隣町への商品護衛依頼
## いよいよ護衛依頼当日
外交晩餐会の成功から1週間が経ち、ついに「風味良好」にとって初めての大型護衛依頼の日がやってきた。花子はいつもより早起きして、ギルドの食堂で最後の準備をしていた。
「今日はいよいよやなぁ...」
プルちゃんも花子の肩の上で、いつもより緊張しているようだった。
『プルプル...』
「プルちゃんも心配なん?大丈夫やで、みんなで一緒やから」
その時、ギルドの扉が開いて、パーティ「風味良好」のメンバーたちが入ってきた。
「花子さん、おはようございます!」
「準備はいかがですか?」
ライト、ミラ、ケンの3人も、いつもより気合いが入っている様子だった。
「おはよう、みんな。だいたい準備できたわ」
花子は大きな荷物を見せた。3日間の旅に必要な食材や調理器具が詰め込まれている。
「やっぱりすごい荷物ですね」
ミラが感心している。
「戦闘支援料理に、回復料理に、保存食に...」
ケンが荷物の中身を確認していた。
「金貨5枚の大仕事やからね。しっかり準備せんと」
花子も気が引き締まっていた。
「それじゃあ、商人のフェルディナンドさんに会いに行きましょう」
ライトが声をかけた。
## 商人フェルディナンドとの再会
ギルドの外で待っていたのは、50代くらいの恰幅の良い男性だった。立派な服装に、人の良さそうな笑顔。典型的な商人といった風貌だ。
「おはようございます、パーティ『風味良好』の皆さん」
「おはようございます、フェルディナンドさん」
ライトが代表して挨拶した。
「本日はよろしくお願いします」
フェルディナンドは改めて丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ。準備の方はいかがですか?」
花子も挨拶すると、フェルディナンドの目が再び輝いた。
「花子さん、例の戦闘支援料理の準備はよろしいですか?」
「はい、ばっちりです!」
「素晴らしい。実は昨日、バルモラルの商人仲間に連絡を取りまして...」
フェルディナンドがにっこりと笑った。
「みなさん、花子さんの料理にとても興味を持っておられます」
「え、そうなんですか?」
「ええ。もしかすると、今回の護衛が終わったら、新しいビジネスの話があるかもしれません」
(やっぱり商売の話になるんかぁ...)
花子は少し複雑な気持ちだったが、とりあえず今日の護衛に集中することにした。
## 荷馬車と護衛体制の最終確認
フェルディナンドの荷馬車は、事前に話を聞いていた通り大きくて立派だった。
「やっぱり大きいなぁ」
2頭の馬に引かれた大型の荷馬車。荷台には厳重に梱包された商品が山積みになっている。
「こちらが私の助手のトーマスです」
フェルディナンドが紹介してくれたのは、30代くらいの痩せた男性だった。
「よろしくお願いします」
トーマスは控えめに挨拶した。
「護衛体制は、先日お話しした通りで大丈夫ですね?」
ライトが最終確認をした。
「はい。僕とケンが前後を固めて、ミラさんが荷馬車の横、花子さんは荷馬車の中で支援ということで」
「荷馬車の中、結構広いんやね」
花子が実際に中を見て言った。
「ええ。花子さんが料理を作れるよう、スペースを確保してあります」
フェルディナンドが説明してくれた。
「ありがとうございます。これなら万全やね」
「それでは、予定通り6時に出発しましょう」
時計を見ると、もうすぐ6時だった。
「みんな、気を引き締めて行きましょう」
## いざ出発
時計の針が6時を指すと、荷馬車がゆっくりと動き出した。
「よし、出発!」
フェルディナンドが手綱を引く。
「行ってきまーす!」
花子が荷馬車から手を振ると、早起きしてきた何人かの町の人たちが見送ってくれた。
「気をつけて〜!」
「無事に帰っておいで〜!」
ギルドの受付嬢も手を振ってくれている。
荷馬車が動き出すと、花子は荷台の奥に座った。周りには商品の箱が積まれているが、料理のためのスペースもちゃんと確保されている。
「ここなら料理も作れそうやね」
プルちゃんが『プルプル♪』と嬉しそうに鳴く。
「よし、それじゃあ早速、朝ごはん用の軽食でも作ろうかな」
## 道中での交流
荷馬車は順調に進んでいく。町を出て1時間ほどで、のどかな田園風景が広がってきた。
「いい天気ですね〜」
ミラが荷馬車の横を歩きながら言った。
「風も気持ちいいです」
ケンも弓を背負って、軽やかに歩いている。
「花子さん、調子はどうですか?」
ライトが荷馬車を覗き込んでくれた。
「大丈夫です!今、お昼用の料理を仕込んでるところです」
「おお、楽しみだ」
「フェルディナンドさんやトーマスさんの分も作ってます」
「ありがとうございます」
フェルディナンドが御者台から振り返った。
「実は朝から何も食べてなくて...」
「あかん!朝ごはん抜きなんて」
花子は慌てて簡単な軽食を作り始めた。
「ちょっと待ってください」
保存していたパンに、薬草バターを塗って、ワイルドボア肉のハムを挟む。そこにヒーリングハーブを少し加えて...
