04
六月頭からなにちゃっかり自分が仲良くなっているんですか攻撃から逃げるために教室を離れていた。
まあ、上手くいっていないのにあっさり目の前で名前呼びなんかをされていたら気になるだろうけど姉よりも手強くなるとは思っていなかったし、私の中ではみこちゃんとは仲良くしておきたいという気持ちがあるから寂しかった。
「おお、こんなところがあったんだ、二年生なのにまだまだ知らないところが多いよ」
「あ、露木さんが来ちゃったら……」
「なに逃げているんですか?」
「やっぱり……」
今月いっぱいはこんなことを繰り返すことになりそうでテンションが下がる。
しかも読書も許してくれない子だ、彼女も止めてくるのが大変だった。
「でも、できればまちちゃんには教室にいてもらいたいな、避けられているみたいで嫌だもん」
「ごめん、だけどこの子がね――」
「まち先輩が逃げなければいい話なんですよ、教室だったらこうして追う必要もないんですからね」
それならと露木さんのために教室の椅子に張り付いていたらそれでも毎回やって来るからあまり意味もなかった。
本命といるためだとしても一緒にいるのに自分からは話しかけないから変な時間が続いていく。
「これからもちゃんと守ってくださいね」
ただ実際、この場合は結構すぐに戻っていくから言う通りにしておいた方がいいのかもしれない、彼女も満足そうな顔をしているしね。
全く問題もなくなってしまったのもあって最初から決めていた本を買いにいくというそれは守ることができた。
梅雨の時期というのもあって雨が降っているものの、それが逆によかった、その中で公園のベンチに座って本を読める時間が最高だとわかったんだ。
「はあ~」
「び、びっくりしました」
ばしゃばしゃという音が聞こえてきた後に急にどかっと座ってこられたら飛び上がりそうになる。
知っている顔だからよかったけど知らない人だったとしたら別にそれが悪くない行為だとしてもすぐに去っているところだ。
「それはごめん、だけど振られてしまったのよ」
「え」
びしょ濡れなのは敢えてか、だって梅雨で朝から雨が降っていたのに忘れてしまうなんてありえないから。
「嘘じゃないわよ、帰ったらまこに聞いてみなさい」
「それよりそのままだと風邪を引いてしまいますよ、もう帰った方がいいです」
「あんた暇なら一緒にいてくんない?」
「いいですよ、いきましょう」
先輩のお家に上がらせてもらうのは初めてじゃないから特に緊張したりはしなかった。
先輩がシャワーを浴びている間、薄暗いリビングで読書をできるのも悪くないという感想が出てきた。
流石に戻ってきたらやめたけどね。
「今日告白をしたんですか?」
「いや、この前よ」
「どちらにしてもちゃんとはっきりしてもらえてよかったですね」
姉としても先輩としても少しの間は気まずい時間が続きそうだ、というよりも元気よくいままで通りのままでいられる方が怖いから二人には悪いものの、そうであってほしいという考えがあった。
「まあそれはね、ちょっと寝転びたいから部屋にいかない?」
「いきましょう」
だけどこの人、何故かこの前よりもすっきりしたような感じが伝わってくるのは何故だろうか?
お部屋に移動してベッドに寝転んでからもそうだった、柔らかい笑みを浮かべて「適当にゆっくりしてくれればいいわ」とあくまで普通の先輩だった。
すぐに余計なことを言いたくなるのが私なので我慢をしないでぶつけてみると「さっき上坂が言っていたようにちゃんと答えてもらえたからよ」と教えてくれたけど……。
「これで露木と村上の――いや、くみとみこの応援ができるわ」
「その二人は……」
「気にする必要もないでしょ、振られればいいとか考えているよりよくない?」
まあ、悪い感じにならないように上手くできるのであればいいか。
私が余計なことを言ったときとは違って頑張ろうという気持ちになるかもしれない、そうすれば私だって一緒にいるときにいちいち引っかからずに済むんだから寧ろあがりたいぐらいか。
もうやめるつもりだけどこれで逃げる必要もなくなるわけで、ゆっくり読書ができるなら尚更ね。
「あんたが誰かを好きになったときもちゃんと応援してあげるから安心しなさい」
「そんなことがあるんですかね」
「絶対ないなんてことはありえないんだからあんたにだってあるわよ」
でも、関われている人達はみんな他の人が好きなんだ、だからその場合なら少なくとも最初から可能性がない人以外と仲良くしているということだから微妙だった。
もう十分お友達的存在はいるからこれ以上は求めていないのもある。
