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異世界の常識と花子の困惑

## 初めての町


森を抜けて歩くこと3時間。花子とプルちゃんの前に、ようやく人里が見えてきた。


「あ!町や!」


小高い丘の上から見下ろすと、石造りの建物が立ち並ぶ中世ヨーロッパ風の町が広がっている。城壁に囲まれた町の中央には、大きな広場があり、そこを中心に放射状に道が延びている。


「うわぁ...本当に異世界やんなぁ」


プルちゃんも花子の肩の上で『プルプル』と嬉しそうに鳴いている。


(さっきから他の冒険者らしき人たちとすれ違うようになったもんなぁ。みんな剣とか魔法の杖とか持ってるし...私みたいに包丁持ってる人は見いひんけど)


町に近づくにつれ、行き交う人々の姿が目に入ってくる。確かに、全身鎧の騎士風の人、ローブを着た魔法使い風の人、弓を背負ったハンター風の人など、RPGの世界そのものだった。


「やっぱりゲームみたいな世界なんやなぁ」


町の入り口には大きな門があり、そこに衛兵が立っている。


「すみません、この町に入るには何か手続きが要りますか?」


花子が恐る恐る声をかけると、衛兵は花子を見て首を傾げた。


「入町税は銅貨2枚だが...君、冒険者か?」


「あ、はい...たぶん」


「冒険者証は?」


「え?冒険者証?」


(そんなもん、あるわけないやん。まだ何も分からへんし...)


「まだ持ってません」


「それなら町の中の冒険者ギルドで手続きをするといい。入町税は免除してやるが、3日以内に登録するか、通常の入町手続きを取れよ」


「はい、ありがとうございます」


花子は慌てて頭を下げた。


(入町税って何?銅貨って何?冒険者ギルドって本当にあるん?)


## 町の中へ


門をくぐって町の中に入ると、花子の目は釘付けになった。


石畳の道に、木造と石造りが混在した建物群。看板には読めない文字で店名が書かれているが、なぜか意味は理解できる。武器屋、防具屋、薬屋、宿屋...


「すごいなぁ...本当にRPGの世界や」


通りを歩く人々の服装も多種多様だ。農民風の質素な服装の人もいれば、絹のような上質な服を着た貴族風の人もいる。そして何より目を引くのが、明らかに冒険者と分かる装備の人たち。


「あ、あの人、背中に剣を4本も背負ってる...」


「あっちの人は、杖から光が出てる...」


「え?あの人、耳が尖ってる!エルフ?」


花子は完全に観光客状態で、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていた。


『プルプル』


プルちゃんが何かを見つけたように鳴いた。指した方向を見ると、大きな建物に「冒険者ギルド」と書かれた看板が見える。


「あ、あそこがギルドなんかな?」


建物の前には、いかにも冒険者という格好をした人たちが出入りしている。花子は勇気を出して近づいてみた。


## 冒険者ギルドの光景


ギルドの建物は、花子が想像していたより遥かに大きく立派だった。1階は天井が高く、まるでホテルのロビーのように広々としている。


中に入ると、まず目に飛び込んできたのは巨大な掲示板だった。そこには無数の紙が貼られている。


「クエストボードか...」


近づいて見てみると、確かにクエストの依頼書のようだった。


【急募】スライム討伐 20匹 報酬:銀貨3枚

【依頼】薬草採取 ヒーリングハーブ10本 報酬:銅貨50枚

【緊急】ゴブリンの群れ討伐 報酬:金貨1枚


(へぇ、本当にゲームみたいなクエストがあるんや。でも...銅貨?銀貨?金貨?全然価値が分からへん)


ギルドの奥には受付カウンターがあり、制服を着た女性職員が数人座っている。カウンターの前には、クエストの受注や報告をしているらしい冒険者たちが列を作っていた。


「すごいなぁ...本当に機能してるんや」


その時、花子の横を大きな男性が通り過ぎた。全身に傷があり、剣と盾を装備した、絵に描いたような戦士だ。


「おい、新人か?」


男性が花子に声をかけた。


「あ、はい...」


「見ない顔だな。職業は何だ?」


「しょ、職業?」


(職業って...主婦?でもそれは職業なんかな?)


