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飢饉に苦しむ領民との出会いと緊急支援

## 商人の到着


翌日の夕方、約束通り商人の荷馬車が領地に到着した。


「お待たせいたしました」


荷馬車から降りてきたのは、50代の商人マーカス・ウィンザーだった。以前、花子の外交晩餐会料理を絶賛してくれた人物だ。


「マーカスさん!」


花子が駆け寄る。


「花子さん、お久しぶりです。こんな状況でお会いするとは...」


マーカスの表情は深刻だった。


「事前に聞いてはいましたが、実際に見ると想像以上ですね」


「はい。でも、みんなで力を合わせて、必ず復活させます」


「その意気です」


マーカスが荷馬車の幌を開けると、大量の食材が積まれていた。


「小麦粉、米、野菜、肉類...できる限り集めました」


「すごい量ですね」


ライトが感心している。


「王立魔法学院からの依頼ということで、各地の商人仲間も協力してくれました」


「ありがとうございます」


エドワード卿が深く頭を下げる。


「代金の方は...」


「後ほど王立魔法学院からお支払いします」


アルバートが保証する。


「今は一刻も早く、領民の方々に栄養のあるものを」


「分かりました。すぐに準備を始めます」


## 村での大量調理準備


夜が明けると、花子たちは村の集会所で大量調理の準備を始めた。


「まず、何人分作る必要があるんでしょうか?」


「領地全体で約300人です」


エドワードが答える。


「そのうち、特に栄養状態が深刻なのは100人ほど」


「300人分...」


花子は計算していた。いくら神饌調理術の「一を十にする調理術」を使っても、一度に300人分は厳しい。


「何回かに分けて作りましょう」


「まず、子供たちと体調の悪い方から」


「そうしましょう」


村長のおじいさんが案内してくれる。


「子供は30人、病気で寝込んでいる大人が20人です」


「分かりました。まずは50人分から」


花子は集会所の大きな厨房を見回した。かまどが3つ、大きな鍋が5つ。設備はそれなりに整っている。


「プルちゃん、火力お願いします」


『プルプル!』


プルちゃんが張り切って炎を吐く。


「ライトさんたちには、食材の下ごしらえをお願いします」


「任せてください」


「今日は『生命力回復の大量スープ』と『体力増強の雑炊』を作ります」


花子は神饌調理術大全を参考にしながら、レシピを調整していく。


まずはスープから。商人が持参してくれた新鮮な野菜と肉を使って、栄養バランスの良いスープを作る。


「野菜はこう切って...肉はこの大きさに」


ライトたちに指示を出しながら、花子は和包丁で特別な調味料を準備していく。


持参した薬草類を細かく刻み、神饌調理術の技法で効果を最大化する。


「この薬草は体力回復、こっちは食欲増進、そしてこれは消化促進」


ケンが興味深そうに見ている。


「花子さん、薬草の知識もすごいですね」


「神饌調理術大全に詳しく書いてあるんです」


大きな鍋で野菜と肉を煮込み始める。アクを丁寧に取りながら、薬草エキスを少しずつ加えていく。


「『一を十にする調理術』...みんなのお腹を満たして、元気にしてあげて」


花子が祈りを込めると、鍋の中のスープが金色に光り始めた。


「うわぁ...」


見ていた村人たちが感嘆の声を上げる。


「本当に光ってる」


「これが神饌調理術...」


最初に出来上がったスープは、まず子供たちに配られた。


「みんな、温かいうちに飲んでね」


花子が一人一人に声をかけながら、スープを手渡していく。


最初の子供は、7歳くらいの女の子だった。頬はこけ、腕も細い。明らかに長期間の栄養不足だ。


「美味しいよ」


花子が優しく声をかけると、女の子は恐る恐るスプーンを口に運んだ。


「あ...」


その瞬間、女の子の顔がぱっと明るくなった。


「美味しい!」


「おかわりください!」


他の子供たちも次々とスープを飲み始める。


すると、驚くべきことが起こった。


子供たちの頬に、薄っすらと血色が戻ってきたのだ。


「すごい...」


村長が驚いている。


「こんなに即効性があるなんて」


『プルプル♪』


プルちゃんも嬉しそうに鳴いている。


子供たちに続いて、大人たちにもスープが配られた。


「ありがとうございます」


「こんなに美味しいものを...」


村人たちは涙を流しながらスープを飲んでいる。


中には、あまりの美味しさに号泣する人もいた。


「何ヶ月ぶりでしょうか...こんなに心から美味しいと思えるものを食べたのは」


40代の女性が震え声で言う。


「私たち、もうダメかと思っていました」


「でも、希望が見えてきました」


村人たちの表情が、明らかに変わってきている。


絶望に沈んでいた顔に、生気が戻ってきた。


スープに続いて、花子は体力増強の雑炊を作り始めた。


