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大嫌いな先生のお試し妻になったら、謎に甘い生活が待っていました  作者: 遊井そわ香
第一章 天職検査の結果は……先生の妻!?
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先生を好きになれる気がしない

「うわぁ〜ん!! こんなのってひどいっ! わたしの天職が、陰気でダサいユガリノス先生の妻だなんてぇー! 神様の意地悪っ!!」


 検査結果を聞いてわんわん泣いていると、次の検査の人が来ているからと、青年検査官に中庭に連れ出された。

 青年検査官から渡された白いハンカチで、頬を流れる涙を拭く。

 

「ユガリノス先生って、そんなに最悪な人なのですか?」

「わたしが今まで出会った中で一番最悪です! 体が嫌味成分でできているのかっていうぐらいの嫌味男なんです! わたしの大嫌いな数学を教えているし、十歳も年が離れているし!!」

「大人の男性は包容力がある。君が甘えたいタイプなら、ピッタリじゃないかな?」

「絶対に甘えたくないですっ! 大嫌いだもん!!」

「ちょっと落ち着こう。座ろうか」


 青年検査官は、銀杏の木の下にあるベンチへと促した。

 春と呼ぶには今日の風は冷たく、太陽が陰っている。

 心が落ち着かず、体も冷えていくばかりで、先生の悪口が止まらない。


「わたしと友達はこっそり『モジャ髪』って呼んでいるんです。だって、鳥の巣みたいな頭をしているんだもん!」

「シュリミアさんは、パーマをかけているの?」

「天然です」

「…………」


 青年検査官は黙ってしまった。

 彼がなにを考えているかわかる。(髪の癖が強いのは、君もじゃ……)と思っているに違いない。

 髪の癖が強すぎる、わたしとユガリノス先生。もしも誤って子供ができたら、間違いなく、天パの子が生まれるだろう。

 せめてもの救いは、髪の色が違うこと。先生は黒髪で、わたしはコーラルピンク色。爆発する髪を抑えるために、わたしはツインテールに結んでいる。

 仲の良い男友達のベルシュはわたしのことを、「頭の左右にピンクブロッコリーを飾っているみたいだ」って冷やかすけれど、わざわざブロッコリーをピンク色に染めないでほしい。

 

 わたしは太ももに肘をついて頬杖をつくと、唇を尖らせた。


「わたしの天職、他にもありますか?」

「一つしかなかった。よほど、ユガリノス先生の妻という天職が向いているのだろう」

「ぼふー! 最悪っ!! モジャ髪の妻って、罰ゲームすぎるっ! 人生終わった。詰んだ。お金持ちになりたかったのにっ!!」

「金持ち……」


 青年検査官は額に手をやって、考える顔をした。


「もしかしたら……いや、断言はできない。裾野は広いのだから」

「なんですか?」

「ユガリノス一族って、知っている?」

「ああ、名前だけは。超お金持ちなんですよね?」

「そう。ユガリノス一族は、世界に影響を及ぼす人物を数多く輩出している名家。政治経済金融学問、陸海空の事業、医学、科学、地下資源、貿易、ファッション、芸術、魔物討伐。この世の様々な分野に、ユガリノス一族が関わっている」

「へぇ。先生もその一族の人?」

「その可能性はあるけれど……。ユガリノス一族の上位の家柄なら金持ちだけれど、末端の家柄なら、まぁ、平社員のようなものだから……。ユガリノス先生は、上位の家柄出身という可能性は……」

「先生はお金持ちじゃないよ。だって、サイズの合っていないダボっとした黒服を着ているもん。洋服を買うお金がないんだよ。それか、死神コスプレ愛好家かもしれない」

「死神コスプレか。ハハッ! 君っておもしろいね」


 青年検査官は、気のいい顔で笑った。


「シュリミアさんは先生を嫌っているようだけど、天職検査でノシュア・ユガリノスの妻という結果が出たからには、間違いなく相性がいい。僕も、君のような明るくて元気なタイプの子は、落ち着いた大人の男性が合うように思うし」

「そうですかぁ? 全然合わないと思うんだけど……」

「教師の顔と、私生活の顔は違うはずだ。まずは、学校以外で会う時間を作ってみたらどうかな?」

「う〜ん……」


 空を見上げると、銀杏の枝が灰色の空へと伸びている。新芽が風に吹かれる様は、春を喜んで踊っているよう。

 わたしがどんなに落ち込もうとも、季節は春色に染まっている。


「先生のこと、好きになれる気がしない。お金をくれるっていうなら、偽装結婚をしてもいいけど……。っていう程度の気持ちしか持てない」

「これは、話さなくてもいいと言われたのだけれど……」


 青年検査官は、ためらいがちに口を開いた。


「そのハンカチ、ユガリノス先生のものだよ。渡すよう、頼まれた。ノアナさんが号泣しているのを見て、放っておけなかったのだろう。先生なりにノアナさんを心配している。そのときに聞いたのだけれど、シュリミアさんは親を亡くして学校を中退する気なんだって? 先生は、卒業まで学ばせてあげたいと言っていた。学費を出してあげたいって」

「え? 先生が学費を出してくれるの?」

「そう」

「あの意地悪なユガリノス先生が?」

「僕にはユガリノス先生が悪い人には見えない。教育者として厳しいだけじゃないかな」


 涙で濡れてしまった白いハンカチ。アイロンで折り目がつけられた清潔なハンカチは、神経質な先生の性格を表している。

 辺りを見回した。先生の姿はない。


「どこに行ったんだろう?」

「噴水広場で待っているそうだ」

「わたし、行ってみます。話す時間を作ってみようかな」

「それがいい。君たちの未来に幸運を!」


 わたしは青年検査官にお礼を述べると、検査会場から徒歩五分のところにある、噴水広場へと走った。




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