「『元気回復サンドイッチ』の出来上がり」
「うわぁ、美味しそう」
みんなでサンドイッチを食べながら、道中を進んでいく。
「美味しい!そして体力も回復してる」
フェルディナンドが感激している。
「こんなに美味しい携帯食は初めてです」
トーマスも満足そうだった。
「これなら長旅も楽ですね」
## 森の道
昼過ぎになると、道は深い森の中に入っていった。
「この辺りから注意が必要ですね」
ライトの表情が引き締まった。
「盗賊が出やすいエリアです」
「そうなん?」
花子も少し緊張した。
「でも大丈夫です。僕たちがいますから」
ケンが自信を込めて言った。
「それに、この辺りは魔物も出るから、実戦練習にもなりますよ」
ミラが付け加える。
その時、森の奥から「グルルル...」という唸り声が聞こえてきた。
「あ、早速お客さんですね」
ライトが剣の柄に手をかけた。
茂みから現れたのは、3匹のワイルドボアだった。
「うわ、結構大きいなぁ」
花子が荷馬車から顔を出す。
「花子さんは荷馬車の中で待っていてください」
「分かりました」
でも、花子はちゃんと戦闘支援の準備をしていた。
「みんな、これ食べて」
戦闘前料理として、筋力向上の肉料理を手渡す。
「ありがとう!」
3人が料理を食べると、体が光り始めた。
「よし、行くぞ!」
## 連携戦闘の進歩
ワイルドボアとの戦闘は、花子の料理効果もあって圧倒的だった。
わずか5分で3匹のワイルドボアが倒された。
「すげぇ...」
トーマスが唖然としている。
「あの3人、普通の冒険者じゃないですね」
フェルディナンドも感心していた。
「いえ、花子さんの料理の効果なんです」
ライトが説明した。
「料理で戦闘力がここまで上がるなんて...」
「本当にすごい話ですよ」
ケンも頷いた。
「よし、お肉ゲットや!」
花子は嬉しそうに倒れたワイルドボアを見つめていた。
「今夜の夕食に使わせてもらうわ」
(新鮮な食材は料理人の宝物やからね)
## 昼食タイム
森の中の小さな広場で、一行は昼食休憩を取ることにした。
「ここなら安全ですね」
ライトが辺りを警戒しながら言った。
「それじゃあ、お昼ご飯作りますね」
花子は張り切って料理の準備を始めた。
先ほど倒したワイルドボア肉を使って、森で採取した新鮮な野菜と一緒に炒め物を作る。
「うわぁ、いい匂い」
フェルディナンドが鼻をひくひくさせている。
「もうすぐできあがりますよ」
フライパン代わりの平たい石で、肉と野菜を炒めていく。プルちゃんが火力調整を手伝ってくれる。
『プルプル〜』
「ありがとう、プルちゃん。ちょうどええ火加減や」
できあがった料理は、見た目も香りも抜群だった。
「『森の恵み炒め』の出来上がり〜」
「すごい!こんな美味しそうな料理、野外で食べられるなんて」
ミラが感激している。
「いただきまーす」
みんなで一緒に食事を取る。
「美味しい!そして体力も回復してる」
「この味付け、どうやってるんですか?」
トーマスが興味深そうに聞いてきた。
「森で採取した調味料植物を使ってるんです」
花子が説明すると、フェルディナンドの目が輝いた。
「それは商売になりそうですね」
「商売?」
「ええ。この調味料を商品化すれば、絶対に売れます」
(そんなこと考えてへんかったなぁ...でも面白いかも)
## 午後の行程
昼食後、一行は再び出発した。森の道は続いているが、昼食でしっかりエネルギーを蓄えたおかげで、みんな元気だった。
「花子さんの料理、本当にすごいですね」
フェルディナンドが御者台から振り返った。
「疲労回復効果がこんなにあるなんて」
「ありがとうございます」
花子は照れくさそうに答えた。
「でも、まだまだ改良の余地があります」
「改良?」
「はい。もっと効果の高い料理を作りたいんです」
その時、ライトが手を上げて止まれの合図をした。
「みんな、静かに」
何かを警戒している様子だった。
「どうしたの?」
花子が小声で聞く。
「人の気配がします」
ケンも弓に矢をつがえた。