「お米はエネルギー源として重要ですからね」


商人が持参してくれた上質な米を使って、滋養満点の雑炊を作る。


鶏肉と野菜をたっぷり入れて、卵でとじる。最後に特製の薬草エキスを加えて、神饌調理術で効果を付与する。


「『体力増強の雑炊』...食べた人に力と元気を与えてください」


今度は、雑炊が薄い赤色に光った。


「また光ってる」


「花子さんの料理は、本当に魔法みたいですね」


ミラが感心している。


「魔法じゃありません。料理に込めた愛情です」


花子が答える。


「愛情が、こんな風に目に見える形になるなんて」


アルバートも興味深そうに観察している。


雑炊を食べ終えた村人たちから、次々と驚きの声が上がった。


「体が軽くなった」


「力が湧いてくる」


「久しぶりに立ち上がれました」


特に効果が顕著だったのは、寝たきりになっていた病人たちだった。


「本当に...本当に立てます」


60代の男性が、震え声で言いながら立ち上がる。


「3週間、ずっと寝込んでいたのに」


家族の人たちが泣いて喜んでいる。


「奇跡です」


「神様がいらっしゃったのですね」


村人たちが花子を見つめる目は、尊敬と感謝に満ちていた。


## 料理指導の開始


午後からは、村の女性たちに料理の指導を始めることにした。


「皆さんに、基本的な神饌調理術を覚えていただきたいんです」


集会所に10人ほどの女性が集まった。


「私たちでも作れるようになるんですか?」


30代の主婦らしき女性が不安そうに聞く。


「もちろんです。基本的な技術なら、すぐに覚えられますよ」


花子が包丁を取り出す。


「まず、包丁の持ち方から始めましょう」


料理教室での経験が活かされる。


「人差し指と親指で刃を挟むように...」


「こうですか?」


「そうそう、上手です」


一人一人の手を取って、丁寧に指導していく。


「大切なのは、食材への感謝の気持ちです」


「感謝?」


「はい。この野菜も、お肉も、命をいただくわけですから」


「そして、食べる人への愛情を込めること」


「愛情を込めると、料理が美味しくなるんですか?」


「はい。愛情を込めて作った料理は、体にも心にも良い効果があります」


女性たちが真剣に聞いている。


「それでは、実際に作ってみましょう」


花子が用意したのは、『元気野菜炒め』の簡単なレシピだった。


「これなら、特別な食材がなくても作れます」


普通の野菜に、採取しやすい薬草を少し加えるだけの簡単な料理だ。


「まず、野菜を切って...」


「心を込めて、丁寧に」


女性たちが包丁を握る。最初はおっかなびっくりだったが、だんだん慣れてきた。


「上手ですよ」


「私にもできそうです」


「次に、フライパンで炒めます」


「火加減はどのくらい?」


「中火で、野菜がしんなりするまで」


「愛情を込めて、ゆっくりと」


炒めている間、花子は神饌調理術の基本を説明した。


「大切なのは、気持ちです」


「家族の健康を願う気持ち、美味しく食べてもらいたい気持ち」


「そういう思いが、料理に特別な力を与えるんです」


30分後、女性たちの野菜炒めが完成した。


「できました!」


「私のも出来上がりです」


見ると、何人かの野菜炒めが薄っすらと光っている。


「あ、光ってる!」


「本当に神饌調理術ができた!」


女性たちが興奮している。


「みんなで味見してみましょう」


全員で試食すると、確かに普通の野菜炒めより美味しく、体が温かくなる感じがした。


「すごい!」


「私たちにもできるんですね」


「これなら、家族にも作ってあげられます」


女性たちの顔に、希望の光が宿っていた。


## エドワードの変化


その日の夕方、エドワード卿が花子のところにやってきた。


「花子さん、ありがとうございます」


「どうしたんですか?」


「村の様子が、一日で劇的に変わりました」


確かに、朝とは比べ物にならないほど、村に活気が戻っていた。


子供たちは元気に走り回り、大人たちも笑顔で会話をしている。


「皆さんの表情が、こんなに明るくなるなんて」


エドワードの目にも、久しぶりに笑みが浮かんでいた。


「希望を持てるって、こんなに大切なことだったんですね」


「そうですね。人は希望があれば、どんな困難も乗り越えられます」


「私も...弟を失った悲しみに沈んでばかりいてはいけませんね」


エドワードの表情が、少しずつ前向きになってきている。


「弟のためにも、この領地を立て直さなければ」


「きっと弟さんも、そう願っているはずです」


## 村人たちとの夜の交流


その夜、集会所で村人たちとの交流会が開かれた。


「花子さんに感謝の気持ちを伝えたくて」


村長が代表して挨拶する。


「皆で話し合って、何かお返しをしたいと思うのですが」


「お返しなんて...」


「いえ、お聞きください」


村長が続ける。


