転生
「異世界転生果つ」と流れは似てますが今回は色々と逆となります。
ゴホッ!ゴホッ!
目が覚めると砂浜で倒れていた。
俺の周りには数多くの人がいて、心配そうに俺を見つめている。
「天星!大丈夫か?」
「え…?」
目が痛くてしみる。鼻の奥もツーンとする。潮の匂いが喉奥や口中に立ち込めている。
どうも海で溺れていたらしい。
「あぁ、、大丈夫。ありがとう…」
「良かった~。お前鈍くさいの知ってたけど、、、溺れるって…。マジびびったぁ。」
「ところで、、天星って何?」
「え”っ…」
そう。記憶が失われていた。
言葉はどうやら通じるようだし、人という生き物は違和感なく認識できる。
ただしちょっと前まで俺は病床にいたはずだった。
その病床にいた時の年齢は70歳手前。不治の病とされる病気にかかってしまっていたが
いつの間に亡くなったのか……、、、
どうかは分からないがどうも転生してしまったらしい。
転生前の星では言語は1種類。人以外にも様々な雑多な知的生命体が数百といた。
それぞれが特殊な力を操り魔法や念力、法力などの種族により得手不得手のある力が存在していた。
魔法は体内の魔力器官を操り、念力はとある一族の血統で扱え、法力は精霊の力を借りる。
ダンジョンが各地で湧き、資源である一方で脅威でもある。
対抗するために国民総冒険者となる必要があった。
王家であれば知識も力も全てを扱うべく訓練を生涯に渡って行う。
そう。私はその国の王であったのだ。
しかし、今のこの貧弱な少年の体はどうみても10年も生きていない体である。
この少年の魂が、入れ替わって私の方の器に入ってしまったのなら非常に申し訳ない。
少年が不治の病の70歳手前の老人の体になるとか悲劇でしかない。
ただ神の意志とも言える事なので私には制御しようがない。
体を起こして、、魔力、、念力、、法力、、
全て試してみるが全て扱う事ができない。
この世界のせいなのか、それともこの体の器のせいなのかは分からない。
しかし俺はそんな不具合に好奇心を爆発させた。
一緒に海に来ていた友人達3人も年齢は同じで10歳に満たないだろう。
俺は気になる事を色々と尋ねてみると、、、
「天星、どうした?何か人が変わったな。お前は今朝まで静かで後ろをついてくるだけだったじゃんか。」
「さっき溺れて記憶無くなったんだろ?どうする?お前のおばちゃんに言って病院行かないとまずいんじゃないの?」
「うーん、だよな。小学校にも事情を言わないとダメかな?僕達怒られちゃうかな?」
なんだか友人らしき3人が不安を漏らすが、俺は君らが心配することでは無い。むしろ命の恩人だから胸を張って欲しい。とはっきりした口調で伝えると、目を丸くしていた。ただし、やはり事情が事情なだけに日は高いが、おばちゃんとやらが全員を家に連れて帰ってくれる事になった。
…さて、家に戻ったらこの新しい世界の検証を色々としないとな。
俺の家には父、母、姉がいた。帰宅すると3人とも在宅しており
「あれ、、天星帰ってくるの早かったな?ははーん、さては喧嘩したな?そういう事もあるよな。」
「もうパパったら、そんなデリカシーの無いことを言って!…で、どうしたの?何か忘れ物?」
「おかえり~。天星。お姉ちゃんの顔を見に帰って来たの??」
そこで俺は海で溺れて記憶が無くなった。この世界の事について教えて欲しいと伝えると、、
「びょ、病院!!早く、お父さん車出して!!」
「お、おう。」
「あ!私も行く!」
病院に行く事になった。まぁこれはしょうがないか。元の天星の性格がどのようなものであったかはすぐにでも分かるだろうが、やはりこれまでの思い出となる記憶が失われた事は家族にとって一大事であろう。ただしおそらくもう元の天星の魂は消えているので、家族が望む結果は得られないだろうなぁ。と車に揺られながら考えた。この車の性能も凄いが、それを可能にする町のインフラが凄いな。
「先生!検査結果はどうでしたか?」
これは俺も興味があった。この世界の医療のレベルでどこまで詳細な結果が出るのか。前の世界では生活スキルでステータスを開き、各種確認をすることができたのだが、この世界にはどうも一切の魔法やスキルが存在していない。
「いえ。特に異常は見られませんでした。」
うーん、何もなかったらしい。何か数値で出してくれないのか?魔力とか、念力とか、法力とか、その他もろもろ体力、スタミナなどを全てを数値化して勝敗を決めていた頃が懐かしい。私は王という立場から鍛えに鍛えていた。だらけて立場にかまけるという王も過去にはいたようだが、近年では誰よりも努力をし模範となることが望まれる。だからこそ1時間トレーニングしては、ステータスオープン!と数値がどう変わるかを楽しみに頑張れていたのだ。
「まぁ、海で溺れたのはびっくりしたけど元気なだけでも良いか。性格も何だか前向きで生まれ変わったようだし。」
「そうね。まだ数日は様子を見ないとだけど、幸い夏休み中だからママと一緒にのんびりリビングでゲームでもしてましょ。」
「私も!私も!もう宿題終わったから天星とゲームする~」
家族は天星を愛してくれているようで、それが少し心が痛いところではある。
なるほど…
母と姉とゲームをしている時に分かる。
この星にもやはり数値は存在していて競争というものの楽しさをしっかり理解できているのだな。
;うちれわおjぎふぉsじtrじw!