「本が恋人なので少なくともいまはいいです」
「ま、強制されるようなことでもないしね、だけど本ばかり読むのはやめて」
「どうしてですか?」
「あそこにいくからよ、教室で過ごしなさい」
「それなら大丈夫です、これからはいますよ」
学ばないアホではないから安心してもらいたかった。
ある程度のところまで過ごして八田家をあとにしたのだった。
何故か今度はみこちゃんが来なくなってしまった。
名前呼びのことでその理由を聞いた際に振られたことも話したんだと思うけど、それを本人以上に気にしてしまっている状態なのかもしれない。
ちなみに姉と先輩はこれまでと同じように仲良くしていたからそのことでもやもやしているときに来なくなったのが重なってこちらも微妙な状態だった。
「まーたみこは来ていないのねー」
「ゆき先輩がいってあげてください」
まあ、この件があってから露木さんもみこちゃんや先輩のことを名前で呼び始めるようになったのはいいんだけどね。
「仕方がないわね、あ、だけどくみも付いてきなさい」
「わかりました」
二人でいったら逆効果になる、ことはこの前のことでわかっているはずなのに。
とはいえ、そこに自分や姉が加わったところで変わらないから結局は頑張ってもらうしかない。
「まちがいってあげなよ、多分、一番効果があると思うけどな」
「私? じゃあ今回のこれで無理そうだったらいってみるよ、話してはくれると思うから」
「うん」
完全に無視はできない子だから誰がいっても同じと言えば同じだったりもする。
ただ、私は戻ってこいなんて言うつもりはなかった、また、言っても届くとは思っていない。
だからこれは姉に言われたからでしかない、他の人が上手くやってくれればいい。
言ってもというかあの二人のことについて考えたところでなにも変わらないのはわかっているからもやもやもどこかにいった、そういうのもあっていつも通りの私の状態でみこちゃんのところにいけた。
「こんにちは」
「またカラオケ屋さんにいきませんか」
「いいよ」
なんかもうすごかった、滅茶苦茶内の感情が表に出てきていた気がした。
わなわなと震えていると、は冗談だとしても喋りかけるのもできなかった、効果がないからいいと言えばいいけど私である必要がなかった。
疲れ果てた彼女をおんぶしてお家まで運ぶときになってやっと自分がここにいる理由ができた。
「今日は泊まってください」
「いいよ」
「なんで今回も同じなんですか」
「戻ってきてもらうために来たわけじゃないけど嫌なことでもないからね」
寝て休んでいるということだったから鍵を借りてお家へ一旦帰った、姉がにやにやしていたからなにがあったのかをちゃんと教えてから戻った。
緊張しない私でも鍵を使って入る際には緊張した、リビングには彼女しかいなくてよかった。
こんなところで寝転んでいても風邪を引いてしまうだけに思えたから二階のお部屋まで運ばせてもらう、これについては前にしたことがあるから特に気にならない。
「きっかけはゆき先輩が告白をして振られたことを知ったことです」
「うん」
やっぱりか。
「でも、それはもう言っても仕方がないことだと片付けられました、それでもいけていなかったのは……一度離れてしまったからです」
「はは、そうなんだ?」
こちらはいったり逃げたりを繰り返しているから彼女は私のいい部分だけ真似るべきだ。
無駄に悪く考えても自分でもったいない方に傾けてしまうだけ、実際は他人はそこまで気にしていないからさもそこにいましたよとでも言いたげな態度でそこに存在していればいい。
まあ、私のこれだってなんとかなっているのはみんなのおかげだけど、彼女の場合は私のときと違ってちゃんと求めてもらえるし、同じような失敗を繰り返さないから大丈夫だろう。
「くみ先輩も来てくれるようになったのはよかったんですけど……」
「そりゃあね」
それでも迷惑はかけたくないから今後になんにも影響しない私を頼ってきたということか。
「私ならいくらでも使ってくれていいよ、あ、ただここでは休ませてもらうけどね」
ごろーんと一切遠慮なく床に寝転ぶと「ゆっくりしてください」と許可も貰えた。
呆れたような顔をしていた気がするけどいま細かいことはどうでもいい、満足するまではこうしていればいい。
それでも理想は夏休みまでにこれを露木さんにできるようになることだ。
「風邪を引いてしまいますよ、ちゃんとお布団を掛けてください」
「そうしたらみこちゃんが困るでしょ」
「ならこっちに来てください」
「え、なんで? 流石にそれはやめておくよ」
よし、それならお家からお布団を持ってこよう。