「私...料理作るのが得意なんですけど」


「料理?」


男性は首を傾げた。


「魔法料理師か?それとも錬金術師系か?」


「え?あの...普通の料理です」


「普通の料理?」


男性はますます困惑した表情になった。


「コック職なら冒険者じゃなくて、商工会の方だと思うが...」


(コック職?商工会?なんのこっちゃ分からん...)


## 職業の概念


「あの...すみません、この世界の職業について教えてもらえませんか?」


花子が恐る恐る尋ねると、男性は驚いた顔をした。


「職業を知らない?どこから来たんだ?」


「あ、えっと...遠いところから...」


「まぁいい。基本的な職業は戦士、魔法使い、僧侶、盗賊の4つが基本だ。そこから派生して、剣士、騎士、賢者、治癒師、暗殺者などがある」


「はぁ...」


「で、お前の『料理』っていうのは、どういう能力なんだ?魔法で食材を変化させるのか?それとも薬草を調合して回復薬を作るのか?」


「いえ、普通に食材を切って、炒めて、煮て...」


「......?」


男性の困惑は深まるばかりだった。


「ちょっと待て。まさか、魔法も使わずに、ただ食材を加工するだけか?」


「はい...」


「それは...職業じゃなくて、生活技能だろう」


(生活技能...そうか、この世界では料理は職業じゃないんかな)


その時、プルちゃんが花子の肩で『プルプル』と鳴いた。


「おお、プルプルを連れてるのか。テイマーでもあるのか?」


「テイマー?」


「魔物を使役する職業だ。プルプルは料理人のパートナーとして人気だが、戦闘では役に立たないからな」


(料理人のパートナー?この人、プルちゃんのことを知ってるんや)


「あの、プルプルって料理人のパートナーなんですか?」


「ああ。プルプルは料理の味を敏感に察知できるし、火力調整も得意だ。でも、料理人といっても、魔法料理師のことだがな」


## 魔法料理師との違い


「魔法料理師って、どんなことをするんですか?」


「主に冒険者パーティのサポートだ。魔法で食材に特殊効果を付与して、ステータス上昇料理や回復料理を作る」


「ステータス上昇料理?」


「筋力が上がったり、素早さが上がったりする料理だ。上級者になると、一時的に魔法抵抗力を付与したり、毒に対する免疫を与えたりもできる」


(あれ?それって、私が昨日作った料理みたいやん。プルちゃんも私も、あの肉を食べて強くなったし...)


「その...魔法料理師になるには、どうしたらいいんですか?」


「魔法が使えることが前提だ。あとは調理技術と、食材の知識。ギルドで適性テストを受ければ分かる」


(魔法...私、魔法使えるんかな?でも、確かに昨日は不思議な力を感じたし...)


「分かりました。ありがとうございます」


「おう。頑張れよ、新人」


男性は手を振って去っていった。


## 受付での手続き


花子は勇気を出して受付カウンターに向かった。


「あの、冒険者登録をしたいんですが...」


受付嬢は花子を見て、にっこりと微笑んだ。


「はい、初回登録ですね。まず基本情報をお聞かせください」


「はい」


「お名前は?」


「鈴木花子です」


「スズキ・ハナコ?珍しいお名前ですね。出身地は?」


「あ、えっと...遠い東の国から...」


(日本って言っても分からんやろうし...)


「そうですか。年齢は?」


「32歳です」


「職業は?」


「えっと...」


(魔法料理師って言うても、魔法が使えるか分からんし...)


