第二三話
第二三話 乙女三態 その三 美少女の不幸 神楽女都子
三人の女に、それぞれのアピールする場を設けるとの美幸の提案。三人目は都子。
「教室で?」、自席に座るよう促され、いぶかしげに尋ねる悠輔を都子は見つめる。
「放課後だから誰も来ないわ。日頃、悠輔くんが隣にいるここが一番、この話がしやすいの。」
悠輔は無言で先を促した。
「まず、私のことから話すわ。
私は幼い頃からチヤホヤされて育ったの。嫌みな自慢に聞こえたらごめんなさい。そこそこのお金持ちの家に生まれて、容姿も悪くないから。」
そう、都子は美しい。この教室でも、同級生の多くが事業中に都子を見つめてぽーっとなるほどに。
「女の子はそういうのに敏感なの。物心つく頃から、母は私を会社の広告塔にしようとしたから、いろんな人と接したせいね。可愛くお願いしたら、たいがいの男は私の言うことを聞いてくれたわ。便利だったけど、勘違いして言い寄ってくる男の子にウンザリしてきたし、男を上手くあしらう自分が嫌になってきたの。
だから私は自分を高める努力をした。勉強でも、スポーツでも。そうしたら才色兼備だともてはやされて、下卑た男子がもっと寄ってくるようになって、そんな男に負けないように更に努力して……中学時代はけっこうキツかった。」
「それで成績が学年でトップ」
「学業は余技みたいなものね。下品な男から身を守るために、私が身につけたのは観察眼と、人をあしらい、上手く使う能力。」
「いま、恐い女って思ったでしょ。でも、仕方ないの。家にお金があるせいもあって、変な男に誘拐されかかったこともあるんだから。私も懸命だった。」
「美人は苦労するって、親父が言ってた。」
「お父さんって、あんな美人のお母さんに、どんな苦労させたのかしら。いや、その話はまたにしましょう。」
「高校生になると、下心のある男の視線がもっと激しくなった。ところが、隣の席の平凡な男子は普通に私を見るの。後になって分かったわ。悠輔くんは綺麗で優秀な女達に囲まれてるから、私の容姿にどうってことないのね。
「お姉さん」の乙原先輩は良家の御嬢様そのもの。「立てば芍薬、座れば牡丹……」って意味がよく分かったわ。
「妹」のあさ美ちゃんはこの教室に入ってくるだけで男子がざわつくくらい可愛らしい。性格も素直でみんなに好かれる。
極めつけはお母さんね。あんな優秀な人はいないわ。しかも四十歳過ぎてあの美貌は反則よ。あんな才色兼備に育てられたら、女を見る基準が狂っちゃうわ。」
「そういうものかな?」
「どこまで鈍感なのかしらね。」
都子は悠輔の間近に顔を寄せる。
「ほら、動揺してない。急に近づいたから驚いただけで、美人にドキドキしてる顔じゃない。」
あなたのことは何でも分かる、とでも言いたげな都子に悠輔は驚く。
「自分のことを美人だなんて。私、本当に嫌な女ね。」
「いや、都子は美人だよ。すごく整った顔をしてる。」
「ありがとう。あなたに言われると嬉しいわ。私の外見や家の金を目当てで欲ついた目を向けてくる男にはガードするけど、東山君の前だと、素直に自分が出せる。」
「最初は東山君の態度に興味が沸いたの。観察してたら、裏表なく頑張るところ、真面目な性格とかを知って、どんどん好きになっていった。私、初めて男の人を好きになったの。東山君の全部が好き。博識なのも、調子に乗るととんでもない能力を発揮するのも、努力の割に報われない姿も愛おしいわ。」
「最後に、素直に喜べない言葉が……」
「ごめんなさい。言い過ぎた。でも、残酷だけど事実よね。あんなに英語を勉強しているのに成績が上がらないのは、青山先生の教え方が悪いだけじゃない。東山君の気質なの。
私なら、そんなあなたを受け入れて、支えてあげられる。
私は不安定で危ない女かもしれないけど、決してあなたを裏切らない。精一杯優しくする。」
やや興奮気味の都子に悠輔は答える。
「都子の言うとおり、俺は大した男じゃない。思い知らされるときがある。そんな俺、甘えてダメになっちゃうかも。それでも優しくするの? 俺でいいの?」
「あなたはダメな男じゃない。私なら、あなたの才能を最大限引き出してあげられる。私と一緒なら、あなたは偉大になれる。」
真に受けていいのかと思いつつ、悠輔は信じてみたくもなった。自分には想像もできぬ修羅を生きてきた少女の言葉には説得力があった。




