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がんばれ! ハルイチくん

作者: しゅうらい

「や……やっと書き終わった……」

 そう言って俺、佐藤 ハルイチは机に突っ伏した。そう、ラブレターを書き終えたのである。

「ふっふっふ。この時代にメールではなく、わざわざ手紙というのがいいのだ」

 何度も何度も書き直して、やっと出来上がったこの手紙。実は、クラスメイトのある女子に渡すために書いたのだ。

「受け取ってくれるかな、久保田さん……」

 久保田さんというのは、俺のクラスメイトの女子でスタイル良し、性格も良し、先生受けも生徒受けもいいのだ。本当完璧な女子である。

「そんな女子に俺は今日、告白をする!」

 これは俺にとって一大イベントなのである。頑張れ、俺!

 俺は気合を入れなおして、手紙をカバンに入れて家を出た。

 まずは中学校について教室に入ったら、久保田さんに挨拶をしよう。好印象を与えておくのだ。教室に入ると、ちらほら生徒がいた。久保田さんは窓際の席で本を読んでいた。チャンスだ!

「あの、おはよう、く……」

「おはよう! 久保田さん。何読んでるの?」

 俺が挨拶しようとしたら、他の生徒が先に声をかけてしまった。おかげで俺の右手は行き場をなくしたので静かにおろした。

(いやいや、まだ今日は始まったばかりだ。くよくよしてたらいかん!)

 俺は首を左右に振って自分の席に着いた。

 1時間目は美術である。久保田さんの隣には座れなかったけど、1つあけてなら座れたぞ。

「では、これから目の前にある物をデッサンしてもらう。ちゃんと観察するんだぞ」

 先生の声を合図に、皆シャカシャカと描き始めた。いかんいかん、俺も描かないと。

(久保田さんは、どんな風に描いているんだろう)

 俺は気になってそぉーっと見た。すごい、ちゃんと物をとらえている。

「こら、佐藤! 今日は人物画じゃなくて、静物画だぞ?」

「え?」

 よく見ると、俺は目の前の物でなく、久保田さんを描いていた。しかし、俺の画力はほめられたものではないので、誰も久保田さんとは気づかなかった。でも、皆に笑われたのは恥ずかしかった。

 2時間目は体育でハードル飛びである。よし、ここでいいところを見せるぞ。

「次、佐藤!」

「はい!」

 こんなのひょいっとジャンプすれば大丈夫。俺は駆け出してジャンプした。結果は全部倒して終わった。しかもタイムも散々であった。

「おい、佐藤。ハードルは飛ばなきゃだめだろ?」

「すみません……」

 よく考えてみれば、俺はそんなに身体能力が高いわけではないことに今気づいた。がっかりである。痛いだけで終わってしまった。

 次は数学と社会であるが、ここでは俺はいいところを見せれる自信がない。なぜなら、苦手な教科だからだ。そんな中でも、久保田さんは先生の問いにちゃんと答えていた。そう、頭もいいのである。

(すごいなー、久保田さんは……)

 そして授業が終わり、昼食の時間である。俺たちの中学校では給食がないので、各自お弁当や購買で買ったりするのだ。

「ふふふ……今日のお弁当はちょっと違うぞ」

 そう、母親に無理を言ってカラフルで健康にもいい弁当を作ってもらったのだ。まぁ、母親には散々文句を言われたが。

「さぁ! 久保田さん。これを見てください!」

 俺が勢いよく振り向いたら、そこに久保田さんはいなかった。

「あれ? どこにいったんだ?」

 俺が辺りを見回していると、もう廊下を出て、友人と遠くに行っていた。

(しまったーっ! また出遅れてしまった……)

 俺は追いかけることも出来ず、静かにおいしそうな弁当を食べ始めた。

「うん……おいしい。母さん、ありがとう……」

 今日は昼までなので、後は掃除をして帰るだけである。ここでチャンスをものにしなければ、俺の学校生活が終わる!

 そんなことを考えていると、また久保田さんを見失った。

「やばい! もう帰ったのか?」

 彼女は部活に入っていないので、多分そのまま下校したに違いない。俺はカバンからラブレターを取り出し、ダッシュで下駄箱まで走った。

(どうか間に合ってくれ……っ!)

 途中で先生に走っていたのを叱られたけど、そんなの関係ない!

「あ! いた。久保田さーん!」

 彼女はもう校門の近くまで行っていたので、俺は大声で彼女の名前を呼んだ。

「え?」

 彼女は振り返ってくれたのに、俺は通りすがった野球部の連中のランニングに巻きこまれていた。

「ぎゃああぁぁ!」

 野球部が通り過ぎた後には、倒れている俺だけがいた。

「き、今日は厄日か? 全然うまくいかない……」

 ふと右手を見ると、ラブレターがなかった。

(え! さっきまで持っていたのに!)

 俺が上を見ると、それはヒラヒラと舞っていた。いかん、あれを誰かに見られたら、本当に学校生活が終わる!

 俺は手を伸ばしたが届かず、それは近くにあった手洗い場に置いてあったバケツの中に落ちた。

 俺は慌ててバケツをのぞいたが、中には水が入っていた。ラブレターは残念なことに沈んでいた。

(いやあぁぁーっ!)

 あんなに頑張って書いたのに、何度も書き直して出来たのに……

 さすがに俺はへこんでその場に座りこんだ。

「あの、大丈夫?」

 すると、頭上から可愛らしい声が聞こえてきた。

「え……?」

 俺が振り返ると、そこにはあの久保田さんが立っていた。

「あの、同じクラスの佐藤くんだよね? よかったらこれ使って?」

 そう言うと、久保田さんは俺にハンカチを渡してくれた。

「ほら、顔ちょっとすりむいてるでしょ?」

「あ、本当だ」

 まさか初めて久保田さんと話す内容がケガの話になるとは。しかし、これは最後のチャンスだ! ラブレターはもうないけど、やるんだ、俺!

「あ、あの! 久保田さん」

「なに?」

「あの……入学した時から好きでした! 俺と付き合ってください!」

 よし、言った! もう後には引けない。久保田さんはというと、ぽかんとしていた。まぁ、そうなるよね。

「えっと、私そういうのまだわからないから、友達からとかじゃだめかな?」

「え? 友達でいいんですか?」

「もちろん。これからよろしくね、佐藤くん」

「は、はい!」

 俺の1日は散々だったが、やっとクラスメイトから友達にランクアップしました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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