「料理が得意なんですが...」


「料理?魔法料理師志望ということですね」


「あ、はい」


「では、適性テストを受けていただきます。まず、基本ステータスの測定から」


受付嬢は奥から水晶のような球体を持ってきた。


「この魔法測定器に手を置いてください」


## ステータス測定


花子は恐る恐る水晶球に手を置いた。すると、球体がほんのりと光り始める。


「あら...」


受付嬢が驚いた声を上げた。


「どうかしましたか?」


「いえ、数値が...少しお待ちください」


受付嬢は他の職員を呼んできた。


「課長、こちらの測定結果を確認していただけますか?」


中年の男性職員が水晶球を見て、目を丸くした。


「これは...珍しい」


「何が珍しいんですか?」


「あなたの魔力値は平均的ですが、『料理技能』の数値が異常に高いんです」


「料理技能?」


「通常、魔法料理師の料理技能は20〜50程度なんですが、あなたは...」


課長は水晶球をもう一度確認した。


「85です」


「85?」


「しかも、『食材鑑定』と『調理技術』が90を超えています。これは...見たことがない数値です」


(え?私、そんなにすごいん?)


「ただし、『魔法技術』が5と、かなり低いですね」


「それって...」


「魔法はほとんど使えないということです。でも、これだけ料理技能が高いなら...」


課長は首をひねった。


「料理技能だけでも、十分に価値があります。異例ですが、『特殊技能者』として登録させていただきます」


## 冒険者証の発行


「特殊技能者?」


「既存の職業分類に当てはまらない、特殊な能力を持った冒険者のことです。年に数人程度しか出ません」


「そうなんですか...」


「冒険者ランクは、最初は皆さんFランクからスタートです。実績を積めば昇格できます」


受付嬢が小さな金属プレートを渡してくれた。


「こちらが冒険者証です」


プレートには花子の名前と、「特殊技能者(料理系)」「Fランク」と刻まれている。


「これで正式に冒険者ですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


(なんか、本当に冒険者になってもうた...)


「初心者向けのクエストもありますので、よろしければご覧ください」


「あ、その前に...お金のことなんですが」


花子は重要なことを思い出した。


「お金?」


「私、この世界のお金を持ってないんです」


「え?」


受付嬢は困った顔をした。


「それは...問題ですね。宿泊費や食費はどうされるおつもりで?」


(そうや...お金がないと何もできへん。でも、地球のお金は使えへんやろうし...)


## お金の問題


「あの...物々交換とかはダメですか?」


「物々交換?何と交換を?」


花子は持参した魔物の肉を取り出した。


「ワイルドボアとオオカミの肉があるんですが...」


「魔物の肉ですか?」


受付嬢は肉を見て、目を見開いた。


「これ...すごく綺麗に解体されてますね」


「あ、ありがとうございます」


「しかも保存状態も完璧...これだけの技術があれば、食材商に高く売れると思います」


「本当ですか?」


「はい。ただし、魔物の肉は『ギルド認定』の証明書が必要です」


「証明書?」


「あなたが正当に狩った証明ですね。不正に入手した魔物の肉の売買は禁止されています」


「それは...どうやって?」


「討伐クエストを受けて、正式に狩ることです。または、目撃者がいれば証明として認められます」


(うーん、目撃者はプルちゃんだけやし...)


その時、課長が口を開いた。


「ただし、今回は特例として、初回登録記念ということで、ギルドで買い取らせていただきます」


「え?本当ですか?」


「これだけ質の高い食材なら、ギルドの食堂でも使えます。ワイルドボア肉は銀貨2枚、オオカミ肉は銀貨1枚でいかがでしょう?」


「ありがとうございます!」


(銀貨3枚...価値は分からんけど、とりあえずお金ゲット!)


