花子の能力の源と新職業としての認定
## 護衛依頼後の日常
バルモラルへの護衛依頼から帰還して3日が経った。花子はいつものようにギルドの食堂で朝の準備をしていたが、その評判は以前とは比べ物にならないほど高まっていた。
「おはようございます、花子さん!」
「今日の特別メニューは何ですか?」
「例の筋力向上ステーキ、まだありますか?」
朝からたくさんの冒険者たちが押し寄せてくる。護衛依頼での「元盗賊更生」の話も広まって、花子の人気は急上昇していた。
「はいはい、みんなおはよう〜」
花子は慣れた様子で挨拶を返しながら、手際よく料理の準備を進めていく。
『プルプル〜』
プルちゃんも花子の肩の上で、誇らしげに胸を張っている。
「プルちゃんも有名になったもんなぁ」
(でも、なんかちょっと忙しすぎるかも...)
確かに、最近は注文が多すぎて、一人では対応しきれなくなってきていた。
「花子さん、助手を雇ったらどうですか?」
店長が心配そうに声をかけてくれた。
「そうですね...考えてみます」
その時、食堂の扉が開いて、見慣れない人物が入ってきた。
## 謎の来訪者
「失礼いたします」
現れたのは、60代くらいの老紳士だった。上品な服装に、知的な雰囲気。明らかに学者風の人物だ。
「いらっしゃいませ」
花子が挨拶すると、老紳士は興味深そうに花子を見つめた。
「あなたが噂の鈴木花子さんですね」
「はい、そうですが...」
「私はアルバート・マクグリガーと申します。王立魔法学院の研究員をしております」
「王立魔法学院?」
花子は首を傾げた。聞いたことのない名前だった。
「この国で最も権威のある魔法研究機関です」
近くにいた冒険者が教えてくれた。
「そんなすごいところの方が、なんで私に?」
アルバートは穏やかに微笑んだ。
「あなたの特殊な能力について、非常に興味を持っているのです」
「特殊な能力?」
「ええ。魔法を使わずに、料理だけで他者の能力を向上させる技術...これは前例がありません」
(また能力の話かぁ...でも、王立魔法学院の人が来るなんて)
「あの、とりあえずお食事でもいかがですか?」
花子は困ったときの常套手段、料理でもてなすことにした。
「ありがとうございます。ぜひ、あなたの料理を味わわせていただきたい」
## 料理の実演
「それでは、筋力向上ステーキを作らせてもらいますね」
花子は和包丁を取り出して、ワイルドボア肉の調理を始めた。
アルバートは食い入るように花子の手元を見つめている。
「ほほう...その包丁は」
「祖母の形見なんです」
「なるほど...興味深い」
アルバートが何かメモを取っている。
シュッ、シュッ、シュッ...
いつものように、和包丁が美しい音を立てて肉を切り分けていく。
「うわぁ、今日も美しい包丁さばきだ」
「見てるだけで勉強になるなぁ」
他の冒険者たちも感心して見守っている。
花子は森で採取した調味料植物を加えて、肉を焼き始めた。プルちゃんが火力調整を手伝ってくれる。
「あの小さな魔物も...」
アルバートがプルちゃんに注目した。
「プルちゃんです。料理のお手伝いをしてくれるんです」
『プルプル♪』
プルちゃんが嬉しそうに鳴く。
やがて、香ばしい匂いが食堂に漂った。
「できあがりです」
美しく焼き上がったステーキが皿に盛りつけられる。
「いただきます」
アルバートが一口食べた瞬間——
「おお!」
彼の体が淡い光に包まれた。
「これは...確かに筋力が向上している」
「どうですか?」
「素晴らしい。これほど明確な効果があるとは」
アルバートは興奮気味に言った。
「しかも、魔法的な痕跡が全くない」
「魔法的な痕跡?」
「通常、魔法料理には魔力の残滓が残るものなのですが...あなたの料理には一切ありません」
## 詳細な検査の提案
「実は、お願いがあるのです」
アルバートが改まった表情になった。
「あなたの能力について、詳しく調査させていただけないでしょうか?」
「調査?」
「はい。私は異能力研究の専門家でして...あなたのような稀有な能力の持ち主には、これまで出会ったことがありません」
花子は少し戸惑った。
「あの、危険な検査とかじゃないですよね?」
「もちろんです!痛みもありませんし、危険も一切ありません」
「ただ、あなたの能力の源を特定したいのです」
(能力の源...確かに気になるなぁ)
「どんな検査をするんですか?」
「魔力測定、オーラ分析、それから特殊な鑑定魔法を使用します」
「特殊な鑑定魔法?」
「ええ。通常の鑑定では分からない、深層的な能力を調べることができるのです」
近くで聞いていたライトが口を開いた。
「花子さん、面白そうじゃないですか」
「僕たちも興味あります」
ミラとケンも賛成してくれた。
「分かりました。やってみましょう」
花子は決心した。
「素晴らしい!それでは、今すぐにでも」
「今すぐ?」
「はい。実は、検査器具を馬車に積んできているのです」
(準備がええなぁ...)
