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普通科高校の普通じゃないラブコメ男 

  第三話 乙女三人

 横手高校一年六組。隣の中学校からフェンスを乗り越えて、あさ美が入ってくる。

「お兄ちゃん、数学教えて」

「毎度毎度、なんで宿題は前の日にしておかないんだ」

「分かるところは自分でやってるの。この三角形の辺の長さを求める問題だけでいいから、教えて」

悠輔はわざとらしく溜息をつきながら、あさ美が差し出す教科書を見る。

「「三平方の定理」は正方形の中に正方形がある図を作ると証明できるんだ。」

悠輔は図を書いて説明する。

「この正方形の面積は、縦掛け横の長さだと(a+b)×(a+b)で、(a+b)の二乗。中の正方形と四つの直角三角形の合計だと……」

図に書き込みを入れながら式を展開していく。

「だから直角三角形のa2+b2=c2になる。この公式にあてはめれば、直角三角形の辺の長さは計算できる。この問題だと……やってみろ」

あさ美は二辺の二乗を足し算する。

「えーと、二二五か。これが二乗になるのが一番長い辺の長さね」

「そう。二二五を因数分解してみよう。」

悠輔は式を書きながら割り算をしていく。

「五がふたつ、三がふたつ……」

「そうか。二乗だから一つずつにすると五と三。掛けると一五。」

「はい、正解」、と悠輔はあさ美の頭をなぜる。

あさ美は満面の笑みを浮かべる。

「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんに教えてもらうと、苦手な数学がスラスラ解けちゃう。」

「ほんと、東山君、教え方が上手いわ。」と、隣の席の都子が口を挟む。

悠輔は照れながらも嬉しいそうな表情をする。都子は、この人は本当に可愛いな、お調子者の気があるけど、と思う。

「それはいいんだけど。鮎帰さん、でしたっけ。度々、他校に入ってくるのはいただけないわ。」

「ケチ。少しぐらいいいじゃない。ずっと一緒にいたいのを我慢してるの。」

周囲から歓声が上がる。囃し立てた男子生徒を都子はにらみつけて黙らせる。

「大事なお兄ちゃんの都合も考えなさい。東山君だって始業前の準備もあるんですからね。」

「お兄ちゃんのお世話はあたしがするわ。あなた、何なのよ」

「私はこのクラスの委員長です。風紀や秩序に責任があります。」

横手高校はクラスの成績一位が委員長になる。都子は入学試験で一番の成績だったので、自動的にクラス委員長に就任している。

「委員長だから? 違うわ。あなた、お兄ちゃんに気があるんでしょ。だから、あたしがお兄ちゃんに甘えるのが気に入らないのよ。」

「甘えるだけの「妹」より、私の方が東山君のためになるわ。東山君は私の方が相応しい。」

二人の女がにらみ合う。

「二人とも感情的になって、悠輔の気持ちも無視して、なにを先走ってるの」

いつの間にか多喜が教室にいる。

「生徒会長には関係ない話です。あなたもあなたで、一年生の教室に何の御用です?」

「生徒会の委員長会議の日時を伝えに来たのです」

「生徒会長がわざわざ?」

「悠輔の様子を見に来たのもあります。二人の女の子に挟まれて、さぞかしご満悦だろうかと。悠輔、あなたは三人のうち、誰を選ぶの? それとも、いつまでもお母様に甘えるつもりですか?」

「母さんが俺にべったりなの。人をマザコン扱いして」と悠輔

「「扱い」じゃなくて、マザコンそのものよね。あたしは美幸おばちゃんと仲いいから気にならないけど」とあさ美。

「美幸さんって?」と都子

「俺の母さん。いつまでも子離れしない、困った人」

「それはまあ、おいといて。「三人」?」と都子

「悠輔のお世話が一番できるのは、わたくしです」と多喜。

教室がどよめく。

「盛り上がってるところに悪いけど、そろそろホームルームを始めたいんですけど。委員長、号令をお願い。」

教壇に担任の青山光里あおやま ひかりが立っている。若くて可愛らしい顔立ちなので迫力はないが、それだけに怒っているのが分かりやすい。

「お兄ちゃん、またね」、あさ美は脱兎のごとく逃げ出す。

「では、ごきげんよう」、多喜は優雅な早足で去って行く。

「東山君、後で職員室に来なさい。事情を説明してもらうわ。君は……」

「起立!」

光里が説教を始める前に、都子の凜とした声が響く。

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