「複数です。しかも隠れている」
「まさか...」
フェルディナンドの顔が青くなった。
「盗賊ですかね?」
その時、森の両側から複数の人影が現れた。
## 盗賊との遭遇
「よう、お疲れさん」
現れたのは、明らかに盗賊と分かる風体の男たちだった。粗末な装備に、人相の悪い顔。総勢8人ほどいる。
「大人しく荷物を置いて行けば、命は取らねぇよ」
リーダー格らしき男が偉そうに言った。
「そうはいきません」
ライトが剣を抜いた。
「僕たちは護衛ですから」
「護衛?ガキが4人で何ができる」
盗賊たちが嘲笑する。
「特に、女の子が2人もいるじゃねぇか」
「舐めてもらっては困りますね」
ミラも杖を構えた。
「やるしかないか...」
ケンも弓を向ける。
花子は荷馬車の中で、急いで戦闘支援料理の準備をしていた。
「みんな、これ食べて!」
戦闘力向上の料理を投げ渡す。
3人が素早く口に入れると、体が光り始めた。
「な、なんだあの光は?」
盗賊たちが困惑している。
「魔法使いか?」
「いや、違う。あの女が何かやってるぞ」
## 盗賊との戦闘
「やれやれ、面倒なことになったな」
盗賊のリーダーが苦々しく言った。
「まぁいい。8対4なら勝てるだろう」
「かかれ!」
盗賊たちが一斉に襲いかかってきた。しかし、花子の料理を食べた3人の動きは異次元だった。
「速い!」
ライトの剣技が盗賊の武器を弾き飛ばす。
「なんて魔法の威力だ」
ミラの攻撃魔法が2人の盗賊を同時に吹き飛ばした。
「矢が見えねぇ」
ケンの連射が正確に盗賊たちの武器を破壊していく。
わずか数分で、8人の盗賊たちは全員戦闘不能になった。
「嘘だろ...」
リーダーが唖然としている。
「こんな強い冒険者たち、聞いたことねぇ」
「僕たちも強くなったもんですね」
ライトが満足そうに言った。
「全部花子さんの料理のおかげです」
「本当にすごい効果ですね」
ミラも感心していた。
## 盗賊への対処
「さて、この人たちどうしましょう」
ケンが困った顔をしている。
「殺すわけにもいかないし...」
「あの、すみません」
花子が荷馬車から顔を出した。
「この人たち、お腹すいてるんちゃいます?」
「え?」
「なんか、みんな痩せてるし、服もボロボロやし...」
確かに、盗賊たちは栄養失調気味に見えた。
「まさか、食べ物に困って盗賊になったとか?」
花子の推測に、リーダーが驚いた顔をした。
「な、なんで分かる?」
「やっぱり!」
花子は荷馬車から降りて、盗賊たちに近づいた。
「みんな、ちゃんと食事してる?」
「え?あ...最後にまともなメシ食ったのは3日前だ」
「そんな!あかんやん」
花子は慌てて料理の準備を始めた。
「ちょっと待って、温かいもの作るから」
「お、おい、何してるんだ?」
盗賊たちが困惑している。
## 心を込めた料理
「花子さん、危険ですよ」
ライトが心配そうに言った。
「大丈夫。この人たち、本当は悪い人やないと思う」
花子は手早く野菜スープを作り始めた。栄養満点で、体力回復効果もあるスープだ。
「体が弱ってる時は、優しい味のスープが一番やからね」
プルちゃんも手伝ってくれて、美味しそうな匂いが辺りに漂った。
「う、うまそうな匂いだ...」
盗賊の一人が呟く。
「できたで〜。みんな、食べて」
花子は盗賊たちにスープを配った。
「な、なんで俺たちに...」
「お腹すいてる人に、食べ物あげるのは当然やん」
盗賊たちは恐る恐るスープを口にした。
すると——
「うめぇ...」
「こんな美味いもん、初めて食った」
「体が温まる...」
みんな涙を流しながら食べていた。
## 真実の告白
スープを食べ終えた盗賊のリーダーが、重い口を開いた。
「実は...俺たち、元は農民だったんだ」
「農民?」
「ああ。でも、魔物の襲撃で村が壊滅して...」
「作物も家畜も全部やられて、生きていくためには...」
他の盗賊たちも、それぞれ事情があった。病気の家族を抱えていたり、借金を背負っていたり...
