗り物にするのか?
『勘が良いですね!
その通りです!
持てないなら、乗れば良いじゃない!
どうです?
賢いでしょう?』
・・・賢いかどうかはともかく・・・
任せたからには文句は言えない。
でも異世界って斬馬刀の下に付けた小さなタイヤで走れるほど、道路が整備されてるの?
それともこのタイヤってオフロード性能が高いの?
『ハッ!?』
何だ、その今気付きました、みたいな驚きは?
『斬馬刀はホバリングさせます!』
何か言う事変わってねーか?
『ホバリングって知ってますか?』
馬鹿にすんなよ!
トリプルドムみたいな移動方法の事だろうが。
しかしこの重い斬馬刀を浮かせる、なんてそんな簡単に出来るの?
『ポイントを使えば・・・ゴニョゴニョ』
ポイントが何だって?
ポイントはもう使えないんでしょ?
『何とかやりくりして・・・。
"身長185センチ"を"身長150センチ"にして。
"体重75キロ"を"体重45キロ"にして。
あ、ダメだ。
色々矛盾が生まれてしまう。
帳尻を合わせないと!
どうすれば帳尻が合うだろうか?
あ、性別を変えれば奇跡的に帳尻が合う!』
後で聞いた話だが『男だから優れている。女だから優れている』という事は一切ない。
男は『一つの事を究めるのに力を発揮』して、女は『同時に物事を進めるのに力を発揮』する・・・つまり、男と女では得意分野がまるで違うのだ。
だが『男の身体的特徴』『女の身体的特徴』というのは間違いなく存在する。
たとえ背が低くても男の筋量・骨量で『45キロ』というのは第二次成長期を迎えた段階ではかなり無理がある。
その矛盾を消さなくては『ステータス再設定』など出来ない。
『男を女に再設定して・・・』
何をブツブツ言ってるのさ?
大丈夫か?
『大丈夫です!
貴方は泥舟に乗ったつもりでドンと構えていて下さい!』
『間もなく異世界転移を開始します。
目を閉じていて下さい。
貴方が再び目を開けた時には異世界が広がっているでしょう!』
何だかんだ、世話になったね。
どうやら僕は望まぬ異世界転移をするしかないみたいだし。
君に任せておいたから、僕は何とか異世界で生きていけるんでしょ?
『・・・・』
ダンマリかい!
最後に聞かせてくれ。
君は一体誰なんだ?
『それは禁則事項で言えません』
そうかよ。
じゃ勝手に"システムボイスさん"て呼ばせてもらうわ。
『好きに呼んで下さい。
最後に私から一つ"餞別"を送ります。
この"餞別"は私の気持ちであり、ポイントは一切いただきません』
貰えるモノはありがたくいただいておくよ。
・・・で、何なの?
『マジックバッグです。
中身には魔法の力で沢山のモノが入ります。
で、マジックバッグに入ったモノは一切重みを感じません。
そしてこのマジックバッグは外側も大変頑丈で軽い素材で出来ています。
きっとモンスターの攻撃を受け止めてくれる時もあるでしょう』
ありがとう。
そのマジックバッグの外側って何で出来てるの?
魔法銀とか?
魔法金属とか?
『いや、ジュラルミン合金鉄です。
軽くて丈夫な飛行機なんかと同じ素材です』
夢がねーな!
魔法全然関係ないのかよ!
『魔法が関係ないのは外側の丈夫さだけです。
マジックバッグの内側は魔法の力で大容量です。
それともう一つ餞別があります』
何だこれ?
ヘルメットか?
『その通り。
斬馬刀に乗る時、忘れずにかぶって下さい。
貴方の頭をシッカリ守ってくれるでしょう。
それにコレは戦闘時に貴方の頭を守る兜の役割をしてくれるでしょう。』
・・・そんな事を言っていたら今度こそお別れの時間です』
そっか。
異世界じゃ家賃の格安の物件には気をつけるわ。
あと、近くにその筋の人らの事務所がないか、気をつける事にするよ。
『それを聞いて私は何て答えれば良いんでしょうか?
兎に角、異世界での貴方のご健闘を祈ります!』
だよな。
別に勇者として異世界に召還された訳じゃねーもん。
トラックにひかれただけだし。
神様だって僕に『勝手に生きて勝手に死ね』としか言わんよな。
ましてやシステムボイスさんは特に僕に思い入れないよな。
僕は目を開ける。
街じゃない。
でも森でもない。
山でもない。
言ってみれば街道沿いの平野?
飛ばされた所としては、『大当たり』じゃないけど『はずれ』じゃない、といったところか。
ここで立ち止まっている訳にはいかない。
僕は斬馬刀を肩に背負って歩き出そうとした。
・・・が、斬馬刀が重すぎて持ち上がらない。
どーすんだ、コレ?