## 本格的な能力検査
ギルドの裏庭に、アルバートの馬車から運び出された検査器具が並べられた。
「うわぁ、なんかすごい機械がいっぱい」
花子が目を丸くしている。
水晶球、金属製の測定器、光る宝石がちりばめられた装置...どれも見たことのないものばかりだった。
「それでは、まず基本的な魔力測定から」
アルバートが一番大きな水晶球を指差した。
「これに手を置いてください」
花子が手を置くと、水晶球が淡く光った。
「魔力値は...やはり平均的ですね」
「そうなんです。前にも測ってもらいました」
「次は、オーラ分析です」
今度は、花子の周りに小さな水晶を配置して、複雑な魔法陣を描き始める。
「『オーラ・アナライズ』」
アルバートが呪文を唱えると、花子の周りに七色の光が現れた。
「これは...」
アルバートの表情が驚愕に変わった。
「どうしたんですか?」
「あなたのオーラ...今まで見たことがありません」
光の色は確かに美しかったが、花子には何が特別なのか分からなかった。
「普通の人とは違うんですか?」
「全く違います。通常、オーラは単色か、せいぜい2色程度なのですが...」
「あなたのオーラは7色全てが調和して光っている」
「それって...」
「極めて稀な現象です。おそらく、この国で初めて見る光景でしょう」
## 驚愕の鑑定結果
「最後に、特殊鑑定を行います」
アルバートが最も複雑な装置を取り出した。
「これは『深層能力鑑定器』です。王立魔法学院でも数台しかない貴重な装置です」
金と銀で装飾された美しい装置だった。中央には大きなダイヤモンドのような宝石が埋め込まれている。
「手をここに置いて、リラックスしてください」
花子が指示に従うと、装置が激しく光り始めた。
「うわぁ!」
周りにいた「風味良好」のメンバーたちも驚いている。
装置の光はどんどん強くなり、ついには文字が浮かび上がった。
『能力名:神饌調理術』
『レア度:神話級』
『特性:生命力付与、魂魄強化、運命改変』
「しんせん...ちょうりじゅつ?」
花子が首を傾げる。
「神饌調理術...」
アルバートが震え声で呟いた。
「まさか、こんな能力が現代に...」
「あの、それってどういう意味ですか?」
「神饌とは、神々に捧げる料理のことです」
「神々に?」
「ええ。古代の文献によれば、神饌調理術は神と人をつなぐ神聖な技術とされています」
アルバートの説明に、みんなが息を呑んだ。
「でも、この技術は千年以上前に失われたはずです」
「千年前?」
「そして、この能力の特性...生命力付与、魂魄強化、運命改変」
「これらは全て、あなたの料理で実際に起きている現象と一致します」
## 新職業の可能性
「つまり、花子さんの能力は魔法料理師とは全く別物ということですか?」
ライトが興味深そうに聞いた。
「その通りです」
アルバートが頷いた。
「魔法料理師は魔法を使って料理に効果を付与しますが、神饌調理術は料理そのものに神聖な力を宿らせる技術です」
「根本的に異なる能力なのです」
「じゃあ、私の職業は何になるんですか?」
花子が不安そうに聞いた。
「それが問題なのです」
アルバートが困った顔をした。
「神饌調理術は古代の技術で、現代の職業分類には存在しません」
「つまり、新しい職業を作る必要がある?」
ミラが確認した。
「そういうことになります」
「うわぁ...」
花子は複雑な気持ちだった。
「でも、これは歴史的快挙です」
アルバートが興奮していた。
「千年ぶりに神饌調理術の継承者が現れたのです」
「あなたは文字通り、唯一無二の存在です」
「それでは、早速『神饌調理術師』として公式認定を進めましょう」
アルバートが真剣な表情になった。
「公式認定?」