ご、、ご、、ご、、ご飯がおいしすぎる!!!!!
何だ!100年に1度だけとれる幻の何某が、復活記念のお祭りとして出されているのか!?
この卵焼きという黄色いやつ、キャベツというしゃきしゃきのやつ、プチトマトという赤いやつ、
更にはこの白い卵のようで最初はキモって思ってた米というやつ。ヤバすぎるだろう。今夜にでも俺は
ドラゴンの生贄にでも捧げられるのだろうか?最後の晩餐になることを覚悟しよう。
そんな事はなく家族4人で川の字になって眠る。
数か月後…
前の世界では子供は親と同じ職業や能力を磨くために、成人までは親について回るという形をとっていた。しかし学校という施設は画期的である。同年代のものと一般教養をともに学ぶ方を幼少期~青年期に持ってくるのか。物覚えや成長の伸びが大きい時期に何を優先させるかに関しては議論の余地があるな。ただ現在通っている現時点では学校の方が優位性が高いと感じる。
夏休み明けに通ってからは何人かが俺に話しかけてきた。その内のひとり“のりお”が、
「おい天星。海で溺れたんだってな~。だっせー。お前みたいにとろいやつは海なんて行っちゃダメなんだよ。」
お、これは煽って来ているな。前の世界でもあったぞ。よし校舎裏に来い!決闘だ。決闘。こういうヤカラは徹底的に叩き潰さないといけない。
「な、何だよ。天星の癖に生意気だぞ。絶対来いよ。お前が言ったんだからな。後悔すんなよ!」
ふむ。あいつは弱いな。強くあるように振舞っているが、顔面から血の気が引き、指先が震えてたな。心臓ばっくばくだったのだろう。これはやりすぎると可哀そうだ。
「ご、ごめん。許して。もうからかわないから。」
新しいお友達ができました。ちょっと端折りすぎた。5限目が終わってから下校の時刻になり、そのまま校舎の裏へ。調子のりお君が先に腕を組んで待っていた。
「あ、謝ったら許してやるぞ!」
と言ってきたから顔に飛び蹴りをかました。
向こうは鼻血の苦しさと涙と痛みでパニックになり、両手をぐるぐる回しながら突撃してきた。これはどの世界であっても子供がやる技なのだなとくすっと笑った。30cm下がり、片手を上段で受け、そのまま軽く正拳突き。破壊が目的ではないので急所は突かなかったが痛みは強く出る。これで決着。
翌日からあの暴れん坊のりおが天星にへこへこしているというのはクラス皆が驚いた。何か天星に弱みを握られているのではないか?恥ずかしい写真が存在するのではないか?と噂が広まったが、俺に関する噂は特に何も無かった。おっと、訂正する。一つだけあった。給食だけは時間内に食べきる事ができない。何せ全ての料理が美味しすぎるのだ。感涙しながらゆっくりもぐもぐする様子を見て、みんながキモいと噂になった。調子のりお君が
「天星君をからかうなよ!全然いいじゃんか!」
とフォローを入れてくれるが別にそれぐらいは何でもない。君の名前も憶えてないから何だか申し訳ないし。のりお君は合ってるけど苗字は知らない。
更に俺には夢中になるものができた。
この世界にはしっかりと数値ができるものが無数にあった。単位そのものは前の世界よりも多い程で様々な尺度が存在している。
50m走7秒、走り幅飛び4m、斜め懸垂50回、ボール投げ30m、算数のテスト100点、成績表の国語5、のように努力すれば伸ばせる様々な項目があったのだ。思えば前の世界でも王として能力は誰よりも強くあらねばならないという教えを守っていたつもりであったが、そうではなかったのだ。ただ自身のステータスの数値が上がる事を一番としていたと、この世界に来てから気が付いた。