## 貨幣システムの説明


「あの、すみません。この世界のお金の価値を教えてもらえますか?」


「あ、そうですね。基本は銅貨、銀貨、金貨です」


受付嬢が丁寧に説明してくれた。


「銅貨100枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚です」


「なるほど...」


「庶民の1日の食費が銅貨10〜20枚程度。宿屋の一泊が銅貨50枚〜銀貨1枚といったところでしょうか」


「銀貨3枚あったら、どれくらい生活できますか?」


「質素に暮らせば1週間程度は大丈夫だと思います」


(1週間か...その間にクエストをこなして、お金を稼がんとあかんのね)


「分かりました。ありがとうございます」


## 初クエストの選択


「それでは、初心者向けのクエストを見てみましょうか」


受付嬢と一緒にクエストボードの前に立つ。


「Fランクの冒険者が受けられるのは、この辺りですね」


【採取】薬草採取 ヒーリングハーブ5本 報酬:銅貨20枚

【討伐】スライム討伐 5匹 報酬:銀貨1枚

【配達】隣町への手紙配達 報酬:銅貨30枚

【その他】食堂の手伝い 1日 報酬:銅貨25枚+食事


「どれがおすすめですか?」


「初心者の方には薬草採取か食堂の手伝いがおすすめです。危険も少ないですし」


花子は「食堂の手伝い」に目を留めた。


「食堂の手伝いって、どんなことをするんですか?」


「料理の補助や配膳、皿洗いなどです。料理技能をお持ちなら、腕を振るえるかもしれませんね」


「それにします!」


「分かりました。では手続きを...」


その時、食堂の方向から香ばしい匂いが漂ってきた。


「あ、ちょうどお昼時ですね。まずはギルドの食堂で腹ごしらえはいかがですか?」


「そうですね」


(お腹すいたし、この世界の料理がどんなもんか見てみたいなぁ)


## ギルドの食堂


ギルドの奥にある食堂は、冒険者たちで賑わっていた。大きなテーブルには、いかにも冒険者という格好の人たちが座って食事をしている。


「いらっしゃいませ〜」


元気な声で女性店員が迎えてくれた。


「何にいたしますか?」


花子はメニューを見た。


【本日のメニュー】

・冒険者定食 銅貨15枚

・ワイルドボアステーキ 銅貨25枚

・薬草スープ 銅貨8枚

・黒パン 銅貨3枚


「冒険者定食をお願いします」


「はーい!」


しばらくして運ばれてきた定食を見て、花子は少し驚いた。


(うーん...見た目はあんまり美味しそうやないなぁ)


黒いパン、茶色いスープ、何の肉か分からない焼き肉、茹でただけのような野菜。見た目は質素で、味付けも薄い。


「いただきます」


一口食べてみると...


(あ、意外と悪くない。でも、なんかもうちょっと工夫できそうやなぁ)


花子の料理人魂がうずいてきた。


(このスープ、もうちょっと野菜の旨味を引き出せそうやし、お肉ももっと柔らかく焼けそう...)


プルちゃんにも少し分けてあげると、プルちゃんは微妙な顔をした。


『プル...プルプル』


(プルちゃんも、私の料理の方が美味しいって言ってるみたい)


その時、隣のテーブルの会話が聞こえてきた。


「最近の食堂の料理、なんかマンネリだよなぁ」


「そうそう。もうちょっと美味しい料理が食べたいよ」


「でも仕方ないさ。料理人不足だからな」


「魔法料理師は高級すぎるし、普通のコックは冒険者向けの料理作れないし」


(料理人不足...これは、チャンスかもしれん)


## 食堂での出会い


食事を終えた花子が席を立とうとした時、厨房から困った声が聞こえてきた。


「困ったなぁ...今日のコック、急に休んじゃったし」


「店長、どうします?」


「うーん...簡単なものしか作れないよ」


花子は思い切って厨房に声をかけた。


「あの、すみません」


「はい?」


丸々とした中年男性——おそらく店長——が振り返った。


「私、料理が得意なんですが、お手伝いできませんか?」


「料理?あなたは?」


「今日冒険者登録したばかりの新人です。食堂の手伝いのクエストを受けたいと思ってて」


「おお、それは助かる!でも料理の腕前はどの程度?」


「一応、家庭料理は一通り...」


「じゃあ試しに、何か簡単なものを作ってもらえるかな?」


「はい!」


花子は持参した和包丁を取り出した。


「おお、良い包丁だね。職人ものか?」


「祖母の形見なんです」


「大事にしなよ。良い包丁は料理人の命だからね」


店長は花子を厨房に案内してくれた。


「食材はこの辺りにあるから、何か一品作ってみて」


## 初めての異世界料理披露


花子は厨房にある食材を見回した。


(野菜は地球とそんなに変わらんけど、調味料が少ないなぁ。塩、胡椒、油くらい?)