「はい。新しい職業として、王国に正式に登録する必要があります」
「そんな大げさな...」
「とんでもない。これは歴史的な出来事です」
「手続きはそんなに大変なんですか?」
「通常は非常に複雑ですが、王立魔法学院の推薦があれば話は別です」
アルバートが自信満々に言った。
「私が全力でサポートします」
「ありがとうございます」
花子は深く頭を下げた。
「でも、どれくらい時間がかかるんでしょう?」
「順調にいけば、1ヶ月程度で認定されるでしょう」
「それまでは、どうなるんですか?」
「暫定的に『特殊技能者』として登録されます」
ギルドの受付嬢が説明してくれた。
「なるほど、分かりました」
## 新たな責任
「ただし、神饌調理術師として認定されることで、新たな責任も生まれます」
アルバートが警告した。
「責任?」
「はい。あなたは千年ぶりの神饌調理術継承者として、この技術を後世に伝える義務があります」
「後世に...」
「つまり、弟子を取って技術を継承していく必要があるのです」
花子は考え込んだ。
(弟子かぁ...私なんかが人に教えられるんかな?)
「でも、私はまだまだ勉強中の身ですし...」
「そのための支援も、王立魔法学院で行います」
「古代の文献を調べて、失われた神饌調理術の技法を復活させましょう」
「一緒に、この素晴らしい技術を発展させていくのです」
アルバートの熱意に、花子も次第に前向きになってきた。
「分かりました。頑張ってみます」
「素晴らしい!」
## 仲間たちの反応
検査が終わって片付けをしていると、「風味良好」のメンバーたちが花子を囲んだ。
「花子さん、すごいことになりましたね」
ライトが感慨深そうに言った。
「新しい職業の創設者なんて、滅多にないことですよ」
「そうやね...なんか実感わかへんけど」
花子は照れくさそうに答えた。
「でも、これでますます忙しくなりそうですね」
ミラが心配そうに言った。
「きっと色んなところから依頼が来ますよ」
「うわぁ、それは困るなぁ」
「でも大丈夫です」
ケンが力強く言った。
「僕たちがサポートします」
「みんな...」
花子は胸が熱くなった。
「ありがとう。みんながいてくれるから、私も頑張れるわ」
『プルプル♪』
プルちゃんも嬉しそうに鳴いている。
## 新たな来客
その時、ギルドの扉が開いて、立派な服装の男性が入ってきた。
「失礼いたします。鈴木花子さんはいらっしゃいますか?」
「はい、私ですが...」
「私は宮廷料理長のジャン・ピエールと申します」
「宮廷料理長?」
みんなが驚いた。
「王城の料理を統括している人です」
受付嬢が小声で教えてくれた。
「実は、王立魔法学院からの連絡で、あなたの件を聞きまして」
「もう連絡が行ってるんですか?」
アルバートが苦笑いした。
「魔法学院の情報網は優秀でして...」
「王様が、ぜひあなたにお会いしたいとおっしゃっているのです」
「王様が?」
花子は驚愕した。
「はい。近日中に王城にお越しいただけないでしょうか?」
「あの、私なんかが王様に会っても...」
「とんでもない。千年ぶりの神饌調理術継承者となれば、王国にとって貴重な人材です」
「しかも、新職業の創設者ともなれば...」
ジャン・ピエールが興奮気味に続けた。
「これは歴史に残る出来事ですよ」
## 急展開への戸惑い
「ちょっと待ってください」
花子が困った顔をした。
「話が早すぎて、ついていけません」
「そうですよね」
ライトが同情した。
「今朝まで普通に食堂で働いてたのに、いきなり王様に会うなんて」
「確かに急すぎるかもしれませんね」
アルバートが反省した。
「では、王城への訪問は来週にいたしましょう」
「それまでに、心の準備をしておいてください」
ジャン・ピエールが配慮してくれた。