この世界のシステムは素晴らしい。(幾度目かの)
お小遣いレベルで国宝級の美食がいくつも味わえる。
20円ぐらいで買えるチョコ。
これが前の世界では誰一人として味わった事がないレベルの至高品。
20円は超高いのか?(錯乱)
メーカーに感謝のはがきとメールを送る。あ、はがき85円もした。
24時間安全で特別待遇を全ての国民が享受できるという環境が凄い。
わずか80年程前には人同士の争いで、この国は焼け野原になったと学んだ。
その戦争を経験した人達が、後世の子孫に幸せになって欲しいと強く願ったのだろう。
そうでなければこの復興の速度は考えられない。
頑張った分だけ認められる社会。
全員が裕福で妬まれることも少ない。
理想の世界は海で溺れた天星君が俺に見せてくれたものだ。
ここからは蛇足の話になるが、
中学で全国1位となれたのは学力、100m走、走り幅跳びの3種。その他県1位レベルとなると20を超えた。球技は苦手であると分かった。どの競技でも球を思い通りに動かす事ができなかった。高校でも学力、100m走、走り幅飛びの3種は全国1位。団体競技に力を入れた。リレーやボート、水泳にも力を入れたが全国ベスト32程にとどまった。大学、社会人と勉学や資格、スポーツと人生を謳歌している内に気づく。
この人生の期間は前世のご褒美なのだと。その人物が最も輝ける人生を用意してくれているのか。そんな俺が死んでしまった後はどのようになるのだろう?
若くして亡くなった天星君にも必ず神から慈悲があるのか。
この世界で知ったワープの実験をするホラー話。
棺桶のような直方体の箱がある。AとBという2つの箱があり、Aの箱の中にある物質を、一瞬でBに移すというものだ。この実験が成功すれば世界中のどこにでも箱を設置するだけでワープする事ができる。更には宇宙の果てに無人宇宙船が箱を設置しに行き、そこへ地球から瞬時にワープすることもできるだろうと言われている。
Aに人が入る。実験の様子はTVに大々的に生放送で映し出され、その結果を皆が固唾を飲んで眺めている。そしてしばらくしてBの箱が空くと、Aの箱の中にいた人物がBの箱から出てくる。
わぁーーー!!!成功だぁぁぁぁ!パチパチパチ…
という歓声をAの箱の中にいる人物が不思議に思いながら聞く。
というホラーだ。この先の物語まで描写している話もあるが、ここで止めるならば2通りのホラーが存在する。
①ワープと謳って実験をしている以上、実験の不具合でAの箱の中身がBの箱にコピーされたと言う事は隠滅される。つまりAに入った人物は消されるということだ。
②ワープは成功したのだ。ただしAの箱にいた人物とBの箱にいた人物は別人。Bの箱から出てきた人物からすれば記憶を引き継ぐのでワープは成功となる。
このホラーを知った時に私の置かれた状況とリンクして私と天星君もそのような関係であったと思っていた。しかし、この体は俺が考え動かしていると思っていたが、天星君と共同で考え歩んできた道なのかと最近考えるようになった。前の世界の俺も実はまだ前の世界に居て、生き続けているのかもしれない。
俺もこの世界で70歳手前になる。獲得したギネス記録は3桁を超える。世界中の美食を堪能し、ボーナスタイムはそろそろ終了であろう。とても良い長い余生であった。そんなある日、孫が最近産まれたという曾孫となる赤ん坊を連れてきた。
「…あぁ、、やっと会えたな。天星……」
「やだぁお爺ちゃん。この子の名前は宏大よ…って、え!?お爺ちゃん?何で泣いてるの?」