「そんな...大変やったんやね」
花子は同情していた。
「でも、盗賊なんてしたらあかん」
「分かってる!でも、他に方法が...」
「あるで」
花子がきっぱりと言った。
「え?」
「働いたらええやん。ちゃんとした仕事を探して」
「でも、俺たちみたいな奴らを雇ってくれるところなんて...」
その時、フェルディナンドが口を開いた。
「私が雇いましょう」
「え?」
「商隊の護衛や荷運びなら、人手が欲しいところです」
「本当ですか?」
「ただし、条件があります」
フェルディナンドが真剣な顔をした。
「二度と盗賊なんてしないこと。そして、花子さんの料理を食べて、しっかり体を作り直すこと」
「料理を食べて?」
「ええ。栄養失調では良い仕事はできませんからね」
## 和解と協力
「本当に...俺たちを雇ってくれるんですか?」
リーダーの目に希望の光が宿った。
「はい。でも、信用を築くまでは見習いからです」
「構いません!」
盗賊たちは頭を下げた。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、まずはしっかり食べて体力をつけましょう」
花子が追加の料理を作り始めた。
「今度は筋力向上の肉料理も作るわ」
「すみません、色々と...」
リーダーが申し訳なさそうに言った。
「ええのよ。みんな生きていくの大変やもん」
花子の優しさに、元盗賊たちも心を開いていった。
「あの、あなたのお名前は?」
「鈴木花子です。よろしくね」
「俺はガルス。こいつらは俺の仲間です」
「ガルスさんやね。覚えたで」
こうして、護衛依頼は思わぬ形で仲間が増えることになった。
## 新たな仲間との旅
元盗賊たちが加わった一行は、合計12人の大所帯になった。
「賑やかになりましたね」
ミラが楽しそうに言った。
「でも、みんないい人たちで良かった」
「そうですね。花子さんの判断が正しかったです」
ライトも安心している。
「花子さんの料理、本当に人の心も癒すんですね」
ケンが感心していた。
「料理は愛情やからね」
花子は嬉しそうに答えた。
夕方になって、一行は森の中の開けた場所で野営することにした。
「今夜はみんなでキャンプファイヤーをしましょう」
フェルディナンドの提案で、大きな焚き火を囲んで夕食の準備が始まった。
「花子さん、何か手伝うことありますか?」
ガルスが申し出てくれた。
「ありがとう。野菜切るの手伝ってもらえる?」
「俺でも大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。料理は気持ちが大事やから」
## 大人数の夕食作り
12人分の夕食を作るのは大変だったが、みんなが手伝ってくれて楽しい作業になった。
「ワイルドボア肉のシチューに、森の野菜サラダ、それから...」
花子は効率よく料理を進めていく。
「すげぇな、手際が良い」
元盗賊の一人が感心している。
「見てるだけで勉強になるよ」
「料理できると、どこでも生きていけるからなぁ」
花子のコツを教わりながら、みんなで協力して夕食を作り上げた。
「できあがり〜!」
大きな鍋いっぱいのシチューと、山盛りのサラダ。それに花子特製のパンも焼き上がった。
「いただきまーす!」
みんなで一緒に食事を取る。
「うめぇ!」
「こんな美味いメシ、久しぶりだ」
「花子さん、ありがとう」