「私たちは農民です。土を耕し、作物を育てることしかできません」


「でも、いつかこの土地が復活したら」


「花子さんに、この領地で採れた一番美味しい野菜を食べていただきたいのです」


村人たちが一斉に頷く。


「そして、私たちの子供や孫に、花子さんのことを語り継ぎます」


「『神饌調理術の先生が、私たちを救ってくださった』と」


村人たちの純粋な気持ちに、花子は涙が出そうになった。


「ありがとうございます」


「私も、必ずこの土地を復活させます」


「そして、みなさんと一緒に、美味しい野菜を収穫しましょう」


その夜、プルちゃんも村の子供たちの人気者になっていた。


『プルプル♪』


「プルちゃん、可愛い!」


「火を吐くんだって」


子供たちがプルちゃんを囲んで、楽しそうに遊んでいる。


プルちゃんも嬉しそうで、小さな火の輪を作って見せたりしている。


「プルちゃんも、みんなに元気を与えてくれてるのね」


花子が微笑む。


『プルプル〜』


プルちゃんが花子の肩に飛び移る。


「お疲れさま。今日は大活躍やったね」


## 明日への計画


夜遅く、「風味良好」のメンバーとアルバート、エドワードが明日の計画を話し合っていた。


「今日の成功で、第一段階はクリアですね」


アルバートが満足そうに言う。


「でも、これからが本番です」


花子が神饌調理術大全を見ながら答える。


「栄養改善は継続が大切です」


「それと、土地の根本的な治療も進めなければ」


「具体的には?」


ライトが聞く。


「明日からは、畑の土壌改良を始めます」


「土壌改良?」


「はい。『大地の恵み復活術』の準備として、土地を清める必要があります」


花子が計画を説明する。


「それと並行して、村人への料理指導も続けます」


「少しずつでも、自分たちで栄養のある料理を作れるようになってもらいたいんです」


「素晴らしい計画ですね」


エドワードが感心している。


「私も、できる限り協力させていただきます」


深夜、花子は一人で星空を見上げていた。


「今日は良いスタートが切れた」


村人たちの笑顔、子供たちの元気な声、女性たちの希望に満ちた表情...


「でも、まだまだこれからやなぁ」


13日後に迫った満月の夜。その時までに、どれだけ準備ができるだろうか。


「おばあちゃん、今度は本当に大きな挑戦やで」


和包丁が温かく光る。


「でも、絶対に成功させる」


「この人たちの笑顔を、ずっと守り続けたいから」


プルちゃんが花子の膝の上で丸くなっている。


『プルプル...』


「プルちゃんも疲れたやろ。ゆっくり休もうな」


明日からも長い戦いが続く。でも、今日見た村人たちの希望の光を思い出せば、どんな困難も乗り越えられる気がした。


## 翌朝の始まり


翌朝、花子は誰よりも早く起きて、村に向かった。


「おはようございます」


すでに何人かの村人が集会所の前で待っていた。


「おはようございます、先生」


「今日は何をお手伝いできますか?」


昨日とは全く違う、積極的な姿勢に花子は嬉しくなった。


「今日は土壌改良を始めます」


「それと、料理指導の続きも」


「私たちも頑張ります」


村人たちの目に、強い意志が宿っていた。


「まず、北の畑から始めましょう」


花子は神饌調理術大全の土壌改良の章を開いた。


「『生命の種まき』という技術があります」


「生命の種まき?」


「はい。特殊な方法で土に生命力を注入する技術です」


花子が説明しながら、必要な材料を確認する。


「清らかな水、特殊な薬草、そして...」


「そして?」


「料理人の真心です」


村人たちが真剣に聞いている。


「まず、畑の土を掘り起こして、日光にさらします」


「それから、特製の栄養液を作って散布します」


「私たちにもできますか?」


「もちろんです。みんなで力を合わせれば、きっとできます」


## 希望の芽生え


昼頃には、村全体が活気に満ちていた。


畑では土壌改良作業が進み、集会所では料理指導が行われている。


子供たちも手伝えることを見つけて、一生懸命働いている。


「すごいですね」


アルバートが感心していた。


「昨日まで絶望に沈んでいた村が、こんなに活気づくなんて」


「希望の力は偉大ですね」


花子も満足そうに村の様子を見ていた。


「でも、これはまだ始まり」


「本当の勝負は、これからです」


満月まで残り12日。


長い戦いの第二幕が、いよいよ始まろうとしていた。


その日の夕方、花子は一人で北の畑を歩いていた。


昨日まで死んだように見えた土が、少しだけ生命力を取り戻しているような気がした。


「きっと、みんなの頑張りが土にも伝わってるんやろうね」


『プルプル♪』


プルちゃんも同意するように鳴く。


「よし、明日からも頑張ろう」


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