でも、持参した異世界の調味料植物がある。赤いファイアベリー、黄色いハニーフラワー、紫のソルトリーフ


「この野菜、炒め物にしてもいいですか?」


「もちろん。好きにして」


花子は手慣れた様子で野菜を切り始めた。和包丁の切れ味は相変わらず素晴らしく、野菜が美しく切られていく。


「お、包丁さばきが良いね」


「ありがとうございます」


フライパンに油を熱し、野菜を炒め始める。そこに持参した調味料を加えていく。


ファイアベリーをすり潰して辛味を、ソルトリーフで塩味を、ハニーフラワーで甘みを。


「何だその調味料?見たことないけど」


「森で採取したんです」


「へぇ、君は調味料の知識もあるのか」


野菜炒めが出来上がると、厨房に素晴らしい香りが漂った。


「うん、良い匂いだ」


店長が味見をしてみると...


「うまい!これは美味しい!」


「本当ですか?」


「この味付け、初めて食べるよ。どうやって作ったんだ?」


花子は使った調味料を説明した。


「ほほう...君、相当な腕前だね。うちで働いてみる気はないか?」


「え?」


「正式に雇いたい。給料は銀貨2枚...いや、3枚でどうだ?」


(銀貨3枚?1週間生活できる金額を1日で?)


「でも私、冒険者なので...」


「冒険者でも構わない。時間のある時だけで良いから」


その時、客席の方から声が上がった。


「店長!この野菜炒め、めちゃくちゃ美味いぞ!」


「誰が作ったんだ?」


「お代わりできるか?」


花子の野菜炒めを食べた客たちが、口々に絶賛している。


「ほら見なさい。君の料理は本物だ」


店長は満足そうに頷いた。


「どうする?」


## 新しい可能性


花子は考え込んだ。


(料理で食べていける可能性がある...でも、私は冒険者になったんやから、冒険もしてみたい)


「時々でもよろしければ、ぜひお願いします」


「よし、決まりだ!じゃあ今日は試しに、夕食の時間まで手伝ってもらえるか?」


「はい!」


こうして花子は、異世界での初仕事を得ることになった。


厨房で働きながら、花子は色々なことを学んだ。この世界の食材の種類、調理法、客の好み...


そして何より、自分の料理が多くの人に喜ばれることの素晴らしさを再確認した。


「やっぱり私、料理が好きやなぁ」


プルちゃんも厨房の隅で気持ちよさそうに丸くなっている。


『プルプル♪』


夕方になって、店長が花子に声をかけた。


「今日はありがとう。約束通り、銀貨3枚だ」


「ありがとうございます」


「明日も来てくれるか?」


「はい、ぜひ」


「それと...君、本当に料理の才能があるよ。この町の料理界に新風を吹き込んでくれそうだ」


(新風...そうか、私の料理は確かにこの世界では珍しいんかもしれん)


## 宿屋での夜


仕事を終えた花子は、ギルドで紹介された宿屋に向かった。


「一泊銅貨50枚の部屋をお願いします」


「はい、こちらになります」


部屋は質素だが清潔で、一人で過ごすには十分だった。


ベッドに座って、今日一日のことを振り返る。


(異世界に来て3日目...なんか、だんだん慣れてきたかも)