斬馬刀は持ち上がらなかったが、斬馬刀の持ち手は90°に折れた。
そして先にはハンドルが付いた。
┬
│
│━━━━
どうする?
乗ってみるか?
斬馬刀に乗る?
アホだと思われないか?
誰もいない今がチャンスだろう。
┬ ○
│ ▼
│ ▲
━━━━
乗ってみた。
・・・特に何もなし。
あのシステムボイスめ、僕を騙しやがったな?
その時、ふと今は亡きカンフースターの名言が頭の中に浮かんだ。
『考えるな、感じろ』
僕は疾走する斬馬刀をイメージした。
が、特に何も起きなかった。
ダメじゃん、ブルースリー先生!
そして何気なくハンドルをひねってみる。
ホラ、原チャリとかハンドル捻るとアクセルふかせるじゃん。
すると、斬馬刀が地上数センチ浮いたのだ。
おっかなビックリ再びハンドルを捻ると僕を乗せて浮いた斬馬刀が軽快に走り出した。
スゲー!
ビビりながらだから、そんなにスピードは出てないけど全開で走ったら結構なスピードが出そうだ。
これだったらモンスターに追いかけられても逃げ切れそうな気がする。
しかし、コレ、乗り方間違えると怖いな。
だって元は『斬馬刀』、刀だもん。
刃が付いてる訳だし。左側から乗ろうとして間違えたら足首が斬れる可能性がある。
斬馬刀、無茶苦茶刃鋭いし。
腐っても『ボーナス武器』だよ。
元の性能がそこそこ良い。
決めた、左側からは絶対に乗らない。
斬馬刀に乗る時、左側には必ずマジックバッグを取り付けるようにしよう。
しばらく街道に沿って、斬馬刀を走らせる。
街道沿いに行っていれば、どこかの街に辿りつくはずだ。
この異世界の常識は知らないけど。
一つわかった事がある。
どうも斬馬刀は燃料を必要としないかわりに、僕の精神力を消費するみたいだ。
MPみたいなもんだろうか?
とにかく斬馬刀を運転していると、次第に疲れて来る。
どうやってこれから斬馬刀を運用していくべきか考えながらペペペぺぺと斬馬刀を走らせている。
走っている速さは『この速さならあんまり疲れが出て来ない』という速さを維持している。
とは言っても少しずつは疲れるし、たとえ疲れなくても腹が減って食事をしなきゃいけないしで、いつかは止まらなきゃいけないのだが。
その『いつか』の前に止まるタイミングは突然に訪れた。
斬馬刀を走らせていると、突然、良くわからん集団が走って追いかけてきた。
進行方向が同じ、というだけで僕を追いかけてきたんじゃないだろう。
そこまで自意識過剰じゃない。
「おい、そこの女!」
当然シカトする。
女じゃねーし。
異世界でも言葉ってわかるんだな。
このご都合主義って『異世界転移モノ』のお約束だよな。
もしかしたら『大いなる意思』によって翻訳魔法が自分にかけられてるかも知れん。
とにかくこの異世界の言葉は理解出来るらしい。
しかしコイツら、輩なのか?
エラい口悪いな!
こういう翻訳なのか?
ネット見てるとたまにあるじゃん?
『訳わかんない翻訳』
だから僕はコイツらを『翻訳がおかしな連中』と思った。
でもソイツらの方向を向いて思ったんだ。
『口だけじゃなくて、態度も顔も悪い集団だ』と。
「誰がブサイクだよ!?
聞こえてるんだよ!」とブサイクAが叫ぶ。
コイツら、見た目も知能も『北斗の拳』に出てくるモヒカン雑魚みたいな感じだ。
この異世界の賊なんだろう。
主人公に『指先一つでダウン』させられちゃう存在なんだろうが、僕は全身を使っても一人にすら間違いなく勝てない。
・・・逃げるに限る。
斬馬刀のフルスピードなら、逃げきれるかも知れない。
そんな事を考えていると賊が左側から近づいてきた。
「お前、俺らをブサイクと言ったな!
美少女に『ブサイク』って言われるのが一番傷つくんだぞ!」とブサイクB。
その気持ちわからんでもない。
美少女にスッパリと『アンタの事、何とも思ってない』って言われた時、軽いトラウマになったもん。
そして何か新しい性癖に目覚めそうになっちゃったもん。
でも誰が『美少女』だよ?
