表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

第二話

第二話 お姉さんが来た

 県立横打高校一年六組。始業前の教室に二年生女子が入ってくる。クラスの男子生徒たちがざわつく。

「おい、あの美人」「生徒会長だよな」「名家・乙原おとばる家のご令嬢の」

 それらの声に反応することもなく、長身で真っ直ぐ背筋を伸ばした上品な足取りが悠輔の席に向かう。

「悠輔、お弁当を忘れてますよ」

「あれ? でも、どうして多喜たき姉さんが?」

「お母さまに頼まれたのです。早く出るのなら、ちゃんと言っておきなさない。それと、いい加減、携帯電話を持ちなさい。人付き合いをしないと、寂しい大人になりますよ。わたくしがいつもあなたのお世話をできるわけではないのです。」

「携帯はまあ、そのうち。いつまでも子供じゃないから、姉さんの世話にならなくても……」

「では、今度忘れ物があったら、お母さんが届けに来ますよ。」

「それは、勘弁して。」

「では、ちゃんとすることですね。」

 多喜は弁当箱を悠輔の机に置くと、生徒たちに向かって優美にお辞儀する。

「皆さん、お騒がせしました。ごきげんよう。」

 飾り気がまるでない制服でも肌の白さと細やかさが際立つ容姿、長髪を律儀に三つ編みにする――校則で決まってはいるが、時代錯誤で誰も守らないし、教師も違反を注意しない――地味な髪型でも分かる艶やかな黒髪、雅楽の中を歩くような優雅な足取り。静かに去って行く後ろ姿に、男子からは憧れの視線、女子からは羨望のまなざしが注ぐ。

 「「妹」の次はお姉さん?」 と、隣の席の都子。

「いや、家が近所で幼稚園の時からの幼なじみ、乙原多喜おとばる たき。年はひとつ上だから多喜姉さんって呼んでる。」

同級生たちが集まり、矢継ぎ早に質問してくる。

「世が世ならの名家で、物凄い資産家だって、本当か?」「二年生に進級したらすぐに生徒会長って、どれだけ優秀なんだ?」「あの美貌だから、取り巻く男が百人もいて、親衛隊が登下校の送り迎えをしてるって、本当か?」

悠輔は答える。

「そんな大層な家系かは知らない。今は落ちぶれて大した金はないって。昔は市街地の外れにある家から駅まで、自家の土地だけを通って行けた、って聞いたことあるけど、戦前の話だって。家は大きいけど、高価な調度品なんかないよ。離れに小さな茶室があるのが贅沢だけど、価値のある茶道具なんてないって、お婆さまが言ってた。

 頭はいいよ。昔から、成績は学年順位のトップばかりじゃないかな。茶道とか日舞とか習ってるから品が良くて、子供の頃から大人に好かれるなあ。

 この学校の生徒会長って、二年生がなるもんだろ。年度始めの選挙なんて有名無実で、ほとんど先生の推薦で決まってしまう。

 親衛隊なんて知らない。むしろ友達は少ないと思う。性格温和しいし、近寄りがたい雰囲気あるから。俺は子供の頃から一緒だから平気だけど。」

 「その「世が世なら」の御嬢様に好かれて、何かと世話を焼かせてる、ってこと?」

都子は悠輔を真っ直ぐに見つめる。

「ただの幼なじみ。あさ美の時もそうだけど、やけに絡んでくるなあ。」

「好きな男に近しい女は、そりゃ、気になるわよ。しかもあんな非の打ち所のない美人。あなたって、何者なの?」

 そういう自分だって結構な美形じゃないか、と悠輔は思ったが、口に出せずにうつむいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