表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/34

貴族からの領地管理依頼と花子の決断

## 馬車での道中


領地に向かう馬車の中で、アルバートは詳細な資料を広げながら説明を続けていた。


「実は、私もこの件に深く関わっているのです」


「どういうことですか?」


花子が首を傾げる。


「私の家系は、代々この王国の貴族なのです」


「え?アルバートさんが貴族?」


「はい。マクグリガー家は、王立魔法学院と密接な関係を持つ学者貴族の家系です」


ライトも驚いている。


「それは知りませんでした」


「普段は学者として活動しているため、あまり貴族らしいことはしていませんが...」


アルバートが苦笑いする。


「今回問題になっている領地の領主、エドワード・グレイソン卿は、私の古い友人なのです」


「友人?」


「はい。王立魔法学院の同期で、共に学んだ仲間です」


馬車が石畳の道を進む中、アルバートは重い表情で続けた。


「エドワードは魔法の研究より領地経営を選びましたが、最近は深刻な問題に直面しています」


「具体的には、どのような問題なんですか?」


ミラが資料を見ながら聞く。


「まず、作物の収穫量が激減しています」


アルバートが地図を指差す。


「半年前から、どの畑でも作物がまともに育たなくなりました」


「土壌の問題ですか?」


花子が神饌調理術大全のページをめくりながら聞く。


「それが分からないのです。土壌を調べても、特に異常は見つかりません」


「魔物の被害は?」


ケンが聞く。


「それもありません。むしろ、この領地は魔物の被害が少ないことで有名だったのです」


「それなのに、なぜ...」


「気候の変化も、病気の流行も確認されていません」


アルバートが首を振る。


「まるで大地そのものが、生命力を失ってしまったかのような状況です」


「生命力を失った?」


花子が注目した。神饌調理術大全には、土地の生命力に関する記述があったからだ。


「はい。最初は一部の畑だけでしたが、今では領地全体に広がっています」


「それで、領民の方たちは?」


「食糧不足に陥っています。蓄えもそろそろ底をつきそうで...」


アルバートの表情が暗くなる。


「冬を越せるかどうかも分からない状況です」


「エドワードは責任を感じて、かなり参っているようです」


「そうですよね...領民の命がかかっているんですから」


花子が同情する。


「しかも、彼は元々真面目で責任感の強い性格なのです」


「王立魔法学院時代も、常に完璧を目指していました」


アルバートが友人を思い出すように話す。


「だからこそ、今回の原因不明の事態に、深く自分を責めているのです」


「可哀想に...」


「おそらく、我々が到着した時も、かなり憔悴しているでしょう」


「それも問題解決の妨げになっているかもしれません」


ライトが心配そうに言った。


「はい。だからこそ、花子さんたちの力が必要なのです」


「私たちにできることがあれば、精一杯やらせていただきます」


花子が決意を込めて答えた。


## 領地への到着


夕方になって、ようやく問題の領地が見えてきた。


「あそこがグレイソン領です」


アルバートが指差す先には、広大な農地が広がっていた。


しかし、花子が想像していた豊かな田園風景とは程遠い光景だった。


「うわぁ...ひどい状態やなぁ」


畑は荒れ果て、作物はほとんど育っていない。茶色く枯れた土地が、見渡す限り続いている。


「これは想像以上ですね」


ミラも驚いている。


「確かに、普通の農業問題ではありませんね」


ケンが弓を背負い直しながら言った。


「魔法的な原因でもなさそうですし...」


馬車が領主の館に近づくにつれ、状況の深刻さがより明確になってきた。


道端では、痩せこけた農民たちが力なく座り込んでいる。子供たちの顔も青白く、栄養失調の兆候が見られた。


「すぐにでも何かしてあげたいですね」


花子が胸を痛めている。


『プルプル...』


プルちゃんも悲しそうに鳴いた。


グレイソン家の館は立派な建物だったが、手入れが行き届いておらず、どことなく寂れた印象を与えていた。


「エドワード卿にお会いします」


アルバートが使用人に取り次ぎを頼む。


しばらくして現れたのは、40代前半の男性だった。やつれた顔に深いしわが刻まれ、目の下には大きなクマができている。


「アルバート...よく来てくれた」


「エドワード、久しぶりです」


二人は固い握手を交わした。


「こちらが、お話しした『風味良好』の皆さんです」


「初めまして、エドワード・グレイソンです」


領主は丁寧に頭を下げたが、その動作にも疲労が現れていた。


「鈴木花子です。よろしくお願いいたします」


「噂は聞いています。神饌調理術の継承者の方ですね」


「お恥ずかしいです」


「いえ、本当に助かります。もう、どうしていいか分からなくて...」


エドワードの声が震えている。


館の会議室で、エドワード卿から詳細な説明を受けた。


「半年前まで、この領地は王国でも有数の穀倉地帯でした」


