第7章 村役場にて
§1 ツキ回る
やはり課長に誘われてしまった。
主任は近ごろ、パチンコに勝ちつづけているので、夕方になって、そわそわしていたところだった。
「ちょっと一杯だけ、行こうや」
居酒屋は混んでいた。
課長はこのごろ、呑むとしつこくなる。
村の観光振興課は女性の職員を含めて三人。勤務時間中に話し合いすればいいものを、夕方になると何かと声をかけてくる。局長から観光振興について、やかましく言われているのだろう。
「今日はボク、お金払いますよ」
「そうか。村役場の安月給にしては、金回り、ええやない」
課長はズケズケとものを言う。
茶畑主任は胸のポケットから財布を出し、大事そうに掌で包んだ。
「このごろ、金運に恵まれてまして」
課長の野田が茶畑の財布をジロジロ見ている。
「なんや、これ! ヘビの抜け殻ちがうか? 気持ち悪!」
§2 タダのヘビではない
茶畑は先週の日曜、家族で赤沢高原へハイキングに行った。
南側を下って帰る途中、杉の枝にヒラヒラするものが引っかかっていた。ヘビが脱皮したものだった。ヘビは縁起がいい、と聞いていたので、財布の底に入れておいた。妻は嫌がって、茶畑の財布に手も触れない。
「これ、普通のヘビにしては、えらい短いなあ。いちおうシッポみたいなのは付いとるけんど」
言われてみれば、そんな感じだった。
二人は顔を見合わせた。
「出よう!」
急いで役場に戻った。村には飛んでもない、幻の生き物がいたのだ。話し合いは行ったりきたりしながら、一一時過ぎまで続いた。
§3 切り札
局長の奥山は自信がなかった。しかし、何もしないよりはいい。課長の作った企画書を村長に持って行った。村長の深山は慎重だった。
「ツチノコで観光客が集められるのなら、日本中の村や町が金持ちになっとるよ」
村長の言うように、ツチノコで地域起こしをしようとしているところは多い。もちろん、どこもうまく行ってない。
「いや、村長。実はウチには大変なものがありまして」
局長は主任に目で合図した。
ツチノコの抜け殻は、役場のみんなに希望を与えた。
「ツチノコ捕獲大作戦」が村議会に提案された。反対はなく、テレビや新聞で大きく取り上げられた。
§4 ネッシーにライバル
議会では次のことが決まった。すなわち
▽ツチノコを生きたまま捕えた者には三〇〇万円
▽死骸あるいは抜け殻、シッポなど体の一部でも持参した者には一〇〇万円
▽生きたツチノコを撮影(ネガあるいは画像データを付けること)した者には三〇万円
の賞金が、それぞれ出ることとなり、ツチノコの抜け殻の写真とともにマスコミ発表された。
「やっぱり、いるところにはいたんだ!」
全国のツチノコ・ハンターが、目の色を変えた。
また、このニュースは世界を駆け巡った。いくら待っても姿を見せないイギリスのネッシーに見切りをつけ、外国の関心も一斉にアジアの小さな国、日本に向けられたのだった。