プルちゃんが膝の上で『プルプル』と鳴く。


「プルちゃんも疲れたやろ?今日はゆっくり休もうな」


窓の外を見ると、異世界の夜空に見知らぬ星座が輝いている。2つの月も、幻想的に街を照らしている。


「不思議な世界やなぁ...でも、悪くない」


花子は思った。確かに最初は困惑したが、この世界には可能性がある。自分の料理が人を喜ばせることができる。


(明日からも頑張ろう。まずは、この世界でしっかり生活できるようになって、それから...冒険も楽しんでみたいな)


和包丁を大切にしまいながら、花子は明日への期待を膨らませていた。


## 新たな日常の始まり


翌朝、花子は早起きしてギルドの食堂に向かった。


「おはようございます」


「おお、早いね。やる気があって良いよ」


店長は機嫌が良さそうだった。


「昨日君が作った野菜炒め、評判になってるよ。『また食べたい』って客がたくさん来てる」


「本当ですか?」


「ああ。今日は何を作ってくれるんだ?」


花子は昨夜考えていたメニューを提案した。


「持参した魔物の肉で、ステーキを作ってみたいんです」


「魔物の肉?どんな?」


「ワイルドボアとオオカミです」


「おお、それは良い食材だ。でも調理が難しいんだよな」


「大丈夫です。臭みを取って、柔らかく焼く方法があります」


「ほう、聞かせてくれ」


花子は祖母に教わった、野生の肉の調理法を説明した。血抜きの重要性、臭み取りの方法、適切な火加減...


「なるほど、勉強になるよ。じゃあ早速やってみよう」


## 魔物肉料理の成功


花子は丁寧にワイルドボア肉を処理していく。まず臭みを取るために、塩でもみ込んで血を抜く。それから香味野菜でマリネして、最後に絶妙な火加減で焼き上げる。


「いい匂いだ...」


店長も他の厨房スタッフも、興味深そうに見守っている。


「できました」


皿に盛りつけられたワイルドボアステーキは、見た目も美しく、香りも素晴らしかった。


「味見してみるよ」


店長が一口食べると...


「うまい!これは本当に魔物の肉か?」


「柔らかくて、臭みもない。これなら高級料理として出せる」


「すごいじゃないか、花子!」


(やった!この世界でも、私の料理は通用するんや)


その日のランチタイムには、花子の魔物ステーキが大人気になった。


「これが例の新人料理人の料理か」


「美味しい!こんな魔物料理初めて食べた」


「また明日も食べに来よう」


客たちの嬉しそうな顔を見ていると、花子も自然と笑顔になった。


(やっぱり料理って素晴らしいなぁ。国が変わっても、人を喜ばせることは変わらへん)


プルちゃんも厨房の隅で満足そうに丸くなっている。


## 冒険への準備


仕事を終えた花子は、ギルドの受付で明日からのクエストについて相談した。


「食堂の仕事と並行して、冒険もしてみたいんです」


「そうですね。料理技能があるなら、食材採取クエストがおすすめです」


「食材採取?」


「レストランや薬師から依頼される、特定の食材の採取です。危険度も低く、料理人には人気のクエストです」


「それにします」


「では明日の朝、森での薬草採取はいかがでしょう?ヒーリングハーブという回復薬の材料になる植物です」


「はい、お願いします」


こうして花子は、異世界での新しい生活リズムを見つけた。


朝は食材採取のクエスト、昼から夕方は食堂での料理の仕事。


(これなら、冒険も料理も両方楽しめそうや)


宿屋に戻る道すがら、花子は町の人々の生活を眺めていた。活気のある商店街、楽しそうに話す人々、平和な日常...


(この町、ええとこやなぁ。しばらくここを拠点にして、この世界のことをもっと知りたい)


部屋に戻ると、プルちゃんが窓辺で外を眺めている。


「プルちゃん、どう?この世界、悪くないやろ?」


『プルプル♪』


プルちゃんの返事も、前向きに聞こえた。


「よし、明日からも頑張ろうな」


花子は和包丁を手入れしながら、この世界での新しい人生に向けて、静かに決意を固めていた。


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