僕に言われたぐらいで大袈裟に傷つくなよ。
『お前、人の事を言えるぐらい整った顔してるのかよ!?』ぐらい言い返して、己の自尊心を守れよ。
それはともかく危ないよ。
左側から近づいちゃダメだ。
近づいてきたブサイクBの足首が、斬馬刀の刃でスパーンと飛ばされる。
「うぎゃー、俺の足首がー!」とブサイクBが転げ回って絶叫する。
うーん、何ともスプラッターな光景だ。
「「女、何しやがった!」」とブサイクAとブサイクCが騒ぐ。
うるせーな。
何もしてねーよ。
お前の仲間が勝手に刃に飛び込んで来たんだよ。
・・・それはともかく『女』というのはどうも僕の事みたいだ。
そういや、システムボイスさんが何やら僕の身体ステータスをいじってたな。
それでどうも僕は『女』と見間違われているようだ。
しかし『美少女』か。
でへへへ、悪い気はしねーな。
この際『男の娘デビュー』しちまおうか?
ネット騒がせちまおうか?
でも配信とか無理なんだよな。
隣が暴力団の組事務所で怖くて大きな音とか立てられないし。
・・・て異世界転移したんだった。
せっかく『中性的美少年』になったのに、ネットでチヤホヤされる夢は叶わないみたいだ。
て、それどころじゃない。
そういや身体能力無茶苦茶下がったんだった。
賊に捕まったらただじゃ済まない!
『何だコイツ?
男じゃねーか!』
『だがそこが良い!』
『お前、俺の○○の中でションベンしろ!』
僕は妄想して震え上がった。
妄想している時間が長かったのか前からブサイクCが突っ込んで来た。
「あ、やべえ」
左側からの攻撃には滅法強い。
左側からの遠距離攻撃にはジュラルミン合金のマジックバッグが完璧に弾き返す。
突っ込んで来る敵は斬馬刀の刃が敵を刻む。
じゃあ、正面からの敵に対しては?
※解説しよう!
『斬馬刀』はボーナス武器。
そこそこの機能を備えているぞ!
『A○フィールド』みたいなスキルがあるのだ!
その名も『ETCフィールド』!
「何だ、その高速道路入口みたいなフィールドは!」
そんな事をツッコんでいるうちに、ブサイクCが前から突っ込んで来た。
ビターン!
ブサイクCはETCフィールドにぶつかった!
※解説しよう!
ETCフィールドは心の壁だぞ!
「やかましい!
パクりのクセに!」僕は頭に浮かんだシステムボイスに怒鳴った。
何故怒鳴ったのか?
『解説』の声は異世界に転移を告げるシステムボイスと同じ声だった。
だが『解説』の声のテンションが妙に高くて『イラッ』としちゃったのだ。
「な、何だこの女!?
強いぞ!」賊は散り散りに逃げて行く。
何にもしてないっつーに。
お前らが勝手に突っ込んで来て、自爆したんだろうが。
まあ、良いや。
助かった。
ちょうど街道沿いに村が見えて来た。
今日はあの村に一泊しよう。
その後の事はその後考えよう。
僕は村の入り口にいる見張りに声をかける。
「日も暮れて来たし、今夜はこの村に泊まろうと思ってるんですが、デュフフ」
意味もなく愛想笑いしちゃうのはヲタクの悪いクセだ。
見張りの目が言っている。
「何が面白い?」と。
別に面白くて愛想笑いしてる訳じゃない。
「まあ、良い。
身分証を出せ」と見張り。
身分証てパスポート?
マイナンバーカード?
健康保険証?
原チャリの免許証は持ってるけど、これ、この世界じゃ身分証として認められないよな?
かくなる上は・・・「ここに来るちょっと前、賊に襲われて今持ってる物以外の全てを失いました」
ここに来るちょっと前に賊に襲われたのは本当だ。
だが、それ以外の話、全てが嘘だが。
嘘話というのは実話に混ぜてこそリアリティが増す。
「少し前にここら辺で山賊があらわれた、という話がある。
もしかしたら、その山賊に貴女は襲われてたのかも知れない」
信じやがったぞ、アホだ。
「貴女を信じていない訳じゃない。
だが、これも仕事だ。
一応、聞かせて貰う。
山賊はどんな感じだった?」と見張り。
「ブサイクな連中でした」と僕。
「うん、間違いない!
貴女を襲った山賊は『亜麻色の街道の山賊』、ブサイクで有名だ。
因みに亜麻色とは茶色の事だ。
言い替えるなら『ウンコ色の街道の山賊』だ」と見張り。
どうでも良い。
わざわざ言い替えるな!
つまり何か?
『亜麻色の髪の乙女』は言い替えたら『ウンコ色の髪の乙女』か?
「通ってよし!
身分証はこの村で新しく発行しろよ。
いつまでも『身分なし』という訳にもいかんだろう?
あ、そうだ。
取り敢えず名前だけでも教えて貰えないか?」
こんな簡単に村に入れるのか?
「こんな話あり得るのか?」と僕は呟く。
「『アリエル』?
それが貴女の名前なんだな?」
どういう耳をしているかわからないが、見張りは僕の名前を『アリエル』と決めつけた。
このディズニープリンセスみたいな名前がそれからの僕の呼び名になった。