元盗賊たちの表情が、どんどん明るくなっていく。
「みんなの笑顔を見てると、私も嬉しいわ」
花子は心から満足していた。
## 夜の語らい
夕食後、焚き火を囲んでみんなで語り合った。
「花子さんは、どうしてそんなに料理が上手なんですか?」
ガルスが興味深そうに聞いてきた。
「うーん、おばあちゃんに教わったからかな」
「おばあちゃん?」
「はい。料理は愛情だって、いつも言ってました」
花子は和包丁を見つめた。
「それに、この包丁も特別やしね」
「包丁が特別?」
「ええ。おばあちゃんの形見なんです」
みんな興味深そうに和包丁を見つめていた。
「確かに、普通の包丁じゃないですね」
フェルディナンドが鑑定眼で見て言った。
「相当な業物です」
「そうなんですか?」
「ええ。これは間違いなく名工の作った逸品です」
(やっぱり、おばあちゃんの包丁は特別やったんやなぁ)
## 二日目の朝
翌朝、一行は早起きして出発の準備をした。
「おはようございます」
元盗賊たちも、昨夜の食事でだいぶ元気になっていた。
「顔色も良くなったなぁ」
花子が嬉しそうに言った。
「花子さんの料理のおかげです」
「体調もばっちりです」
ガルスたちも感謝していた。
「それじゃあ、今日も頑張りましょう」
「おー!」
元気な掛け声と共に、12人の大行列が出発した。
## バルモラルへの到着
2日目の夕方、ついにバルモラルの町が見えてきた。
「あ!見えた見えた!」
花子が指差した先に、大きな町が広がっている。
「バルモラル、立派な町ですね」
ミラが感心している。
「商業都市だけあって、活気がありますね」
ライトも街の雰囲気を見て言った。
「お疲れさまでした、皆さん」
フェルディナンドが振り返った。
「無事に到着できたのは、皆さんのおかげです」
「いえいえ、私たちも楽しい旅でした」
花子が答えた。
「特に、新しい仲間ができたのが嬉しかったです」
ガルスたちも嬉しそうに頷いた。
## 依頼の完了
バルモラルの商人ギルドで、護衛依頼の完了手続きが行われた。
「商品に損傷なし、予定通りの到着。完璧です」
ギルドの職員が確認している。
「こちらが報酬の金貨5枚です」
「ありがとうございます」
ライトが代表して受け取った。
「それと、追加報酬として銀貨20枚」
「追加報酬?」
「新しく雇用された方々の紹介料です」
フェルディナンドが説明してくれた。
「元盗賊たちを更生させたのは、素晴らしい成果だと思います」
「そんな、お金をもらうようなことやないですよ」
花子が遠慮したが、フェルディナンドは聞かなかった。
「いえいえ、これは正当な報酬です」
## バルモラルでの評判
バルモラルの町でも、花子の料理はすぐに話題になった。
「隣町から来た料理人がすごいらしい」
「食べるだけで強くなる料理を作るって」
「今夜、宿屋で実演するらしいよ」
花子は宿屋の主人に頼まれて、特別に料理を披露することになった。
「えー、そんなおおげさな...」
「いえいえ、ぜひお願いします」
「商人の皆さんも楽しみにしてるんです」
結局、宿屋の食堂で料理の実演会が開かれることになった。
## 料理実演会
夜、宿屋の食堂は多くの人で賑わっていた。
「それでは、花子さんの料理実演を始めさせていただきます」
宿屋の主人が紹介する。
「よろしくお願いします」
花子は少し緊張していた。
(こんなにたくさんの人の前で料理するなんて...)
