第9話 なんでもあり
§1 アイディア村長
「ツチノコ捕獲大作戦」は大成功をおさめつつあった。
「こんな簡単な方法があったのなら、なんで早う言うてくれんかったんや。うちの連中も性格が悪い」
村長はすっかり有名人になり、毎日がご機嫌だった。
(ツチノコがおったらおったで、ブームが終わらんようにする。動物園のように、オリに入れて展示したら、いつも見物客がある。ツチノコまつりもええな。ほかの村や町に貸し出しても、カネは入る。おらんかったら、河童やニホンカワウソ、ニホンオオカミなど、いくらでも次の手はある。ここはなんたって、四国の秘境。何がおっても不思議ではない、とみんな思うとる)
アイディアマンの村長は、そんな考えにふけっていた。
一方、局長は落ち着かなかった。
肝心のツチノコについては、捕まえたという人はもちろん、見たという人も現れなかった。
(もし、ツチノコがいなかったら噓つきの「ツチノコ局長」になってしまう。子供や孫まで恥ずかしい思いをさせてしまう)
(万が一、ツチノコが見つかりでもしたら、もうお終い。すぐに飽きられる。世間は冷たい。元の貧乏村に戻ってしまう)
局長は野田課長や茶畑主任の話に乗ってしまったことを、後悔し始めていた。
§2 フェイクニュース
実際、取材スタッフを引き上げるテレビ局も出てきた。特番の数はめっきり減った。
「四国の山奥に降ってわいたツチノコ騒動。果たして、謎の生物はいるのか、いないのか。今日は徹底検証してみます。まずは、地元では昔から目撃談はあったのでしょうか。そこの治療院でうかがってみましょう」
テレビ局の扱いは慎重になっていた。
「あっ、先生だ」
登校前、朝食をとっていた隆が、真っ先に気づいた。
「ツチノコ? 河童? 出たのですか? フェイク(ニセ情報)でしょう。この高度文明社会で、マスコミがそんなことに踊らされてはいけませんな」
鍼灸師はレポーターを叱った。
「先生、いいこと言うよね」
漣と明子は顔を見合わせていた。
§3 破れかぶれ
奥山局長は野田課長を応接室に呼んだ。
「どうや? ツチノコは本当におるのやろか? 全然手掛かりがない。有力情報はゼロやない」
局長は頭を抱えた。
「森の動物たちと民宿の親子は、確かに何かを知っとるみたいなんです。特に子供は固く口をつぐんだきりですが、それがますます怪しい」
課長は隆のことが引っかかっていたのである。
「そんなら、森と民宿の周りに赤外線カメラを置いて、見張ればええやないか」
局長は信じられないことを言い出した。
「動物はともかく、民宿を監視するとなると、人権問題になりますよ」
課長には、とてもできないことだった。
「そんなこと言うとる場合かよ」