最高に素晴らしい天職
先生に大好きだと告白した。これで晴れて、わたしたちは両思い……、ん? 両思い……?
(違うっ! わたしは好きだって告白したけれど、先生は言っていない!!)
「先生はわたしのことをどう思っているんですか? 教えてください!」
「ん?」
「先生の気持ちを知りたいです!」
「まぁ、うん。いいと思っている」
なにそれ。とぼける気だな! なあなあにするつもりなら、こっちにだって考えがある。お試し妻を甘く見てもらっては困る!
わたしは立ち上がると、「ふ〜ん、そうですか」と気のない返事をした。
「先生の気持ちはわかりました。ベルシュパン屋に行くことにします」
「お腹が空いたのか?」
「違います。別荘に置き手紙があって、ベルシュと幸せになるよう、書いてあったんです。わたし、ベルシュと付き合います。毎日ベルシュパンを食べます」
「私を好きなのに?」
「だって……」
背中で手を組むと、拗ねたように唇を尖らせた。
「だって、好きだって告白したのに返事をくれない人なんてイヤ。わたしのことを好きって言ってくれる人と付き合いたい」
「それは……。私はそのようなことを一度も口にしたことがなく……」
「よーし、決めた! ベルシュパン屋に嫁ぐぞー! 斬新なパンを作って大儲けだ。先生、今までお世話になりました。さようなら」
頭を深々と下げる。踵を返そうとしたら……先生に手首を掴まれた。反動のままに、後ろから抱きしめられる。
「君は両親の愛情をたっぷりもらって育ったから、好きだと言うことに抵抗がないのだろうが、私は違う。君のようにストレートに思いを伝えるのは難しい。だが……」
先生の低い声が頭上から降ってくる。本当は耳元で囁かれたいのに、身長差があることが悔しい。けれど先生の胸の中は温かくて幸せだから、氷のように悔しさが溶けてしまう。
「言葉ではなく、行動で表してもいいだろうか?」
「うん」
先生の指が、わたしの右手に絡まる。そのまま持ち上げられ、わたしの指先に、温かくて柔らかなものが押し当てられた。
——指先への、キス……。
「きゃあー! はわわわわ……」
「ノアナの爪は確かに小さいが、かわいいな。このままでいいんじゃないか?」
「どうして……」
後ろから抱きしめられていて、本当に良かった。そうじゃなかったら、真っ赤になった顔を見られていた。
先生は意地悪さを含んだ声色で言った。
「ズボラな子がゴミ箱に入れ損ねたらしく、用務員さんがくしゃくしゃになったレポート用紙を届けてくれた。ゴミかそうでないのか、確かめてくれとね」
「そ、そんなことが……。心ヲ入レ替エマス。ゴミハゴミ箱ニ、チャント捨テマス」
「ノアナ。ラブレターをありがとう。嬉しかった」
「ラブレターじゃないです。実習レポートです」
「ラブレターなら百点だが、実習レポートならゼロ点だ。レポートの形式になっていない」
「…………ラブレターです」
笑った先生。先生の胸が動くのが、ふれた背中から伝わってきた。わたしたちの体が密着しているという事実に、顔から火を吹きそうなほどに恥ずかしくなる。わたしは誰ともお付き合いしたことがない、清純女子なのだ。
「先生。あの……心を読んで」
心を、ある想いで満たす。
(お腹すいた! ハンバーグが食べたい。ハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグ……!!)
先生が大声で笑い、腕が緩む。わたしはするりと抜け出すと、恥ずかしさを隠すために「えへへ」と笑った。
「心を読めるって便利だね。口にしなくても通じちゃう」
「そうだな。お腹がぺこぺこな妻のために、ハンバーグを食べに行くこととしよう」
わたしたちは街を歩く。少し、距離を置いて。生徒と教師の距離感がもどかしい。けれど、わたしたちは同じ家に帰る。焦ることはない。
先生が軽口を叩いた。
「ピーマンレストラン。空いているといいな」
「ピーマンレストラン⁉︎ なんでピーマン⁉︎ 大嫌いランキングの第四位なんですけど!」
「むふー」
「へ?」
「むふー。ぼふー。ふみゃあ。これらはユガリノス語なので、勝手に使わないように」
「なにそれっ⁉︎ ノアナ語を盗られた! お巡りさーん、泥棒がいますぅー!」
「勉強しているので邪魔しないでください。これがノアナ語だろう?」
「そんなバカな! 永久的に言うつもりないですけど」
堅物で陰気でつまらない授業をする先生が、冗談を言っている。
わたしには心を読む才能がないけれど……もしかして先生、浮かれている? わたしと一緒にいられること、喜んでいる?
もしそうなら嬉しい。わたしたちはもっともっと仲良くなれる。わたしの夢──両親のように仲の良い夫婦になりたい、が叶う気がする。
「ハンバーグ屋が見えてきた。たくさん食べなさい」
「先生もハンバーグを食べるの?」
「夜九時以降に肉を食べたら、消化不良を起こすことが確実だ。私はサラダとスープにする」
「先生ってば、胃弱なんだから。よし、十代の食欲っていうやつを見せてあげますよ! ハンバーグ六百グラムに挑戦だっ!!」
「肉と間違えて、フォークを食べないように」
「ぼふー! 肉とフォークを間違える人いる⁉︎」
先生が笑っている。わたしも大口を開けて笑う。
好きな気持ちが加速していく。
大嫌いだったユガリノス先生を、大好きになる日がくるとは思わなかった。人生って不思議。
二年後。わたしは学校を卒業する。生徒と先生の関係も卒業。
そのときわたしたちはどうなっているのだろう。
きっと、大好きを超えて、超大好きも超えて、愛しているに到達しているかもしれない。
わたしの天職がユガリノス先生の妻でよかった。世界一最高の天職だ。
♬.*゜♬.*゜ஐ Happy End ஐ♬.*゜♬.*゜
これにて物語は終わりになります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