でも、プルちゃんが励ますように『プルプル♪』と鳴いてくれた。
「よし、頑張ろう」
花子は和包丁を手に取り、料理を始めた。
「まずは、筋力向上のステーキから」
手際よく肉を切り分けて、調味料で味付けしていく。
「うわぁ、包丁さばきが美しい」
「あの切れ味、すごいな」
観客たちが感心している。
料理が完成すると、試食してもらった。
「本当に強くなった!」
「すごい効果だ」
「こんな料理、初めて食べた」
大成功だった。
## 新たな発見
実演会の後、一人の老商人が花子に近づいてきた。
「素晴らしい料理でした」
「ありがとうございます」
「実は、あなたの料理技術について、ご相談があるのですが...」
「相談?」
「はい。我々商人の間で、あなたの料理を商品化できないかと話し合っているのです」
「商品化?」
「料理の効果を保存できる方法があれば、全国に販売できます」
老商人の提案は興味深いものだった。
「でも、私の料理は作りたてが一番効果があるんです」
「なるほど...では、レシピの販売はいかがでしょう?」
「レシピ?」
「あなたの調理法を教本にして、全国の料理人に広めるのです」
(うーん、面白いアイデアやけど...)
花子は少し考えてから答えた。
「今すぐは決められません。でも、興味はあります」
「分かりました。ごゆっくり考えてください」
## 帰路の準備
翌朝、一行は帰路の準備をしていた。
「昨夜はすごい騒ぎでしたね」
ライトが苦笑いしている。
「花子さん、完全に有名人ですよ」
「そんなおおげさな...」
花子は照れていた。
「でも、料理で人を喜ばせるのは嬉しいことやね」
「ええ。花子さんの料理には、人を幸せにする力がありますね」
ミラも同感だった。
「さて、帰りましょうか」
フェルディナンドも準備を終えている。
「ガルスさんたちはどうするんですか?」
「俺たちはここで働かせてもらいます」
ガルスが答えた。
「フェルディナンドさんの商隊で、頑張ります」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「はい。花子さん、本当にありがとうございました」
「あなたのおかげで、俺たちは新しい人生を始められます」
元盗賊たちは深く頭を下げた。
## 別れと感謝
「じゃあ、元気でな」
「また会いましょう」
一行は元盗賊たちと別れて、帰路についた。
「いい人たちでしたね」
ケンが振り返りながら言った。
「みんな、花子さんの料理で変わったんです」
「料理の力って、すごいなぁ」
ライトも感心していた。
「料理は愛情やからね」
花子は嬉しそうに答えた。
「人と人をつなぐ力もあるんやなぁ」
## 帰路での成長
帰り道、「風味良好」の4人は今回の依頼を振り返っていた。
「僕たち、また強くなりましたね」
ライトが実感を込めて言った。
「連携もよくなってる」
「花子さんの料理のおかげです」
ミラも頷いた。
「でも、料理だけじゃないと思うんです」
「え?」
「花子さんがいると、なぜかみんな前向きになれるんです」
ケンの言葉に、花子は照れくさくなった。
「そんなことないですよ」
「いえ、本当です」
「花子さんの人柄が、チームワークを良くしてるんです」
(みんな、ありがとう...)
花子は心が温かくなった。
## 町への帰還
夕方、ついに町が見えてきた。
「ただいま〜」
花子が嬉しそうに言った。
「お疲れさまでした」
ギルドで帰還報告をすると、受付嬢が驚いた顔をした。
「え?元盗賊を更生させた?」
「はい。今はバルモラルで働いてます」
「すごいですね...戦闘だけじゃなく、そんなことまで」
「花子さんの人柄ですね」
ライトが誇らしげに言った。
「これで「風味良好」の評判も上がりますね」
## 新しい日常
その夜、宿屋の部屋で花子は今回の依頼を振り返っていた。
「楽しい依頼やったなぁ」
プルちゃんも満足そうに『プルプル♪』と鳴いている。
「新しい仲間もできたし、色んなことを学んだし」
窓の外を見ると、ギルドの明かりが見えている。
「私も、少しずつ成長してるんかな?」
和包丁を手に取ると、温かく光った。
「おばあちゃん、見てくれてる?」
包丁の光が一段と強くなったような気がした。
「明日からまた頑張ろうな、プルちゃん」
『プルプル♪』
プルちゃんも同意するように鳴いた。
初めての護衛依頼は、予想以上に多くのことを花子に教えてくれた。
料理の力、仲間の大切さ、そして人とのつながりの素晴らしさ。
平凡な主婦だった鈴木花子は、また一つ成長していた。
明日からも、新しい冒険が待っている。
パーティ「風味良好」の活躍は、まだまだ続いていく。