最終章 タヌキに気を付けて
§1 どうした? 隆
隆は調子がよくなかった。
落ち込んでいる。漣や明子がわけを訊いても、はっきりしなかった。最近、学校も休んでいる。あんなに喜んでいた四国行きさえ、いやがるようになった。
クルマの中で苦しそうだったので、明子は隆を民宿で早めに休ませることにした。ひどい発作を起こしそうだった。
隆を明子に任せ、漣はタヌエにあいさつに行った。タヌエも最近の隆の変化に気づいてはいたが、なかなか言い出せずにいたのだった。
「ウチの動物たちと、何ぞあったんかいな」
「それが、何を訊いても答えないのですよ。今夜あたり喘息が出ないといいのですが」
漣は民宿へ引き上げた。
§2 忘れ物
タヌエは近ごろ、動物の家を一軒ずつ訪ねている。
動物たちに変わったことがないか、訊いて回っているのである。ひとり暮らしていたヤギのおじいさんが死んでいるのが、見つかったからだ。
村のグランドゴルフ仲間から「ここ三日、休んでいるので見に行ってほしい」と連絡があった。ヤギさんは昔、郵便屋さんをしていた。体力自慢だったが、ツチノコ騒動には心を痛めていたらしい。
何か月も続く騒ぎに、動物たちはうんざりしていたのだ。
「ツチノコが人間の前に出て行ってくれたら、静かな森に戻るのに」
そんなことを言い出すものも出てきた。それでは、みんなでツチノコを守ってきた努力が、水の泡になってしまう。
「どう? あんたら、えらいことになったなあ。ツッチは相変わらず悪さしとる?」
タヌエはツッチの家に顔を出してみた。
「それがな、毎日、ボーッとしとるんよ。この間も『なんで隆が来んようになったんや。なんぞ言うたんと違うか』って怒って」
タヌエはツッチを呼んだ。
村には世界中からツチノコハンターたちが押し寄せていること、隆が徳島にきても追い回され、そのストレスから喘息の発作を起こしかねないことなどを言い聞かせた。
ツッチは自分の部屋に行き、何かを持ってきた。イタドリだった。
「前に、隆君が忘れて行ったの。これがあれば喘息なんかへっちゃらやって言うとった。ボク、今夜、届けてやるよ」
タヌエがツッチを抱きしめた。
「分かった。お姉ちゃんが何とかするから」
<以下未公開>
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