「ありがとうございます」
花子はほっとした。
「でも、王様に何をお話しすればいいんでしょう?」
「特別なことは必要ありません」
「普段通りの花子さんでいればいいのです」
アルバートが励ましてくれた。
「王様も、きっとあなたの人柄に興味をお持ちでしょう」
## 複雑な心境
夕方、ギルドの食堂が静かになってから、花子は一人で考え込んでいた。
「すごいことになってもうたなぁ...」
プルちゃんが心配そうに『プルプル』と鳴く。
「プルちゃんも不安?」
今朝までは普通の(?)冒険者料理人だったのに、いきなり新職業の創設者になり、王様に会うことにまでなってしまった。
「おばあちゃん、これでよかったんかな?」
和包丁を見つめながら呟く。
包丁は相変わらず温かく光っている。まるで「大丈夫だよ」と言っているかのように。
「そうか...おばあちゃんも昔、同じ道を歩んでたんかもしれんな」
もしかすると、祖母も神饌調理術の継承者だったのかもしれない。だからこの包丁を大切にしていたのかもしれない。
「よし、決めた」
花子は立ち上がった。
「せっかくの機会やもん。しっかり頑張ってみよう」
『プルプル♪』
プルちゃんも元気よく鳴いた。
## 明日への準備
「でも、まずは明日の食堂の準備やね」
花子は気持ちを切り替えて、翌日の仕込みを始めた。
新職業創設者になろうが、王様に会おうが、お腹を空かせた冒険者たちには美味しい料理を提供したい。
「それが私の一番大切な仕事やもんね」
和包丁を使って野菜を切りながら、花子は穏やかな気持ちになっていた。
どんなに特別な能力を持っていても、どんなに偉い人に認められても、料理で人を喜ばせたいという気持ちは変わらない。
「神饌調理術師かぁ...ええ名前やな」
確かに、自分の料理でたくさんの人の心が結ばれてきた。ライトたちとのパーティ結成も、元盗賊たちとの出会いも、全て料理がきっかけだった。
「これからも、もっとたくさんの人の心を結んでいけたらええなぁ」
プルちゃんが『プルプル♪』と同意するように鳴いた。
## 新たな決意
翌朝、花子はいつもより早起きして食堂に向かった。
「今日もたくさんの人が来るんやろうなぁ」
昨日のことを知った冒険者たちが、きっと大勢押し寄せてくるだろう。
「でも、今の私にできることをしっかりやろう」
ギルドの扉を開けると、すでに何人かの冒険者が待っていた。
「おはようございます、神饌調理術師さん!」
「新職業創設、おめでとうございます!」
みんなが口々に祝福してくれる。
「ありがとうございます」
花子は深く頭を下げた。
「でも、私はまだまだ勉強中の身です」
「今まで通り、美味しい料理を作ることから始めますので、よろしくお願いします」
「今日の特別メニューは何ですか?」
「今日は新作の『絆深めるシチュー』を作ってみようと思います」
「絆深める?」
「はい。食べた人同士の絆が深まる効果があるかもしれません」
(まあ、実際にそんな効果があるかは分からんけど...でも、美味しいものを一緒に食べると、確実に仲良くなれるもんね)
「ぜひ食べたいです!」
「僕たちも!」
みんなが期待の声を上げた。
「分かりました。頑張って作らせてもらいます」
花子は和包丁を手に取り、新しい一日を始めた。
神饌調理術の継承者として、神饌調理術師として、そして何より、料理で人を幸せにしたい一人の女性として。
平凡な主婦だった鈴木花子は、今や異世界で唯一無二の存在となっていた。
でも、その心に宿る「料理で人を喜ばせたい」という想いは、変わることがなかった。
新しい職業、新しい責任、新しい出会い...
これからどんな冒険が待っているのだろうか。
花子の異世界ライフは、まだまだ始まったばかりだった。




