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第七話 

    第七話 男同士

 中間試験で赤点だった者への補習が続く。一学期の中間試験で欠点を取ったのは一年生で悠輔ただ一人。英語一科目だけとはいえ、横手高校始まって以来の不成績だった。

 美人の青山光里先生の個人事業を受けるのだと、男子生徒からはうらやましがられたが、悠輔は塞ぎ込む。厳しい補修に付いていけない。成果は上がらない。

 悠輔は見るからに気が塞いでいく。

 見かねた豊は、昼休みに悠輔をキャッチボールに誘う。

「いや、俺、野球部のピッチャーの球なんて捕れないよ。」

渋る悠輔を豊は強引に誘う。

「いいから、遊びで軽く投げ合うだけだから。」

 グローブは豊のを悠輔に貸す。ボールは誰かが教室の隅に置きっぱなしにしたままの軟式を使うから、悠輔相手なら、豊は素手でも大丈夫。

「よし、最初はこのくらいの距離な。軽く投げてくれ」

十メートルほど離れ、豊は構える。悠輔が泣けた球はあらぬ方向に飛び、豊は走って拾う。

「ごめん」

「ドンマイ。じゃあ、俺が投げるな。グローブを胸で構えて。手は横にして、右手を後ろに添えて、そうそう。じゃあ、行くぞ」

豊が軽く投げた球は、悠輔が思った以上の速度でグローブに飛び込んだ。つかみ損ねて取り落とす。

「痛え。もうちょっとゆっくり投げてくれ。」

「これ以上遅いと、かえって取りにくいぞ。軟式だから痛くない。ほれ、ボールを拾って。投げろよ。もうちょっと左足を前に出して。腕の振りは軽くでいいよ。」

悠輔は言われたとおりにする。ボールは豊の腹のあたりに行く。

「そう、さっきより良くなった。投げるぞ。ボールをよく見て、グローブに入るタイミングを計って手を軽く閉じるんだ。行くぞ」

今度も正確に、悠輔の構えたグローブにボールは飛び込む。悠輔は何とか取りこぼさずに捕球した。

「ほら、取れた。よし、投げてくれ。さっきよりちょっと力を入れて、俺の胸元をよく見て投げるんだ。」

今度は豊の頭あたりにボールは飛ぶ。

「ほら、上手くいった。ボールを離すタイミングがちょっと早いけど、まあ、慣れていけば修正が効くかな」

 二人はキャッチボールを繰り返す。豊は段々と距離を広げていく。次第に悠輔の息が上がっていく。

「だいぶ良くなったな。昼休みが終わるから、これくらいにしよう。どうだ、悪くないだろ」

「そうだな。キャッチボールって意外に面白いし、運動になるんだな。」

「そうだよ。野球の基本はキャッチボールさ。でも軽く投げるだけなのに息が上がるって、おまえ、運動不足だよ。身体を動かすのは神経にもいいんだ。少しは気が楽になったか?」

「ああ。だいぶ発散できた。ありがとう。」

「気が滅入ったときは声を掛けてくれ。おまえ、センスは悪くないよ。今からでも野球部に入らないか?」

「それは勘弁してくれ。」

 悠輔は勉強を教える、豊は体育を教える。二人の関係が深まっていく。

 そのころ、豊が付き合っていた女子はそれが面白くない。

「春木くん、日曜日に映画見に行こ。」

「ごめん。今度の日曜日は悠輔に数学を教えてもらって、その後は野球する約束をしてるんだ。午後は部活があるから、夜ならいいけど、あまり遅くなってはまずいよね。」

「それ、日曜日の昼間じゃないと駄目なの?」 

「野球で遊ぶより先に勉強しないと、悠輔の機嫌が悪くなるんだ。遅くなると、あいつはそれを言い訳にして運動を切り上げたがるし。午前中に勉強して軽く運動、あいつのうちで昼ご飯を食べさせてもらうて約束なんだ。」

「私に付き合ってよ。あんなガリ勉、春木くんが相手することないわ。」

「俺の親友を悪く言うな。」

日頃は朗らかな豊の機嫌が悪くなる。それがきっかけで、その子とは疎遠になっていく。

 豊はさして気に病みはしなかった。向こうから告白してきて付き合っているのに、かまってくれないと怒り出す女の子は前にもいた。豊が野球に夢中なのは知っているはずだ。ましてや友情をないがしろにさせようとする女など、こちらからお断りだ。

 人付き合いの少ない悠輔がそれを知って、親友に感謝しつつ気に病むのは、随分と後の事だった。


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