エドワードが地図を広げる。


「しかし、ある日を境に、突然作物が育たなくなったのです」


「ある日というのは?」


ライトが聞く。


「6ヶ月と3日前...私の弟が事故で亡くなった日です」


エドワードの表情が一層暗くなった。


「弟?」


「はい。彼は農業指導を担当していました」


「領民にも慕われ、私よりも土地のことをよく知っていた男でした」


「事故というのは?」


「畑の視察中に、井戸に落ちて...」


エドワードが言葉を詰まらせる。


「私が一緒にいれば、助けることができたかもしれないのに...」


その時、花子は神饌調理術大全で読んだことを思い出した。


「もしかして...」


「エドワード卿、神饌調理術の古い文献に、『大地の呪い』について書かれているのを見たことがあります」


花子が慎重に口を開いた。


「大地の呪い?」


「はい。人間の強い負の感情が、大地全体に影響を与えることがあるそうです」


「私の感情が?」


「人間の強い負の感情が、大地全体に影響を与えることがあるそうです」


「では、どうすれば...」


「文献によれば、『大地の恵み復活術』という技術があるそうです」


花子が神饌調理術大全のページを確認する。


「ただし、非常に高度な技術で、準備も時間もかかります」


「どれくらい?」


「少なくとも数ヶ月は必要かもしれません」


エドワードの表情に希望の光が宿った。


「本当に...可能性があるのですか?」


「分かりません。でも、やってみる価値はあると思います」


「ただし、数ヶ月後では遅すぎる場合もあります」


ライトが現実的な問題を指摘した。


「まず、今すぐ領民の方たちの栄養状態を改善する必要がありますね」


「そうですね」


花子が頷く。


「私の料理で、少しでも体力を回復してもらいましょう」


「それと、保存の利く栄養価の高い食品も作れます」


「本当ですか?」


エドワードが身を乗り出した。


「はい。神饌調理術には、食材の栄養価を高める技術もあるんです」


「ただし、大量の食材が必要になります」


「食材の調達は何とかします」


エドワードが力強く答えた。


「王国の他の領地からでも、商人からでも、必要なものは揃えます」


「まず、明日の朝から領地全体を視察させていただけませんか?」


花子が提案した。


「問題の正確な把握が必要です」


「もちろんです。案内させます」


「それと、領民の皆さんにも直接お話を聞かせていただきたいです」


「分かりました。村の長老たちに声をかけておきます」


ミラが魔法的な観点から提案した。


「私も土地の魔力状態を詳しく調べてみます」


「僕は水源の調査をします」


ケンも協力を申し出る。


「農業用水に問題がないか確認したいので」


「ありがとうございます」


エドワードが深く頭を下げた。


「皆さんがいらしてくれて、初めて希望が見えてきました」


## その夜の作戦会議


エドワード卿から用意された部屋で、「風味良好」のメンバーは作戦会議を開いた。


「予想以上に深刻な状況ですね」


ライトが資料を整理しながら言った。


「でも、原因がある程度絞り込めました」


花子が神饌調理術大全を読み返している。


「大地の呪い...確かにそれらしい症状です」


「解決方法はあるんですか?」


ミラが聞く。


「『大地の恵み復活術』という技術があります」


「ただし、非常に複雑で、段階的に進める必要があります」


「どんな段階ですか?」


「まず、土地の生命力を回復させる」


「次に、領主の心の傷を癒す」


「そして、領民全体の健康状態を改善する」


「最後に、農業技術の指導と持続可能な体制作り」


ケンが首を振った。


「確かに時間がかかりそうですね」


「でも、やりがいのある仕事です」


花子が決意を込めて言った。


「これまでで一番大きな挑戦になるかもしれません」


「まずは明日の視察で、現状をしっかり把握しましょう」


花子が皆に向かって言った。


「それから、緊急の栄養支援を開始します」


「長期的な解決策は、その後に段階的に実行していきましょう」


『プルプル』


プルちゃんも賛成するように鳴いた。


「プルちゃんも頑張ろうな」


窓の外では、荒れ果てた畑に月光が降り注いでいる。


「きっと、みんなで力を合わせれば大丈夫」


花子は和包丁を見つめながら呟いた。


「おばあちゃん、今度は本当に大きな挑戦やで」


包丁が温かく光る。まるで応援してくれているかのように。


その夜、花子は一人で領地の未来について考えていた。


「料理教室では、少数の弟子に技術を教えた」


「でも今度は、領地全体の人々を救わないといけない」


これまでの冒険とは全く違う、新しい形の挑戦だった。


「でも、料理で人を幸せにするという根本は同じや」


プルちゃんが花子の膝の上で眠っている。


「明日から頑張ろうな」


異世界に来てから1ヶ月半。


平凡な主婦だった鈴木花子は、今や一つの領地の運命を左右する重責を担うことになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