残念なのはお部屋を出ることさえできなかったことだ、今度こそわかりやすく呆れた顔で「一階から持ってくるので待っていてください」と言われてしまって座り直す羽目になった。
「あと一時間ぐらいしたら外にご飯を食べにいきましょう」
「え、みこちゃんは下で手作りかお母さんかお父さんが作ってくれたご飯を食べてくればいいよ、一回ぐらい抜いてもなんにもないし」
「嫌です、泊まることを受け入れた時点でそういうことも受け入れたようなものなんですからちゃんと付いてきてください」
「なんか元気になってない?」
「そりゃもうお昼にくみ先輩とゆき先輩が来てくれた時点で戻ることを決めていましたからね」
なんだそりゃ、じゃあ何故こちらを誘ったのか。
今度はこちらが呆れたくなる番だった。
「ふぅ、やっと放課後だ」
今日は誰かに追いかけられていたということもなかったけど長く感じた。
最近はあの埃っぽい場所よりも公園の屋根付きベンチの方がいいからまとめて公園へ、すると今日は先客がいたものの、うるさくしなければ迷惑にならないと判断して読書を始めた。
「ねえ」
「はい? あれっ?」
何故か近くに座っていたのは姉だった、姉は腕を組んでどや顔みたいにしてから「はははっ、ちょっと変えただけでこれなんだから面白いよね」と言ってくれた。
面白くないよ? 誰がいてもいいけどなんかこれは面白くない。
「まちってさ、村上ちゃんや露木ちゃん、ゆきの協力はするけど私のはしてくれないの?」
「頼んでこないからだよ、勝手にわかった気になって動かれたくないでしょ?」
「それなら頼みたいかな、私がまちともっといられるようにしたいんだけど」
「嘘だとか信じられないとか言うつもりはないけど、お家で話すだけじゃ足りないの?」
読書大好き人間だけど私の中ではちゃんとやめて優先しているつもりだ、いまだって本を開いたりはしていないから姉だって特にそのことには言ってこないんだ。
「足りないよ」
「わかった、だったらあの場所を教えるよ」
「あの場所?」
「嫌じゃないなら今日いこうよ」
付いてきてくれるみたいだったから傘をさしてまた学校へ、着いたらすぐにあのお気に入りの場所に連れていく。
ここでおかしかったのは何故かみこちゃんが寝ていたということだ、ただ、いまそれは関係ないからここだと説明しておく。
「もしかして村上ちゃんには教えていたの?」
「みこちゃん、露木さん、八田先輩が知っているよ」
「そういうの駄目だからね」
それよりも起きないことが気になる、だから肩に触れて揺らしてみると「お母さん……?」とか言い始めて笑ってしまった。
「えっ、まち先輩!? ち、違うんですっ、別にここを取ろうとしたわけじゃないんです!」
「別に取ってもいいけど一人で寝るのは危ないから駄目だよ」
「まちが言っても説得力がないよね」「説得力がないですよね」
正しいことしか言っていないから無視、姉が座って彼女と盛り上がり始めたからこちらも座って足を伸ばす。
うん、やっぱりここも落ち着く場所だからじっとしているだけでも汗をかく夏ならひんやりしていてやっと本当のところがわかるのかもしれない。
「というか、なんでいく先々でこんなに誰かが来るようになっているんだろう」
「それはまちが人気者だからだよ、広範囲じゃなくても小範囲の子から好かれるの」
「それだったらどれだけよかったことか、みんな本命がいるからなにも始まらないよ」
この話も毎回同じ場所にいき着く。
「ゆきは私のことが好きだしなー」
「「うっ」」
触れるのか、知っているこちらとしてはいまみたいな反応になってしまう。
ただやはりというかこの姉、全く気にしていないようだ、あそこでちゃんと切り替えておいてよかったと思う。
そうでもなければ一人で疲れる羽目になっていた、逃げることも増えていただろうから自分を褒めてあげたいところだ。
「あ、変なことを言っていたかもしれないけど告白なんかされていないからね? で、告白をされなければ振ることだってできないんですよ」
「「ええ!?」」
「はは、二人の反応が面白い」
これは聞かなければならないことだ、でも、連絡先を交換できているわけじゃないから今日は無理、少なくとも明日まではこの時間が続くことになる。
なんてことをしてくれるんだこの姉は、彼女だって同じように固まってしまっているじゃないか。
「このまま二人でゆきの家にいってみて、じゃ、私は先に帰っているから」
あーまあ……いいか、ありがたいか。
そのため、固まっている彼女を背負って走り出したのだった。
多分、本気で頑張っているランナーの半分ぐらいの速さは出せている気がした。