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魂の対話

花子の意識は、愛庖絆刃の中の精霊世界に入っていた。


そこは温かい光に満ちた美しい空間。


まるで、おばあちゃんの台所のような懐かしい香りがする。


「ここが...包丁の中」


『はい。私たちの住む世界です』


愛の精霊が微笑んでいる。


『私の名前は愛音あいね


『この包丁を千年間守り続けてきました』


愛音の周りに、他の女性たちの姿も現れた。


『こちらは歴代の継承者たちです』


「あ、おばあちゃん」


若い頃のおばあちゃんがいる。


『花子、よく来たね』


おばあちゃんが優しく微笑む。


『そして、こちらが千年前の継承者、桜さんです』


花子とそっくりな女性が現れた。


『初めまして、花子さん』


『私が千年前に魔王と戦った料理人です』


「千年前の戦いって、どうやったん?」


花子が桜に聞く。


『実は...』


桜の表情が曇る。


『私は魔王に敗北しました』


『最後まで戦いましたが、力及ばず』


『魔王を封印したのは、他の勇者たちです』


「そうやったんか...」


『でも、私は最期に愛音と融合しました』


『そして、この包丁に私の魂と技術を宿したのです』


「融合って、どういうこと?」


『肉体を捨てて、精霊と一つになることです』


愛音が説明する。


『融合すれば、神に等しい力を得られます』


『しかし、二度と人間には戻れません』


『永遠に包丁の中で生き続けることになります』


「そんな...」


花子が震える。


『でも、それが魔王に勝つ唯一の方法なのです』


「おばあちゃんも融合したん?」


『いえ』


おばあちゃんが首を振る。


『私の時代には、魔王は眠ったままやった』


『だから、融合の必要はなかった』


『でも、いつか来る日のために』


『この包丁を花子に託したんや』


「おばあちゃん...」


花子が涙を浮かべる。


『融合の代償について、詳しく説明しましょう』


愛音が続ける。


『融合すれば、確かに強大な力を得られます』


『魔王を倒すことも可能でしょう』


『しかし、花子さんは人間としての人生を失います』


『仲間たちとの思い出も、恋も、家族も』


『すべてを諦めることになります』


その時、現実世界の音が聞こえてきた。


『フフフ...包丁と対話しているのか』


魔王の声。


『無駄だ。融合など間に合わん』


『お前の仲間たちも、私が始末してやろう』


扉の向こうで、仲間たちの悲鳴が聞こえる。


「みんな!」


花子が慌てる。


『急がなければなりません』


愛音が焦っている。


『魔王が本気を出せば、この空間も崩壊します』


『融合するなら、今しかありません』


「でも...」


花子が迷っている。


『花子』


桜が言う。


『千年前、私は迷いました』


『その結果、魔王を倒せませんでした』


『同じ過ちを繰り返さないで』


『実は、私にも迷いがあります』


愛音が打ち明ける。


『融合すれば、花子さんは幸せな人生を失います』


『それが辛いのです』


『でも、世界を救うためには...』


「愛音ちゃん」


花子が優しく言う。


「あんたも辛いんやね」


『はい...』


愛音が涙を流す。


『歴代の継承者を見送るのは、いつも辛いのです』


花子の心に、仲間たちの顔が浮かんだ。


ユウキの優しい笑顔。


ミラの一生懸命な姿。


ライトの頼もしい背中。


ケンの冷静な瞳。


アンナの慈悲深い微笑み。


カイルの守護の心。


「みんな...」


『プルプル...』


プルちゃんの鳴き声も聞こえる。


「分かった」


花子が決意を固める。


「融合する」


『花子さん...』


愛音が驚く。


「でも、条件がある」


「みんなを守った後は、できるだけ長く人間として生きたい」


「それまでは、みんなと一緒におりたい」


『それは...可能です』


愛音が頷く。


『融合は段階的に行えます』


『まず、部分融合から始めましょう』


愛音が説明する。


『これなら、人間としての自我を保てます』


『必要な時だけ、完全融合すればいいのです』


「それやったら、みんなともう少し一緒におれる?」


『はい。完全融合は最後の手段として』


『普段は人間のままでいられます』


「それじゃあ、お願いします」


花子が愛音に向かって手を伸ばす。


『分かりました』


愛音も手を伸ばす。


『部分融合・始動』


二人の手が触れ合った瞬間、温かい光が広がった。


花子の体に、新たな力が流れ込んでくる。


「これは...」


愛の力、希望の力、そして絆の力。


すべてが一つになって、花子の中で輝いている。


『これが部分融合の力です』


愛音の声が花子の心に響く。


『神饌調理術の真の力を使えるようになりました』


『「愛庖無限刃あいほうむげんじん」』


愛音が技の名前を教えてくれる。


『これが、部分融合状態での最強技です』


『魔王にも対抗できるでしょう』


「愛庖無限刃...」


花子が技の名前を呟く。


確かに、体の奥底から無限の力が湧いてくる感覚がある。


『そして、もし必要になったら...』


愛音が続ける。


『完全融合を使ってください』


『これは最後の切り札です』


『使えば、魔王を確実に倒せますが...』


『花子さんは人間ではなくなります』


「分かった」


花子が頷く。


「最後の最後まで取っておく」


『それでは、現実世界に戻りましょう』


愛音が手を振ると、精霊世界が薄れていく。


『愛音ちゃん、ありがとう』


『いえ、こちらこそ』


愛音が微笑む。


『素晴らしい継承者に出会えて幸せです』


『一緒に魔王を倒しましょう』


花子の意識が現実世界に戻ってきた。


「あ...」


体が軽い。


愛庖絆刃が今までとは比較にならない光を放っている。


『何...この光は』


魔王が驚いている。


『まさか、部分融合を成功させたのか』


「そうや」


花子が立ち上がる。


「今度は、私の番や」


愛庖絆刃を握ると、無限の力が感じられる。


「すごい...これが部分融合の力」


魔王の威圧感も、以前ほど感じなくなった。


『面白い...』


魔王が興味深そうに見ている。


『千年前の料理人は、部分融合すらできなかった』


『お前の方が上ということか』


「みんな、大丈夫?」


花子が扉の向こうの仲間たちに声をかける。


「花子さん!」


ユウキの声が返ってくる。


「何か、すごいことになってますね」


「今、魔王と戦い直すから、少し待ってて」


花子が魔王に向き直る。


「さあ、続きや。」


「魔王さん、あんたようみたら、いい霜降りしてるやないの。」


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